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49話 災厄襲来
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予想通りファイヤーストームの輻射熱は無かったが、フィローラの空気作成魔法をもってしても若干の息苦しさを感じ始めたところで、アーヴィンのファイヤーストームの効果時間が終了した。
熱ダメージは無いけど酸欠になる恐れがあるのな。
次から気をつけよう。
途中からシステムメッセージのLvUPが止まったので気付いてはいたが、後続のドラゴンフライ共は火柱に突っ込んで来ておらず、退避したと思しき上空を飛び回るトンボの数は余り減っては居なかった。
レベルの上がり具合からかなり殺してはいるんだけどな。
火柱が消える前にベースレベルが2つ上がっていたので、ボーナススキルの〈クリアマインド〉を再習得しておいた。
PT全体のMP残量を確認すると、俺と同じどころか殆ど減っておらず、きっちり詠唱しているため次弾を打つ前に消費MPの半分以上が回復されている状態であった。
〈MP自動回復量増加Lv10〉と〈MP消費軽減Lv10〉が過労死するな。
余裕が出てきたため馬鹿なことを考えていると、上空で動きがあった。
ドラゴンフライの群れが3つに別れると、その内の2つが一~三班の隊列の横っ腹に左右から突っ込んできやがった。
蚊トンボの分際で生意気にも挟み撃ちなんてしてくんなし!
「レスティー、ファイヤーストームの準備! アーヴィン、森から来る群れにファイヤーボールで迎撃しろ!」
「いいわよ~ん」
「任せたまえ~!」
「「「「「ファイヤーウォール!」」」」」
第一班と第二班のマジックユーザーがまたも炎の壁を展開するが、意思統一がされていないためその厚さが湖側に集中し、森側には二班の横に一枚しか張られていない。
あれじゃ一斑の方にも分散しかねんぞ!?
「ファイヤァァァボォオルゥゥゥゥ~~~!」
呪文を完成させたアーヴィンのファイヤーボールが森側のドラゴンフライの正面に放たれるも、先頭集団は右に回避。
先頭集団のすぐ後ろに居たドラゴンフライに直撃して何匹かを巻き込み爆散させるも、数千単位の後続が止まることなく先頭集団に合流するように右に展開。
そこに狙い済ました俺の無詠唱ファイヤーストームを置いてやると、進路変更の起点に置かれた炎の渦は更なる経験値を叩き出す。
普通のトンボなら兎も角その大きさで軌道変更中にまた軌道変更とか無理ですもんねー。
それでも逃した戦闘集団がこちらを標的に突っ込んでくるも、クサンテとユーベルトが盾で防いで押し返し、回り込んできた数匹もククの〈シールドバッシュ〉やトトの〈バーストインパクト〉で返り討ちにした。
「ファイヤーストーム!」
ファイヤーストーム!
そこにレスティーの4発目のファイヤーストームが、俺達第三班を再び包む。
それと同時に俺の放った無詠唱ファイヤーストームが第一~第二班に展開されると、湖側から来たドラゴンフライが炎の壁に突撃して炎上していく。
ははっ、燃えろ燃えろ~っ。
「フィローラ、他の班にも空気作成を頼めるか?」
「やれましゅよ! 大気の精霊よ、命の息吹を与えたまえ、〈クリエイトエア〉!」
なんて左端のシステムメッセージを確認しながら余裕をぶっこいていたら、上空で待機していたドラゴンフライの三集団目が炎の渦にできた上空の穴から大量になだれ込んできた!
なんですとー!?
「迎撃しろ!」
「ピアッシングアロー!」
「ピアッシングスピア!」
貫通性能のあるユニスの弓スキルとクサンテの槍スキルが、頭上から飛来してきたドラゴンフライの尽くを粒子散乱してくれた!
「二人ともよくやった!」
「お任せあれ!」
「お安い御用だよ!」
力強く返事を返すユニスとクサンテ。
そんな二人のレベルも、既に40を超えている。
尚も執拗に上から突撃してくるドラゴンフライの集団に、アーヴィンのファイヤーボールと一緒になって無詠唱ファイヤーボールを打ち込んでやる。
炎の渦の中を外から確認できないためか、ドラゴンフライの後続が途切れることは無く、頭上にスキルをぶっぱする簡単なお仕事と化す。
「そろそろファイヤーストームが消えちゃうけどどうする~?」
「外の様子が見たいから張り直さなくていい。けどいつでも再展開できる準備はしておいてくれ」
「はぁ~い♪」
割れた顎に汗を滴らせながらのレスティーの問いかけに、首を横に振って返す。
再び警戒を呼びかけ身構えた。
輻射熱こそ無いが大気が炎で熱せられているのもかなり危険である。
しかも俺達のMPも半分を大きく下回っている。
簡単なお仕事とは言ったがMPに余裕があるとは言っていない。
レスティーの放った炎の渦が晴れるとすぐに周囲を確認。
今の特攻でかなりの数を減らしたらしく、ドラゴンフライの群れは4割程となっていた。
それでもまだ数千は優に超える上に、虫の癖に戦術を使ってきたので油断できない。
昆虫の力は侮れんのだぞ。
ドラゴンフライの動きと共に第一第二班の被害状況を確認すると、両班にも上空からの襲撃を受けていたと思うのだが、一切の被害が見受けられない。
だが二班の監督役であるベクスさんが弓を番え、アメリアさんが魔法の詠唱をしていたので恐らくこの二人が対処したのであろう。
一班にも上空になにやら薄い膜の様な物が被っている。
なんだろ? 防御魔法?
なら監督役でビショップのクリスタさんか?
先頭には他にもベテラン冒険者が詰めている。
もしかするとその誰かかもしれない。
ドラゴンフライの動向を気にしながらなんとなく予測をつけていると、第二班の連中がまたも散発的にドラゴンフライの群れに魔法を放つ。
んー、戦術まで使ってくるほどに頭が良いんだ、もしかしたらこのまま逃げてくれないかな?
だが二班みたいに闇雲に撃ってもあまり意味が無いのかもしれない。
そんなことを考えていると、ドラゴンフライの群れが再び散会。今度は4つのグループに分かれて突撃してきた。
ちっ、しつこいなぁ。
……いや、むしろここじゃね?
俺はそのグループ全ての集団の前に無詠唱の〈ファイヤーボールLv1〉を出現させると、その先頭に着弾。
突然の火球の爆発に、進路を変えて再び襲来しようとした集団のその出鼻に、またも火球を出現させて片っ端から突撃を潰してやる!
その都度動きが止まるため、第二班の散発的な魔法攻撃も集団に刺さり、着実にその数を減らしていく。
さらに追い討ちでアーヴィンの全力ファイヤーボールが炎を撒き散らし、黒い蚊柱を大きく穿つ!
早く逃げろよ!
コストを抑えるためとはいえ〈ファイヤーボールLv1〉に切り替えているが、それでもMPがかなりきついのだ。
だがここが正念場だ!
それを察してか、負けじとレスティーやユニスも攻撃に加わる。
ドラゴンフライ達は突撃する気配を見せるたびに炎が炸裂するため、先頭は攻撃に打って出られず、まごつくと攻撃魔法に晒される。
すると、機動防御しながら集団を再結集し、カチカチと何かを擦り合わせる音を鳴らし始めた。
来るか……!
全力で叩き潰してやろうとその行動を注視していると、集団は方向を変えて元来たほうへ逃走を開始した。
……おっしゃああああああああ!
「敵が逃げるぞ、撃ちまくれ!」
逃げるドラゴンフライの集団に、レスティーとアーヴィンが追撃のファイヤーボールをバカスカ打ち込みまくる!
「お疲れええええええええ!」
「お疲れよおおおお!!」
「わーい!」
ドラゴンフライ達が逃走し、その蚊柱が小さくなると、各所で歓声が響き渡り、隣り合う同士で抱きしめあう光景であふれ返った。
ドサクサに紛れてレスティーが俺に抱きつこうと飛び掛ってきたが、身を交わし様にレスティーの服を掴み、遠心力を活かしてユーベルトに向かうよう進路変更してやった。
「くっつくんじゃねぇー!」
「あらん、おかしいわね~? でもまあ良いわ!」
折角その腕に捉えた美少年なので、レスティーは逃すことなくユーベルトの顔中にキスをしまくる。
いや全然おかしくない!
それで間違ってないですとも!
てか抱きつかれてたら俺がああなってたのか、あぶねぇなぁ……。
ドラゴンフライ以上にヒヤッとしていると、俺の周りにリシアとククとトトが集まっていた。
今回リシアは何もしていない様に見えたかもしれないが、実はプリーストの補助魔法である〈祝福〉を切らすことなく、俺達の攻撃力を底上げしてくれていた。
有ると無いのとでは大違いなので実に助かる。
ククやトトには悪いがまず一番にリシアを労おうと森のほうを向くと、―――ヤツが居た。
赤黒い爬虫類の様な肌。
体長8メートルはあろうか、ワニの頭を胴体にめり込ませ縦に潰れて横に広がったドラゴンの様な巨大な化け物だった。
ワニの頭にはねじれた角が3本生え、爬虫類の眼は俺達全体を睨め付け横に動いている。
その腕は体にくらべ歪なほどに大きく筋肉で異常に盛り上がり、その手の先には鋭い鎌の様な爪が生え、右手には巨大な金棒が握られている。
脚はペンギンの様に短く足の甲と鋭い爪しか見えていない。
長い顎の口元には怖気を誘う笑みでゆがんでいた。
ズワローグ
グレーターダークダイルLv107
属性:闇
耐性:物理無効。
弱点:なし
状態異常:なし
いつから…居やがった…?
「グヒヒっ」
俺の脳が最大級の危険信号を点灯させたと同時に、ヤツは短い脚からは信じられないほどの跳躍を見せ、第二班めがけて瀑布の踏みつけを繰り出した!
ファイヤーボールルルルルル!!
咄嗟に第二班の頭上、着弾地点の手前に複数の紅蓮の火球を生み出し、奴に踏ませて爆風をまき散らせる。
その爆風で踏みつけを阻止した。
爆風で後方に吹き飛んだデカワニが、森の手前で足から着地をすると、地面に振動が起きるほどの衝撃が響く。
その顔から笑みが消え、不快感を露にしている。
俺は地響きを感じながらも視界が一瞬ブラックアウト。
MP切れによる副作用で目眩と吐き気を催すも、地面に膝を付きギリギリ倒れずに踏み留まる。
「トシオ様!?」
「ご主人様!?」
「トシオ!?」
「トシオちゃん!?」
「トシオ!?」
近くに居たリシアとククとトト、それに皆が俺の周りに集まり手を貸して立ち上がらせてくれた。
危なかった……。
今のが第二班に向かったから良かったものの、こっちに来ていたら頭がフリーズして対処できなかったかもしれない。
「皆さん、早くあちらへ逃げるのですにゃ!」
化け物の前に躍り出たモーディーンさんの叫びを受けるも、第二班の低級冒険者達は、そのあまりの異形と出現の唐突さに思考が停止してしまい、動けなくなっていた。
クリアマインド! ブレイブハート!
ボーナススキルの〈ブレイブハート〉と〈クリアマインド〉をすかさず起動。
俺達の心の中から恐怖心と錯乱する意識が消え去ると、奴に立ち向かう勇気が湧き上がる。
それに反し、MP切れによる俺の目眩はより一層酷くなり、たまらずその場で嘔吐した。
だが二班に動きの変化が無い。
なぜだ?
ブレイブハート! クリアマインド!
今度はスキルすら発動しなかった。
MPを確認すると、その残量は4から徐々に回復する。
スキルを使用するための必要MPが枯渇していたのか。
だが回復を待ってからもう一度発動するまでの、時間的余裕なんてあるものか。
すまないが他の班にこれ以上構ってはいられない。
そう、見ず知らずのやつらなんかより第三班の、特に三人の命の方が遥かに大事なのだから。
最初の攻撃を退けただけでもありがたいと思ってもらうしかない。
「はぁ…はぁ……。レスティー、モーディーンさん達が奴と戦闘に入ったら全員で迷わず森に逃げ込むぞ……。他の奴らの事は気にするな……!」
「分ったわトシオちゃん…!」
「たの……」
俺はそこで自分の意識を手放してしまった。
熱ダメージは無いけど酸欠になる恐れがあるのな。
次から気をつけよう。
途中からシステムメッセージのLvUPが止まったので気付いてはいたが、後続のドラゴンフライ共は火柱に突っ込んで来ておらず、退避したと思しき上空を飛び回るトンボの数は余り減っては居なかった。
レベルの上がり具合からかなり殺してはいるんだけどな。
火柱が消える前にベースレベルが2つ上がっていたので、ボーナススキルの〈クリアマインド〉を再習得しておいた。
PT全体のMP残量を確認すると、俺と同じどころか殆ど減っておらず、きっちり詠唱しているため次弾を打つ前に消費MPの半分以上が回復されている状態であった。
〈MP自動回復量増加Lv10〉と〈MP消費軽減Lv10〉が過労死するな。
余裕が出てきたため馬鹿なことを考えていると、上空で動きがあった。
ドラゴンフライの群れが3つに別れると、その内の2つが一~三班の隊列の横っ腹に左右から突っ込んできやがった。
蚊トンボの分際で生意気にも挟み撃ちなんてしてくんなし!
「レスティー、ファイヤーストームの準備! アーヴィン、森から来る群れにファイヤーボールで迎撃しろ!」
「いいわよ~ん」
「任せたまえ~!」
「「「「「ファイヤーウォール!」」」」」
第一班と第二班のマジックユーザーがまたも炎の壁を展開するが、意思統一がされていないためその厚さが湖側に集中し、森側には二班の横に一枚しか張られていない。
あれじゃ一斑の方にも分散しかねんぞ!?
「ファイヤァァァボォオルゥゥゥゥ~~~!」
呪文を完成させたアーヴィンのファイヤーボールが森側のドラゴンフライの正面に放たれるも、先頭集団は右に回避。
先頭集団のすぐ後ろに居たドラゴンフライに直撃して何匹かを巻き込み爆散させるも、数千単位の後続が止まることなく先頭集団に合流するように右に展開。
そこに狙い済ました俺の無詠唱ファイヤーストームを置いてやると、進路変更の起点に置かれた炎の渦は更なる経験値を叩き出す。
普通のトンボなら兎も角その大きさで軌道変更中にまた軌道変更とか無理ですもんねー。
それでも逃した戦闘集団がこちらを標的に突っ込んでくるも、クサンテとユーベルトが盾で防いで押し返し、回り込んできた数匹もククの〈シールドバッシュ〉やトトの〈バーストインパクト〉で返り討ちにした。
「ファイヤーストーム!」
ファイヤーストーム!
そこにレスティーの4発目のファイヤーストームが、俺達第三班を再び包む。
それと同時に俺の放った無詠唱ファイヤーストームが第一~第二班に展開されると、湖側から来たドラゴンフライが炎の壁に突撃して炎上していく。
ははっ、燃えろ燃えろ~っ。
「フィローラ、他の班にも空気作成を頼めるか?」
「やれましゅよ! 大気の精霊よ、命の息吹を与えたまえ、〈クリエイトエア〉!」
なんて左端のシステムメッセージを確認しながら余裕をぶっこいていたら、上空で待機していたドラゴンフライの三集団目が炎の渦にできた上空の穴から大量になだれ込んできた!
なんですとー!?
「迎撃しろ!」
「ピアッシングアロー!」
「ピアッシングスピア!」
貫通性能のあるユニスの弓スキルとクサンテの槍スキルが、頭上から飛来してきたドラゴンフライの尽くを粒子散乱してくれた!
「二人ともよくやった!」
「お任せあれ!」
「お安い御用だよ!」
力強く返事を返すユニスとクサンテ。
そんな二人のレベルも、既に40を超えている。
尚も執拗に上から突撃してくるドラゴンフライの集団に、アーヴィンのファイヤーボールと一緒になって無詠唱ファイヤーボールを打ち込んでやる。
炎の渦の中を外から確認できないためか、ドラゴンフライの後続が途切れることは無く、頭上にスキルをぶっぱする簡単なお仕事と化す。
「そろそろファイヤーストームが消えちゃうけどどうする~?」
「外の様子が見たいから張り直さなくていい。けどいつでも再展開できる準備はしておいてくれ」
「はぁ~い♪」
割れた顎に汗を滴らせながらのレスティーの問いかけに、首を横に振って返す。
再び警戒を呼びかけ身構えた。
輻射熱こそ無いが大気が炎で熱せられているのもかなり危険である。
しかも俺達のMPも半分を大きく下回っている。
簡単なお仕事とは言ったがMPに余裕があるとは言っていない。
レスティーの放った炎の渦が晴れるとすぐに周囲を確認。
今の特攻でかなりの数を減らしたらしく、ドラゴンフライの群れは4割程となっていた。
それでもまだ数千は優に超える上に、虫の癖に戦術を使ってきたので油断できない。
昆虫の力は侮れんのだぞ。
ドラゴンフライの動きと共に第一第二班の被害状況を確認すると、両班にも上空からの襲撃を受けていたと思うのだが、一切の被害が見受けられない。
だが二班の監督役であるベクスさんが弓を番え、アメリアさんが魔法の詠唱をしていたので恐らくこの二人が対処したのであろう。
一班にも上空になにやら薄い膜の様な物が被っている。
なんだろ? 防御魔法?
なら監督役でビショップのクリスタさんか?
先頭には他にもベテラン冒険者が詰めている。
もしかするとその誰かかもしれない。
ドラゴンフライの動向を気にしながらなんとなく予測をつけていると、第二班の連中がまたも散発的にドラゴンフライの群れに魔法を放つ。
んー、戦術まで使ってくるほどに頭が良いんだ、もしかしたらこのまま逃げてくれないかな?
だが二班みたいに闇雲に撃ってもあまり意味が無いのかもしれない。
そんなことを考えていると、ドラゴンフライの群れが再び散会。今度は4つのグループに分かれて突撃してきた。
ちっ、しつこいなぁ。
……いや、むしろここじゃね?
俺はそのグループ全ての集団の前に無詠唱の〈ファイヤーボールLv1〉を出現させると、その先頭に着弾。
突然の火球の爆発に、進路を変えて再び襲来しようとした集団のその出鼻に、またも火球を出現させて片っ端から突撃を潰してやる!
その都度動きが止まるため、第二班の散発的な魔法攻撃も集団に刺さり、着実にその数を減らしていく。
さらに追い討ちでアーヴィンの全力ファイヤーボールが炎を撒き散らし、黒い蚊柱を大きく穿つ!
早く逃げろよ!
コストを抑えるためとはいえ〈ファイヤーボールLv1〉に切り替えているが、それでもMPがかなりきついのだ。
だがここが正念場だ!
それを察してか、負けじとレスティーやユニスも攻撃に加わる。
ドラゴンフライ達は突撃する気配を見せるたびに炎が炸裂するため、先頭は攻撃に打って出られず、まごつくと攻撃魔法に晒される。
すると、機動防御しながら集団を再結集し、カチカチと何かを擦り合わせる音を鳴らし始めた。
来るか……!
全力で叩き潰してやろうとその行動を注視していると、集団は方向を変えて元来たほうへ逃走を開始した。
……おっしゃああああああああ!
「敵が逃げるぞ、撃ちまくれ!」
逃げるドラゴンフライの集団に、レスティーとアーヴィンが追撃のファイヤーボールをバカスカ打ち込みまくる!
「お疲れええええええええ!」
「お疲れよおおおお!!」
「わーい!」
ドラゴンフライ達が逃走し、その蚊柱が小さくなると、各所で歓声が響き渡り、隣り合う同士で抱きしめあう光景であふれ返った。
ドサクサに紛れてレスティーが俺に抱きつこうと飛び掛ってきたが、身を交わし様にレスティーの服を掴み、遠心力を活かしてユーベルトに向かうよう進路変更してやった。
「くっつくんじゃねぇー!」
「あらん、おかしいわね~? でもまあ良いわ!」
折角その腕に捉えた美少年なので、レスティーは逃すことなくユーベルトの顔中にキスをしまくる。
いや全然おかしくない!
それで間違ってないですとも!
てか抱きつかれてたら俺がああなってたのか、あぶねぇなぁ……。
ドラゴンフライ以上にヒヤッとしていると、俺の周りにリシアとククとトトが集まっていた。
今回リシアは何もしていない様に見えたかもしれないが、実はプリーストの補助魔法である〈祝福〉を切らすことなく、俺達の攻撃力を底上げしてくれていた。
有ると無いのとでは大違いなので実に助かる。
ククやトトには悪いがまず一番にリシアを労おうと森のほうを向くと、―――ヤツが居た。
赤黒い爬虫類の様な肌。
体長8メートルはあろうか、ワニの頭を胴体にめり込ませ縦に潰れて横に広がったドラゴンの様な巨大な化け物だった。
ワニの頭にはねじれた角が3本生え、爬虫類の眼は俺達全体を睨め付け横に動いている。
その腕は体にくらべ歪なほどに大きく筋肉で異常に盛り上がり、その手の先には鋭い鎌の様な爪が生え、右手には巨大な金棒が握られている。
脚はペンギンの様に短く足の甲と鋭い爪しか見えていない。
長い顎の口元には怖気を誘う笑みでゆがんでいた。
ズワローグ
グレーターダークダイルLv107
属性:闇
耐性:物理無効。
弱点:なし
状態異常:なし
いつから…居やがった…?
「グヒヒっ」
俺の脳が最大級の危険信号を点灯させたと同時に、ヤツは短い脚からは信じられないほどの跳躍を見せ、第二班めがけて瀑布の踏みつけを繰り出した!
ファイヤーボールルルルルル!!
咄嗟に第二班の頭上、着弾地点の手前に複数の紅蓮の火球を生み出し、奴に踏ませて爆風をまき散らせる。
その爆風で踏みつけを阻止した。
爆風で後方に吹き飛んだデカワニが、森の手前で足から着地をすると、地面に振動が起きるほどの衝撃が響く。
その顔から笑みが消え、不快感を露にしている。
俺は地響きを感じながらも視界が一瞬ブラックアウト。
MP切れによる副作用で目眩と吐き気を催すも、地面に膝を付きギリギリ倒れずに踏み留まる。
「トシオ様!?」
「ご主人様!?」
「トシオ!?」
「トシオちゃん!?」
「トシオ!?」
近くに居たリシアとククとトト、それに皆が俺の周りに集まり手を貸して立ち上がらせてくれた。
危なかった……。
今のが第二班に向かったから良かったものの、こっちに来ていたら頭がフリーズして対処できなかったかもしれない。
「皆さん、早くあちらへ逃げるのですにゃ!」
化け物の前に躍り出たモーディーンさんの叫びを受けるも、第二班の低級冒険者達は、そのあまりの異形と出現の唐突さに思考が停止してしまい、動けなくなっていた。
クリアマインド! ブレイブハート!
ボーナススキルの〈ブレイブハート〉と〈クリアマインド〉をすかさず起動。
俺達の心の中から恐怖心と錯乱する意識が消え去ると、奴に立ち向かう勇気が湧き上がる。
それに反し、MP切れによる俺の目眩はより一層酷くなり、たまらずその場で嘔吐した。
だが二班に動きの変化が無い。
なぜだ?
ブレイブハート! クリアマインド!
今度はスキルすら発動しなかった。
MPを確認すると、その残量は4から徐々に回復する。
スキルを使用するための必要MPが枯渇していたのか。
だが回復を待ってからもう一度発動するまでの、時間的余裕なんてあるものか。
すまないが他の班にこれ以上構ってはいられない。
そう、見ず知らずのやつらなんかより第三班の、特に三人の命の方が遥かに大事なのだから。
最初の攻撃を退けただけでもありがたいと思ってもらうしかない。
「はぁ…はぁ……。レスティー、モーディーンさん達が奴と戦闘に入ったら全員で迷わず森に逃げ込むぞ……。他の奴らの事は気にするな……!」
「分ったわトシオちゃん…!」
「たの……」
俺はそこで自分の意識を手放してしまった。
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