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48話 炎渦の聖域
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初心者強化合宿2日目。
朝食を終えた俺達は、支給された昼食を受け取り班毎に整列すると、第一班から順に湖に沿って行軍を開始した。
行軍と言えば大げさだが、やってることは自然豊かで美しい湖に太陽の光が乱反射するのを見ながらのピクニックである。
湖の対岸が見えないどころか水平線まで見えてるんだが、湖でか過ぎやしませんかね?
確か地平線や水平線が見えるのって5キロを超えたくらいだっけ?
地球とは星としての大きさが違うかもだから正確にはわからないけど、それでも大きすぎることは確かである。
まぁ水平線って見るの好きだからいいんだけどね。
美しい湖の水平線を見ながらのピクニック。
楽しませてもらうとしよう。
しかし、そのピクニックも2時間を過ぎるといい加減うんざりするものである。
いくら水平線が好きでも30分もすれば飽きてくると言うものだ。
なのでその間で色々考えながら、ベースLv35分のポイントを使ってボーナススキルの見直しをする。
〈人語共用語Lv2〉
〈鑑定Lv3〉
〈アイテム収納空間Lv1〉
〈ジョブ追加Lv1〉
〈詠唱短縮Lv2〉
〈クールタイム減少Lv2〉
〈ブレイブハートLv3〉
〈ブレイブハート〉はいざという時の保険として外し辛いので、この14ポイント分のスキルは今後固定で良いかもしれない。
次に経験値は出来る限り稼いでおきたいので〈獲得経験値増加Lv10〉を習得しておく。
残り11ポイント……。
昨日の戦闘で分ったのだが、〈ブレイブハート〉は敵に恐怖から平常心を取り戻すには有効ではあるが、混乱状態での冷静な思考が出来というものではない。
なので、どんな状況でも冷静に対処できるように〈ブレイブハート〉と同じ精神作用系スキルの〈冷静化Lv3〉も取っておく。
〈クリアマインド〉で冷静になっても恐怖心が消えるわけではないので、〈ブレイブハート〉は外せない。
感情操作系と言えばいいのか精神作用系と言えば良いのか細かいことは分らんから後で誰かに聞いてみよう。
あと8ポイント。
〈カードドロップ率UP〉にでも振っておくか?
これでドラゴンフライカード大暴落だぜ!
……いや暴落したことでその後何が起きるか分らんからダメだな。
すぐに外す。
〈カードドロップUP〉は〈精力増強〉と同じで、レベルが存在しない。
〈アイテムドロップUP〉〈レアドロップ率UP〉にもだ。
もうひとつ位精神作用系を取っておくか?
罪悪感や躊躇を無くす〈冷徹化〉とか……は必要ないかな。
出来れば習得したら自動発動し続けるパッシブスキルの方が忘れないし、MPも消費しないから好きなんだけどなぁ。
現に称号の【魔法戦士】にある固有スキル〈マジックソード〉とか存在を忘れてるもんな。
戦闘に入ったら自動発動する設定とか出来れば良いんだが、無いものはしょうがない。
全体に影響が出ない範囲で付けられそうなのはこんなところか。
残りは〈MP自動回復〉に全振りしておいた。
次にジョブスキルの方に目を向ける。
現在のジョブはファイターLv33、マジックユーザーLv29。
ファイタースキル
〈MAXHP増加Lv10〉HPの最大値をLv×3%UP
〈体力増加(小)Lv10〉体力ボーナスにLv×1UP
〈筋力増加(小)Lv10〉筋力ボーナスにLv×1UP
〈槍収れんLv2〉槍のATKをLv×1%UP
〈プロボック〉敵を挑発してのターゲットを自分に引き付ける
マジックキャスタースキル
〈ファイヤーアローLv5〉
〈コールドアローLv3〉
〈サンダーアローLv3〉
〈コールドボールLv3〉
〈コールドストームLv5〉
〈魔力増加(小)Lv10〉魔力ボーナスにLv×1UP
昨日の失態を考えて属性は出来るだけバランス良くばらけさせた。
もう完全に物理攻撃を捨てている感じではあるが、ファンタジーなスキルではなく通常の技術で何とかしてみようと思ってのこれである。
ついでにステータスも弄りなおす。
筋力:1+15
体力:1+10
敏捷:80
魔力:55+20
あとは昨日掴みかけていた敏捷70以上の世界を練習したいところだな。
クサンテのしごきで行軍中にあれを試すなんて余裕も気力も無かったし。
「そろそろ目的地ですにゃ」
「ちー!」
俺のすぐ後ろ、最後尾に居たモーディーンさんの声に、第三班にして第6PTの新たなメンバーとなったミネルバが、首だけを真後ろに向けて返事した。
首が180度回転してる!?
こわっ、こんなの完全にフクロウじゃないか!
そのミネルバだが、生まれたばかりなので戦わせる気は無いが、経験値を入れておいたほうが良いだろうと連れてきた訳だけどどうなる事やら。
しばらく歩いていると、湖の方から大きな羽音が聞こえてくる。
ドラゴンフライLv10
属性:なし
耐性:なし
弱点:火属性ダメージ2倍。
状態異常:なし
ドラゴンフライLv12
弱点:火属性ダメージ2倍。
状態異常:なし
ドラゴンフライLv9
弱点:火属性ダメージ2倍。
状態異常:なし
羽音に気付いて目を向けると、一見すると馬鹿でかいトンボが湖の水面を高速で飛んでいるのだが、その手には大きく鋭いフック状の鉤爪が両前足に二本ずつ生えており、顎には大きく鋭い牙が付いていた。
なんだあの厳ついの……あんなのに捕まったら、そのまま空に連れ去られて牙で首が飛ばされるんじゃないのか?
当然向こうも俺達を発見しているのだが、流石にこちらのこの数では襲ってこないようす。
そう思っていると、3匹は上昇し、かなり高いところでなにやら鳴き始めた。
カカカチチチチチカチカチチチカチカチカチカチカチチカチカチ
カチチカチチカチカチチチカチカチカチカチカカカカカチカチカ
あーこれ知ってるわー、なぜだかすごく知ってるわー。
2~3年に一度テレビで放送される劇場アニメで見たことあるわー。
「いやな予感しかしないんだが……」
「奇遇ねぇ、私もよ」
「右に同じです」
前に居たレスティーとユニスが俺の言葉に同意する。
「戦闘態勢用意! レスティー、アーヴィン、いつでもファイヤーストームを撃てるようにしろ!」
「うふっ、任せなさぁ~い!」
「ふっ、僕の荘厳なる業火の旋律に羽虫が踊る様をとくとご覧頂きましょう!」
アーヴィンが全然いけてないセリフを吐いていると隊の前方でも慌しい怒声が飛んでいる。
「モーディーンさん!」
視線にいつでもいけるという意思を込めて彼に問いかけると、モーディーンさんはそれを察して大きく頷く。
「トシオくんの思うタイミングでいつでも仕掛けて良いですにゃ」
「はい! どうせ群れが集まってから攻撃してくるつもりだ、なら集まったところを片っ端から焼き払うぞ!」
俺の意図を皆に伝えると、第一&第二班から火矢や氷矢が散発的に発射され、それに釣られてアーヴィンも詠唱を開始した。
「アーヴィン、MPの無駄だ! 前の奴らに合わせるな!」
「渦巻く業火よ~~我がぁぁ~敵をぉぉぉ~」
俺の注意を聞かずに、歌いながら詠唱を続行するアーヴィンの前にクサンテが行くと、鋭い爬虫類の眼光で歌う魔法使いの顔を覗き込んだ。
「やき~…、やき…、や、やだなぁ~、今のは呪文では無くてただの発声練習ですよ~、ラララ~!」
また意識が飛ぶ程蹴られたく無いのか詠唱を中断して誤魔化すアーヴィン。
クサンテ姐さんアザッス!
そうこうしていると遠くから蚊柱の様な無数の黒い粒が集まってきた。
何万匹いるんだよアレ?
確実にやばいだろ……。
距離が離れているからただの黒い粒の群棲だが、あの一つ一つが今も魔法を回避して飛び回ってるあのドラゴンフライに違いないのだ。
クリアマインド。
常用は避けたほうが良いかもなスキルでは有るが、冷静に対処しなければならない案件なので試しに使ってみる。
発動させると、まるでノイズ交じりだった思考が、嘘のように不純物が消え去リ心の余裕が生まれる。
んー、流石にあの数はやばい。どう考えても今の俺達じゃ範囲魔法を使ってもMPが足りない…。
ここはベテランの意見を仰ぐべきだ。
「モーディーンさん、流石にあの数は無理だと思うんですがどうすればいいですか?」
「そうですにゃぁ。ですが、ドラゴンフライの機動力ではこのまま逃げてもすぐに追いつかれてしまいますにゃ。徹底抗戦以外道はありませんにゃ」
そう言って腰の刺突剣を抜いて蚊柱を見据えるモーディーンさん。
どうやらやるしかない様だ…。
ステータスウィンドウを開きなおして〈獲得経験値増加Lv10〉と〈クリアマインドLv3〉をカット。
代わりに〈MP自動回復量増加Lv10〉〈MP消費軽減Lv10〉〈疲労軽減Lv1〉を取り直した。
さらにマジックキャスターの〈サンダーアローLv3〉〈コールドボールLv3〉〈コールドストームLv5〉を外し、丸ごと〈ファイヤーボールLv5〉と〈ファイヤーストームLv5〉に切り替えた。
「レスティー、アーヴィン話しがある」
「あら、こんな時に愛の告白?」
「ついに吟遊詩人としての私の才能に気付き弟子入りを希望ですか~?」
「ちげーよ!てかこんな時にその余裕とかすごいなお前ら!? そんなことよりやってもらいたいことがある」
レスティー達と簡単な打ち合わせをすると、やることはやったはずなので腹をくくって待ち構えた。
蚊柱が俺達の頭上で渦を巻くと、その数に圧巻だった。
だが馬鹿でかい昆虫を下から見ているのでただひたすらに気持ちが悪い。
「クク、トト、レスティーとアーヴィンの援護! ユニス、フィローラ、上空から突っ込んでくる撃ち漏らしをしとめろ!クサンテ、ユーベルト、リシアとアレッシオの背後を守れ!リシアとアレッシオは昨日と同じで良い!レスティー、アーヴィン、ありったけの範囲魔法をぶっ放せ!撃てば当たるぞ!」
「ファイヤーストーム!」
「ファイヤ~スト~ム~!」
ファイヤーボールルルルルル!!
レスティーとアーヴィンのファイヤーストームがトンボの群集を飲み込むと、俺はその火柱の中に無詠唱のファイヤーボールを複数出現させて四方八方にばら撒き炸裂させてやった!
LvUPのシステムメッセージがおかしな勢いで流れる中、ドラゴンフライに警戒しながらステータスウィンドウでミネルバのファイタースキルの生存に直結するものを習得させていく。
「ファイヤーストーム!」
「ファイヤ~~~スっトーム~~~~!」
歌いながらの詠唱のためレスティーに遅れて魔法を発動させるアーヴィン。
こういう時くらい真面目にやって欲しいが本人は至って真面目なのだから矯正しないと変わる事はないだろう。
だが今言ってもしょうがない、とにかくカズを減らすしかない!
ルルルルルル!!
MP残量に気を配りながら再びファイヤーボールをドラゴンフライの群れの中で出現させて連打してやるも、一向に逃げる気配が無い。
ドラゴンフライの蚊柱が大きくうねると、勢いをつけて湖面に沿って行軍の横っ腹に突っ込んできた!
「「「「「ファイヤーウォール!」」」」」
第一班と第二班のマジックユーザー達が自分達の前に炎の壁を出現させて進行を阻止。
それに対して何も対処をしていない俺達第三班は無防備にさらされる。
ドラゴンフライ達も態々炎の壁に突っ込んでは行かず、がら空きの俺達のところに殺到した。
だがそれを待っていたと言わせてもらう!
PT同士では攻撃スキルが効果を及ぼさない現象がある。
ならこういう使い方だってあるんじゃないのか?
「ファイヤーストーム!」
事前の打ち合わせ通りレスティーが3発目の火柱を筒状に調整して自分のPT全てを飲み込む様に発動させた!
一~二班と違い進路変更不可能なタイミングでの発動である。
大量に飛び込んできたドラゴンフライが火にあぶられて黒焦げのフライと化していく。
「ファ~~イヤ~スト~ムゥゥゥ~」
調子が出てきたのかアーヴィンは絶好調の美声で追加のファイヤーストームをレスティーのファイヤーストームにかぶせて解き放つ。
「うひぃ、大丈夫と聞かされてはいたけど実際やるとやっぱゾっとするな」
視界左端のシステムメッセージが再びバグッたと思うくらいLvUPを告げてくるのを確認しながら呟いた。
「〈空気作成〉。普通はファイヤーウォールを張るところでしゅよね……」
フィローラが新鮮な空気を魔法で生み出し、炎の柱の中をビクビクしながら外の状況を確認している。
炎に怯えてパニックになっているミネルバを、俺は腕の中で落ち着かせるように抱き留める。
そのミネルバのベースジョブがLv20を迎えようとしていた。
「そろそろファイヤーストームが切れるぞ、気を引き締めろ!」
レスティーの放ったファイヤーストームが消えて炎の向こう側がすこし見えやすくなったのを確認したので、皆に注意を促した。
自分のMP残量を確認すると半分以上残し良い速度で回復していた。
これなら何とか行けそうか?
気を引き締めろと言っておきながら、外のドラゴンフライの群れの中に無詠唱でファイヤーストームを発動させ安堵した。
グヒヒッ
朝食を終えた俺達は、支給された昼食を受け取り班毎に整列すると、第一班から順に湖に沿って行軍を開始した。
行軍と言えば大げさだが、やってることは自然豊かで美しい湖に太陽の光が乱反射するのを見ながらのピクニックである。
湖の対岸が見えないどころか水平線まで見えてるんだが、湖でか過ぎやしませんかね?
確か地平線や水平線が見えるのって5キロを超えたくらいだっけ?
地球とは星としての大きさが違うかもだから正確にはわからないけど、それでも大きすぎることは確かである。
まぁ水平線って見るの好きだからいいんだけどね。
美しい湖の水平線を見ながらのピクニック。
楽しませてもらうとしよう。
しかし、そのピクニックも2時間を過ぎるといい加減うんざりするものである。
いくら水平線が好きでも30分もすれば飽きてくると言うものだ。
なのでその間で色々考えながら、ベースLv35分のポイントを使ってボーナススキルの見直しをする。
〈人語共用語Lv2〉
〈鑑定Lv3〉
〈アイテム収納空間Lv1〉
〈ジョブ追加Lv1〉
〈詠唱短縮Lv2〉
〈クールタイム減少Lv2〉
〈ブレイブハートLv3〉
〈ブレイブハート〉はいざという時の保険として外し辛いので、この14ポイント分のスキルは今後固定で良いかもしれない。
次に経験値は出来る限り稼いでおきたいので〈獲得経験値増加Lv10〉を習得しておく。
残り11ポイント……。
昨日の戦闘で分ったのだが、〈ブレイブハート〉は敵に恐怖から平常心を取り戻すには有効ではあるが、混乱状態での冷静な思考が出来というものではない。
なので、どんな状況でも冷静に対処できるように〈ブレイブハート〉と同じ精神作用系スキルの〈冷静化Lv3〉も取っておく。
〈クリアマインド〉で冷静になっても恐怖心が消えるわけではないので、〈ブレイブハート〉は外せない。
感情操作系と言えばいいのか精神作用系と言えば良いのか細かいことは分らんから後で誰かに聞いてみよう。
あと8ポイント。
〈カードドロップ率UP〉にでも振っておくか?
これでドラゴンフライカード大暴落だぜ!
……いや暴落したことでその後何が起きるか分らんからダメだな。
すぐに外す。
〈カードドロップUP〉は〈精力増強〉と同じで、レベルが存在しない。
〈アイテムドロップUP〉〈レアドロップ率UP〉にもだ。
もうひとつ位精神作用系を取っておくか?
罪悪感や躊躇を無くす〈冷徹化〉とか……は必要ないかな。
出来れば習得したら自動発動し続けるパッシブスキルの方が忘れないし、MPも消費しないから好きなんだけどなぁ。
現に称号の【魔法戦士】にある固有スキル〈マジックソード〉とか存在を忘れてるもんな。
戦闘に入ったら自動発動する設定とか出来れば良いんだが、無いものはしょうがない。
全体に影響が出ない範囲で付けられそうなのはこんなところか。
残りは〈MP自動回復〉に全振りしておいた。
次にジョブスキルの方に目を向ける。
現在のジョブはファイターLv33、マジックユーザーLv29。
ファイタースキル
〈MAXHP増加Lv10〉HPの最大値をLv×3%UP
〈体力増加(小)Lv10〉体力ボーナスにLv×1UP
〈筋力増加(小)Lv10〉筋力ボーナスにLv×1UP
〈槍収れんLv2〉槍のATKをLv×1%UP
〈プロボック〉敵を挑発してのターゲットを自分に引き付ける
マジックキャスタースキル
〈ファイヤーアローLv5〉
〈コールドアローLv3〉
〈サンダーアローLv3〉
〈コールドボールLv3〉
〈コールドストームLv5〉
〈魔力増加(小)Lv10〉魔力ボーナスにLv×1UP
昨日の失態を考えて属性は出来るだけバランス良くばらけさせた。
もう完全に物理攻撃を捨てている感じではあるが、ファンタジーなスキルではなく通常の技術で何とかしてみようと思ってのこれである。
ついでにステータスも弄りなおす。
筋力:1+15
体力:1+10
敏捷:80
魔力:55+20
あとは昨日掴みかけていた敏捷70以上の世界を練習したいところだな。
クサンテのしごきで行軍中にあれを試すなんて余裕も気力も無かったし。
「そろそろ目的地ですにゃ」
「ちー!」
俺のすぐ後ろ、最後尾に居たモーディーンさんの声に、第三班にして第6PTの新たなメンバーとなったミネルバが、首だけを真後ろに向けて返事した。
首が180度回転してる!?
こわっ、こんなの完全にフクロウじゃないか!
そのミネルバだが、生まれたばかりなので戦わせる気は無いが、経験値を入れておいたほうが良いだろうと連れてきた訳だけどどうなる事やら。
しばらく歩いていると、湖の方から大きな羽音が聞こえてくる。
ドラゴンフライLv10
属性:なし
耐性:なし
弱点:火属性ダメージ2倍。
状態異常:なし
ドラゴンフライLv12
弱点:火属性ダメージ2倍。
状態異常:なし
ドラゴンフライLv9
弱点:火属性ダメージ2倍。
状態異常:なし
羽音に気付いて目を向けると、一見すると馬鹿でかいトンボが湖の水面を高速で飛んでいるのだが、その手には大きく鋭いフック状の鉤爪が両前足に二本ずつ生えており、顎には大きく鋭い牙が付いていた。
なんだあの厳ついの……あんなのに捕まったら、そのまま空に連れ去られて牙で首が飛ばされるんじゃないのか?
当然向こうも俺達を発見しているのだが、流石にこちらのこの数では襲ってこないようす。
そう思っていると、3匹は上昇し、かなり高いところでなにやら鳴き始めた。
カカカチチチチチカチカチチチカチカチカチカチカチチカチカチ
カチチカチチカチカチチチカチカチカチカチカカカカカチカチカ
あーこれ知ってるわー、なぜだかすごく知ってるわー。
2~3年に一度テレビで放送される劇場アニメで見たことあるわー。
「いやな予感しかしないんだが……」
「奇遇ねぇ、私もよ」
「右に同じです」
前に居たレスティーとユニスが俺の言葉に同意する。
「戦闘態勢用意! レスティー、アーヴィン、いつでもファイヤーストームを撃てるようにしろ!」
「うふっ、任せなさぁ~い!」
「ふっ、僕の荘厳なる業火の旋律に羽虫が踊る様をとくとご覧頂きましょう!」
アーヴィンが全然いけてないセリフを吐いていると隊の前方でも慌しい怒声が飛んでいる。
「モーディーンさん!」
視線にいつでもいけるという意思を込めて彼に問いかけると、モーディーンさんはそれを察して大きく頷く。
「トシオくんの思うタイミングでいつでも仕掛けて良いですにゃ」
「はい! どうせ群れが集まってから攻撃してくるつもりだ、なら集まったところを片っ端から焼き払うぞ!」
俺の意図を皆に伝えると、第一&第二班から火矢や氷矢が散発的に発射され、それに釣られてアーヴィンも詠唱を開始した。
「アーヴィン、MPの無駄だ! 前の奴らに合わせるな!」
「渦巻く業火よ~~我がぁぁ~敵をぉぉぉ~」
俺の注意を聞かずに、歌いながら詠唱を続行するアーヴィンの前にクサンテが行くと、鋭い爬虫類の眼光で歌う魔法使いの顔を覗き込んだ。
「やき~…、やき…、や、やだなぁ~、今のは呪文では無くてただの発声練習ですよ~、ラララ~!」
また意識が飛ぶ程蹴られたく無いのか詠唱を中断して誤魔化すアーヴィン。
クサンテ姐さんアザッス!
そうこうしていると遠くから蚊柱の様な無数の黒い粒が集まってきた。
何万匹いるんだよアレ?
確実にやばいだろ……。
距離が離れているからただの黒い粒の群棲だが、あの一つ一つが今も魔法を回避して飛び回ってるあのドラゴンフライに違いないのだ。
クリアマインド。
常用は避けたほうが良いかもなスキルでは有るが、冷静に対処しなければならない案件なので試しに使ってみる。
発動させると、まるでノイズ交じりだった思考が、嘘のように不純物が消え去リ心の余裕が生まれる。
んー、流石にあの数はやばい。どう考えても今の俺達じゃ範囲魔法を使ってもMPが足りない…。
ここはベテランの意見を仰ぐべきだ。
「モーディーンさん、流石にあの数は無理だと思うんですがどうすればいいですか?」
「そうですにゃぁ。ですが、ドラゴンフライの機動力ではこのまま逃げてもすぐに追いつかれてしまいますにゃ。徹底抗戦以外道はありませんにゃ」
そう言って腰の刺突剣を抜いて蚊柱を見据えるモーディーンさん。
どうやらやるしかない様だ…。
ステータスウィンドウを開きなおして〈獲得経験値増加Lv10〉と〈クリアマインドLv3〉をカット。
代わりに〈MP自動回復量増加Lv10〉〈MP消費軽減Lv10〉〈疲労軽減Lv1〉を取り直した。
さらにマジックキャスターの〈サンダーアローLv3〉〈コールドボールLv3〉〈コールドストームLv5〉を外し、丸ごと〈ファイヤーボールLv5〉と〈ファイヤーストームLv5〉に切り替えた。
「レスティー、アーヴィン話しがある」
「あら、こんな時に愛の告白?」
「ついに吟遊詩人としての私の才能に気付き弟子入りを希望ですか~?」
「ちげーよ!てかこんな時にその余裕とかすごいなお前ら!? そんなことよりやってもらいたいことがある」
レスティー達と簡単な打ち合わせをすると、やることはやったはずなので腹をくくって待ち構えた。
蚊柱が俺達の頭上で渦を巻くと、その数に圧巻だった。
だが馬鹿でかい昆虫を下から見ているのでただひたすらに気持ちが悪い。
「クク、トト、レスティーとアーヴィンの援護! ユニス、フィローラ、上空から突っ込んでくる撃ち漏らしをしとめろ!クサンテ、ユーベルト、リシアとアレッシオの背後を守れ!リシアとアレッシオは昨日と同じで良い!レスティー、アーヴィン、ありったけの範囲魔法をぶっ放せ!撃てば当たるぞ!」
「ファイヤーストーム!」
「ファイヤ~スト~ム~!」
ファイヤーボールルルルルル!!
レスティーとアーヴィンのファイヤーストームがトンボの群集を飲み込むと、俺はその火柱の中に無詠唱のファイヤーボールを複数出現させて四方八方にばら撒き炸裂させてやった!
LvUPのシステムメッセージがおかしな勢いで流れる中、ドラゴンフライに警戒しながらステータスウィンドウでミネルバのファイタースキルの生存に直結するものを習得させていく。
「ファイヤーストーム!」
「ファイヤ~~~スっトーム~~~~!」
歌いながらの詠唱のためレスティーに遅れて魔法を発動させるアーヴィン。
こういう時くらい真面目にやって欲しいが本人は至って真面目なのだから矯正しないと変わる事はないだろう。
だが今言ってもしょうがない、とにかくカズを減らすしかない!
ルルルルルル!!
MP残量に気を配りながら再びファイヤーボールをドラゴンフライの群れの中で出現させて連打してやるも、一向に逃げる気配が無い。
ドラゴンフライの蚊柱が大きくうねると、勢いをつけて湖面に沿って行軍の横っ腹に突っ込んできた!
「「「「「ファイヤーウォール!」」」」」
第一班と第二班のマジックユーザー達が自分達の前に炎の壁を出現させて進行を阻止。
それに対して何も対処をしていない俺達第三班は無防備にさらされる。
ドラゴンフライ達も態々炎の壁に突っ込んでは行かず、がら空きの俺達のところに殺到した。
だがそれを待っていたと言わせてもらう!
PT同士では攻撃スキルが効果を及ぼさない現象がある。
ならこういう使い方だってあるんじゃないのか?
「ファイヤーストーム!」
事前の打ち合わせ通りレスティーが3発目の火柱を筒状に調整して自分のPT全てを飲み込む様に発動させた!
一~二班と違い進路変更不可能なタイミングでの発動である。
大量に飛び込んできたドラゴンフライが火にあぶられて黒焦げのフライと化していく。
「ファ~~イヤ~スト~ムゥゥゥ~」
調子が出てきたのかアーヴィンは絶好調の美声で追加のファイヤーストームをレスティーのファイヤーストームにかぶせて解き放つ。
「うひぃ、大丈夫と聞かされてはいたけど実際やるとやっぱゾっとするな」
視界左端のシステムメッセージが再びバグッたと思うくらいLvUPを告げてくるのを確認しながら呟いた。
「〈空気作成〉。普通はファイヤーウォールを張るところでしゅよね……」
フィローラが新鮮な空気を魔法で生み出し、炎の柱の中をビクビクしながら外の状況を確認している。
炎に怯えてパニックになっているミネルバを、俺は腕の中で落ち着かせるように抱き留める。
そのミネルバのベースジョブがLv20を迎えようとしていた。
「そろそろファイヤーストームが切れるぞ、気を引き締めろ!」
レスティーの放ったファイヤーストームが消えて炎の向こう側がすこし見えやすくなったのを確認したので、皆に注意を促した。
自分のMP残量を確認すると半分以上残し良い速度で回復していた。
これなら何とか行けそうか?
気を引き締めろと言っておきながら、外のドラゴンフライの群れの中に無詠唱でファイヤーストームを発動させ安堵した。
グヒヒッ
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