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40話 顔合わせ
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竜車に揺られること4時間。
街道から森に入ると、大きな湖の近くにあるデクシ村に到着した。
村は太い丸太を地面に打ち込んで出来た壁で覆い、村と森を明確に分ける境界となっている。
そしてここまで運んでくれた竜車だが、なかなかの巡航速度と踏破力の高さを見せてくれた。
町の出入り口を出た途端、竜車の速度がぐんと上がり、舗装もされていないむき出しの地面にサスペンションが振動を吸収しきれず、ガクガクと大きな縦揺れの振動となって人体にダイレクトアタックを加えて来た。
おかげ様をもちまして、折角の朝ご飯が全て胃から消え去った。
誰だよ期待に胸を躍らせていた能天気なバカは!
って俺だったわ(お約束)
正直もう二度と乗りたくない……。
「大丈夫ですかトシオ様?」
吐いたのでだいぶ楽にはなったが、無駄に体力を消耗し、肩で息する体たらく。
そこへリシアが背中を摩り、ククも心配顔で寄り添ってくれた。
二人の優しさが心に沁みる。
「大丈夫、ちょっと気持ち悪いだけだから」
「トシオは情け無いなぁ」
「トト!」
そんな二人とは対照的に、蔑みの言葉を投げかけてくるトト。
ククが妹を窘めるも、ぷいっと顔を背けてしまった。
お前は後で覚えてろよ。
呪いながらも周りを見渡してみると、涼し気な森の空気の中建った村の中には立派なコテージが十数件立ち並んでいる。
そんな光景とは不釣り合いな、アンデッドのようにうごめくグロッキーな新米冒険者。
完全に死屍累々と言った状態だ。
竜車の揺れにやられたのは俺だけじゃなかったのね……。
「冒険者ともなれば、いずれは自分達の馬車や竜車を持つことになりますにゃ。冒険者ギルドでは竜車を使った村への物資運搬任務も多く扱っているで、自分達の竜車を持つ時のためにもその手の依頼を多く受けて慣れておくのも良いですにゃ」
モーディーンさんの言葉の投げかけに、皆の顔がげんなりとなる。
そう言えばリベクさんのところにもそれっぽいのが居たなぁ。
「では、行きの竜車内で聞いた君達の職業やPT事情を元に班分けを行いますにゃ。呼ばれた者は速やかにこちらに来るようお願いしますにゃ」
モーディーンさんはそう告げるとひとりひとりの名前を読み上げ、一組6人のPTを〈PT作成〉のスキルで作って一列に並べ、そこにもう1PTを横に並ばせて2PTの2列にしてまとめる。
そして殆どの者がPTを組み終わり6PT目として俺達四人が呼ばれると、最後に一人の少女の名前が読み上げられた。
フィローラ
マルモル 女 15歳
エレメンタラーLv1
俺の腹部ほどの身長しかないその少女の顔立ちは非常に愛らしく、頭の横からはマルモル族特有の長くて細い耳が伸びていた。
短いくせっ毛の頭髪は金色で、メガネ越しの翡翠色の瞳は、不安げに揺らいでいた。
マルモル族は俺がこの世界に来るきっかけとなったゲーム〈エターナルアース〉シリーズではお馴染みの種族で、その通称はロリエルフ。
大福さんの嫁にも居るらしい。
合法ロリキタ!
と言うかエレメンタラーだ!
これは是が非でもエレメンタラーの魔法の使い方を聞き出さねば!
「最初の2PT12人を第一班とし、ザアラッドとクリスタが監督役に就きますにゃ」
「よろしくな!」
「よろしくお願いします」
厳つい親父顔にニカっと笑みを浮かべたグラディエーターのザアラッドさんと、神官で美人ドワーフ女性のクリスタさんが前に出た。
クリスタさんはビショップLv49で、茶色の髪に黒い瞳のクールビューティー。
その印象は一言で言えば〈真面目〉、二言で言えば〈クソ真面目〉と言ったところか。
Lv的に恐らくはまだ上位職であろう。
第一班の編成を見ると、ファイターとシーフとプリーストが多く、年齢の若さに比べて体格の良い少年少女が多く集められていた。
まるで体育会系だな……。
「では2つ目の2PTを第二班とし、ベクスとアメリアの二人が監督役となりますにゃ」
「よろしくな」
「よろしくたのむわね」
すらっとした金髪エルフの美男美女であるベクスさんとアメリアさんが前に出た。
気さくな良いお兄さんお姉さんと言った感じで第二班のメンバーに声をかけると、男はアメリアさんを、女はベクスさんを見てハート目になっている。
その第二班の構成はファイターなどの前衛と魔法職や弓職などの後衛のバランスが非常に良く、今回の合宿が終われば編成に悩むことなくすぐにでも冒険者PTとしてやっていけそうだ。
見た感じ優等生タイプかな?
「最後の2PT11人を第三班としますにゃ。監督役としては私モーディーンとビアンカが担当しますにゃ」
「よろしくお願いします」
茶トラ猫頭のビアンカさんが優雅な礼をしてくださったので、頭を下げて返礼する俺達第三班。
「それでは以上でPT分けを終了ですにゃ。これから夕食までは自由時間としますにゃ。必ず班でまとまって行動するようにしてくださいですにゃ。親睦を深める時間として使うといいですにゃ。もしPTに馴染めない方やPTメンバーの交代をしたい場合などは我々ギルドスタッフまで申し出るように。何か聞きたいこととかありますかにゃ?」
モーディーンさんは皆を見回して間をあけるも誰も声を上げなかった。
「では解散ですにゃ」
モーディーンさんの解散宣言で俺達はそれぞれの班に纏まって顔を突き合わせた。
そして俺達第三班のメンバーなのだが、これが何と言って良いのか一言では説明し辛い面子が揃っていた…。
ゴンザレス
人 男 23歳
マジックキャスターLv19
「私はマジックキャスターのレスティー。よろしくね~」
レスティーと名乗った第5PTのリーダー(仮)は背が高く、栗毛のソフトモヒカン&ソフトマッチョな魔法使い。
顔はそこそこ男前なのだが顎が割れており、化粧をしていて言葉や仕草が明らかにオネエ。
そんな自称レスティー事ゴンザレスは第5PTのメンバー全員と挨拶(男とだけは握手)をし、次に俺達第6PTに挨拶をしてきた。
手を差し出されたがいくら悪食の俺でも男には興味がないので、手を握り返すことなく言葉だけの挨拶で済ませようとするも、おろしていた手を強引に握られ握手させられた。
あとで手を洗ってからリシアで上書きさせてもらおう……。
ゴンザレスティーは皆に挨拶を終えると、近くにいた青年に抱きついた。
ユーベルト
獣人 男 16歳
ファイターLv18
「なぜ抱き着く!? 放せ気色悪い! 俺はユーベルト、ファイターだ」
赤毛に犬耳の青い瞳をした美少年は、レスティーを振り払い全員に向き直ると、ぶっきらぼうにそう告げた。
身長はやや低く細身ではあるが、腰に片手剣、腕にはトトと同じような小さめの鉄の盾をつけ、盾を併用したオーソドックスな片手剣ファイターだ。
胴体には鉄製のブレスプレートを装備し、手と足は革製である。
どこかクールぶってはいるが、それが中二病感を滲ませている。
「私はユニス・フォン・アーマライト・ミ・リアルデ・セルゲイ・マルチアナ・ティテルト・デ・トバリュト・リトバルスキーと申します。気軽にユニスとお呼びください」
ユニス・フォン・アーマライト・ミ・リアルデ・セルゲイ・マルチアナ・ティテルト・デ・トバリュト・リトバルスキー
ケンタウロス 女 17歳
アーチャーLv7
茶色の髪をポニーテールでまとめた凛々しく美しい人馬の女狩人が、鋭く切れ長の瞳のキリっとした顔で挨拶した。
うん、名前長い。
漫画とかでめちゃくちゃ長い名前の人をネタとして稀に良く見るけど、実物を目にする日が来るとは思わなかった。
装備はロングボウに全身革製品で、機動力を生かした遠距離戦をすればソロでもかなり優秀なのではなかろうかか。
こうしてケンタウロスを間近で見ると、ククやトトとの違いが良くわかる。
革鎧に押し込まれた胸はなかなかのものだが、足は細い。
下半身が完全に馬なので人間よりも普通に身長が高く、脚も長いのでガチ近接とかさせたらすぐにポキリと折れてしまいそうだ。
サラブレッドよりはがっちりしてるが、馬の脚の下の方って人間みたいに筋肉じゃなくて筋であったはず。
こういうチェックをさっとできるようになった辺り、慣れて来たなと実感する。
「よろしくね」
「「よろしくおねがいします」」
「よろしくー!」
「……」
俺達が挨拶を返すと、なにやらククとトトを凝視している。
初対面の人間にそういうのはよくないと思うんだけどね。
モーディーンさんを凝視していた俺が言うなとは思うが。
「彼女達はセントーラって種族だが何か?」
「いえ、初めて見る種族なので、少し珍しく思っていた次第です。気分を害されたのなら申し訳ありません」
嗜めるように俺は少しトーンを落とした調子で声をかけるも、ユニスは素直に謝ってきた。
「いや、こちらも攻めるつもりで言ったわけじゃない。誤解させてしまったならすまない」
素直なことは美徳である。
彼女からは誠実さと真面目さが感じられる。
俺はこの人馬の少女に少し好感が持てた。
「次はあたしの番だね」
やや低めの力強い声で前に出たのは、深緑の鱗に胴体と同じ長さの尻尾を生やした直立歩行のトカゲだった。
クサンテ
リザードマン 女 19歳
ファイターLv25
「あたしはクサンテ。見ての通りリザードマンの女戦士さ」
手にはショートスピアと盾を持ち、ユーベルトと同じ鉄のプレートアーマーと各所に革製の防具をつけていた。
ザアラッドさんより一回りでかい巨体には頼もしさを感じるが、身体的特徴に人間の女性らしさが無いと、いくら人外スキーでも欲情は出来ないなと実感した。
「では次は、満を持しての私が名乗らせて頂きましょう! 私の名はア~~~ヴィン! 流離いの吟遊詩人で~~~~すっ」
アーヴィン
エルフ 男 68歳
マジックキャスターLv26
きらめく金髪をかき上げ優雅な身のこなしで一礼と共にリュートを鳴らし、ビブラートを効かせて自己紹介をしてみせたのは、赤いド派手な革ジャケットを着たエルフの男だった。
すげぇ……異世界ってホントすげぇよ……。
アニメや漫画でも見たことねーよ、出っ歯のブサメンエルフなんて……!
俺はこいつには優しくしてやろうと何故か熱く心に誓った。
「お嬢さん、今夜は私と二人、月夜の湖で愛を語らいませんか?」
そのアーヴィンがリシアの手を取り、寝言をほざいて口づけをしそうになったところをスッと近付き横から腰で押しのけた。
うん、すまん。
だが人の嫁を口説くな。
「痛いじゃないですか」
アーヴィンは盛大にすっころんだにもかかわらず、素早い身のこなしで起き上がると、何事も無かったかのように服についた土を払う。
「そう言うのは俺の嫁以外でやってくれ」
「なっ!?」
俺の言葉に反応したのはアーヴィンではなくユーベルトだった。
……二人仲良く心の中の〈マスト殺すリスト〉に追加しておこう。
「お~、まさか貴方の奥方でしたか、それはたいへん失礼した」
アーヴィンは大形に驚いて見せると、すぐに紳士的な態度で頭を下げた。
唇から歯が出てるけど。
「じゃ~次はアレッシオちゃん、自己紹介してねっ」
話しが進まないと思ったのか、レスティーが全体的にふっくらとまるい男の背を押して前に出させる。
アレッシオ
ドワーフ 男 19歳
プリーストLv14
「あの僕はドワーフのアレッシオ、よろしくおねがいします」
温和な笑顔でゆったりとしたしゃべり方のアレッシオは、皆に一礼して簡潔に挨拶を終えた。
鉄球に棘の付いたメイスの一種であるモーニングスターと鉄の盾に全身革の装備だった。
「以上が第5PTよ。ちなみに私とユーベルトきゅんとアレッシオちゃんは以前から組んでいるわ」
そうゴンザレスティーがしめてくれた。
「よろしく。俺はトシオ。一応ファイターをやってる。こっちは―「トシオ様の妻でリシアと申します。ジョブはプリーストです」
何度目かの俺の言葉尻を奪い、アーヴィン以上の優雅な一礼と共に自己紹介をするリシア。
リシアの口から妻発言が出た為か、それで一縷の望みも断たれたようにうなだれるユーベルト。
気持ちが痛いほどよくわかる。
「じゃぁ次はククとトト」
俺が促すと、ククがトトに寄り添って前にでた。
「私はククテト、こちらは妹のトトテトです。魔物と戦うのは慣れていませんが、足手まといにならないように頑張ります。どうかよろしくお願いします」
「あては魔物とは何度か戦ったことあるよ」
「ジョブは二人ともファイターだ。今はこの4人でPTを組んでいる」
すかさず補足。
そして俺は最後の一人に顔を向けると、他の皆も彼女に注目した。
「あ、あの、私はフィローラで、す。職はエレメンタラーでしゅ! よろしくお願いしまふ!」
金髪の小さな女の子は、声に緊張を滲ませ頭を深々と下げた。
そのせいでメガネが落ち、落ちた眼鏡が俺の足元に来たので拾って渡してあげる。
「あああ、ありがとうございましゅ!」
慌てすぎて最後に口から変な声が漏れて更に慌てる。
「フィローラさんは可愛いね」
微笑ましかったのでつい口に出してしまうと、彼女は益々顔を赤らめ俯いてしまった。
あちゃー、余計なこと言うんじゃなかった……。
……あ。
またリシアにツッコまれるかと彼女に目を向けるも、リシアも微笑ましくフィローラを見ていた。
……昨日のウェイトレスさんが猫耳っ子だったからツッコんできたのかそうなのか?
正妻の琴線の基準がなんとなくわかったので次から気をつけよ。
それにしても、人に獣人にケンタウロスにリザードマンにエルフにドワーフか。
しかもキャラがオカマに厨二に優等生に男勝りにナルシストにおっとりだ。
第5PTはなかなかぶっ飛んでるな。
そして俺達第6PTも、異世界人に猫神様の奇跡に魔物な二人にマルモルだ。
明らかに『問題児を集めました』なこの第三班で、3日間も一緒にやらないといけないのか……。
でもここまで個性的だと逆に楽しそうだなぁ。
さぁて、夕食まで何をしようかな。
中高とぼっちに近かった俺には『臨海学校のやり直し、ただし今回は友達が居るよ』な感覚になっていた。
街道から森に入ると、大きな湖の近くにあるデクシ村に到着した。
村は太い丸太を地面に打ち込んで出来た壁で覆い、村と森を明確に分ける境界となっている。
そしてここまで運んでくれた竜車だが、なかなかの巡航速度と踏破力の高さを見せてくれた。
町の出入り口を出た途端、竜車の速度がぐんと上がり、舗装もされていないむき出しの地面にサスペンションが振動を吸収しきれず、ガクガクと大きな縦揺れの振動となって人体にダイレクトアタックを加えて来た。
おかげ様をもちまして、折角の朝ご飯が全て胃から消え去った。
誰だよ期待に胸を躍らせていた能天気なバカは!
って俺だったわ(お約束)
正直もう二度と乗りたくない……。
「大丈夫ですかトシオ様?」
吐いたのでだいぶ楽にはなったが、無駄に体力を消耗し、肩で息する体たらく。
そこへリシアが背中を摩り、ククも心配顔で寄り添ってくれた。
二人の優しさが心に沁みる。
「大丈夫、ちょっと気持ち悪いだけだから」
「トシオは情け無いなぁ」
「トト!」
そんな二人とは対照的に、蔑みの言葉を投げかけてくるトト。
ククが妹を窘めるも、ぷいっと顔を背けてしまった。
お前は後で覚えてろよ。
呪いながらも周りを見渡してみると、涼し気な森の空気の中建った村の中には立派なコテージが十数件立ち並んでいる。
そんな光景とは不釣り合いな、アンデッドのようにうごめくグロッキーな新米冒険者。
完全に死屍累々と言った状態だ。
竜車の揺れにやられたのは俺だけじゃなかったのね……。
「冒険者ともなれば、いずれは自分達の馬車や竜車を持つことになりますにゃ。冒険者ギルドでは竜車を使った村への物資運搬任務も多く扱っているで、自分達の竜車を持つ時のためにもその手の依頼を多く受けて慣れておくのも良いですにゃ」
モーディーンさんの言葉の投げかけに、皆の顔がげんなりとなる。
そう言えばリベクさんのところにもそれっぽいのが居たなぁ。
「では、行きの竜車内で聞いた君達の職業やPT事情を元に班分けを行いますにゃ。呼ばれた者は速やかにこちらに来るようお願いしますにゃ」
モーディーンさんはそう告げるとひとりひとりの名前を読み上げ、一組6人のPTを〈PT作成〉のスキルで作って一列に並べ、そこにもう1PTを横に並ばせて2PTの2列にしてまとめる。
そして殆どの者がPTを組み終わり6PT目として俺達四人が呼ばれると、最後に一人の少女の名前が読み上げられた。
フィローラ
マルモル 女 15歳
エレメンタラーLv1
俺の腹部ほどの身長しかないその少女の顔立ちは非常に愛らしく、頭の横からはマルモル族特有の長くて細い耳が伸びていた。
短いくせっ毛の頭髪は金色で、メガネ越しの翡翠色の瞳は、不安げに揺らいでいた。
マルモル族は俺がこの世界に来るきっかけとなったゲーム〈エターナルアース〉シリーズではお馴染みの種族で、その通称はロリエルフ。
大福さんの嫁にも居るらしい。
合法ロリキタ!
と言うかエレメンタラーだ!
これは是が非でもエレメンタラーの魔法の使い方を聞き出さねば!
「最初の2PT12人を第一班とし、ザアラッドとクリスタが監督役に就きますにゃ」
「よろしくな!」
「よろしくお願いします」
厳つい親父顔にニカっと笑みを浮かべたグラディエーターのザアラッドさんと、神官で美人ドワーフ女性のクリスタさんが前に出た。
クリスタさんはビショップLv49で、茶色の髪に黒い瞳のクールビューティー。
その印象は一言で言えば〈真面目〉、二言で言えば〈クソ真面目〉と言ったところか。
Lv的に恐らくはまだ上位職であろう。
第一班の編成を見ると、ファイターとシーフとプリーストが多く、年齢の若さに比べて体格の良い少年少女が多く集められていた。
まるで体育会系だな……。
「では2つ目の2PTを第二班とし、ベクスとアメリアの二人が監督役となりますにゃ」
「よろしくな」
「よろしくたのむわね」
すらっとした金髪エルフの美男美女であるベクスさんとアメリアさんが前に出た。
気さくな良いお兄さんお姉さんと言った感じで第二班のメンバーに声をかけると、男はアメリアさんを、女はベクスさんを見てハート目になっている。
その第二班の構成はファイターなどの前衛と魔法職や弓職などの後衛のバランスが非常に良く、今回の合宿が終われば編成に悩むことなくすぐにでも冒険者PTとしてやっていけそうだ。
見た感じ優等生タイプかな?
「最後の2PT11人を第三班としますにゃ。監督役としては私モーディーンとビアンカが担当しますにゃ」
「よろしくお願いします」
茶トラ猫頭のビアンカさんが優雅な礼をしてくださったので、頭を下げて返礼する俺達第三班。
「それでは以上でPT分けを終了ですにゃ。これから夕食までは自由時間としますにゃ。必ず班でまとまって行動するようにしてくださいですにゃ。親睦を深める時間として使うといいですにゃ。もしPTに馴染めない方やPTメンバーの交代をしたい場合などは我々ギルドスタッフまで申し出るように。何か聞きたいこととかありますかにゃ?」
モーディーンさんは皆を見回して間をあけるも誰も声を上げなかった。
「では解散ですにゃ」
モーディーンさんの解散宣言で俺達はそれぞれの班に纏まって顔を突き合わせた。
そして俺達第三班のメンバーなのだが、これが何と言って良いのか一言では説明し辛い面子が揃っていた…。
ゴンザレス
人 男 23歳
マジックキャスターLv19
「私はマジックキャスターのレスティー。よろしくね~」
レスティーと名乗った第5PTのリーダー(仮)は背が高く、栗毛のソフトモヒカン&ソフトマッチョな魔法使い。
顔はそこそこ男前なのだが顎が割れており、化粧をしていて言葉や仕草が明らかにオネエ。
そんな自称レスティー事ゴンザレスは第5PTのメンバー全員と挨拶(男とだけは握手)をし、次に俺達第6PTに挨拶をしてきた。
手を差し出されたがいくら悪食の俺でも男には興味がないので、手を握り返すことなく言葉だけの挨拶で済ませようとするも、おろしていた手を強引に握られ握手させられた。
あとで手を洗ってからリシアで上書きさせてもらおう……。
ゴンザレスティーは皆に挨拶を終えると、近くにいた青年に抱きついた。
ユーベルト
獣人 男 16歳
ファイターLv18
「なぜ抱き着く!? 放せ気色悪い! 俺はユーベルト、ファイターだ」
赤毛に犬耳の青い瞳をした美少年は、レスティーを振り払い全員に向き直ると、ぶっきらぼうにそう告げた。
身長はやや低く細身ではあるが、腰に片手剣、腕にはトトと同じような小さめの鉄の盾をつけ、盾を併用したオーソドックスな片手剣ファイターだ。
胴体には鉄製のブレスプレートを装備し、手と足は革製である。
どこかクールぶってはいるが、それが中二病感を滲ませている。
「私はユニス・フォン・アーマライト・ミ・リアルデ・セルゲイ・マルチアナ・ティテルト・デ・トバリュト・リトバルスキーと申します。気軽にユニスとお呼びください」
ユニス・フォン・アーマライト・ミ・リアルデ・セルゲイ・マルチアナ・ティテルト・デ・トバリュト・リトバルスキー
ケンタウロス 女 17歳
アーチャーLv7
茶色の髪をポニーテールでまとめた凛々しく美しい人馬の女狩人が、鋭く切れ長の瞳のキリっとした顔で挨拶した。
うん、名前長い。
漫画とかでめちゃくちゃ長い名前の人をネタとして稀に良く見るけど、実物を目にする日が来るとは思わなかった。
装備はロングボウに全身革製品で、機動力を生かした遠距離戦をすればソロでもかなり優秀なのではなかろうかか。
こうしてケンタウロスを間近で見ると、ククやトトとの違いが良くわかる。
革鎧に押し込まれた胸はなかなかのものだが、足は細い。
下半身が完全に馬なので人間よりも普通に身長が高く、脚も長いのでガチ近接とかさせたらすぐにポキリと折れてしまいそうだ。
サラブレッドよりはがっちりしてるが、馬の脚の下の方って人間みたいに筋肉じゃなくて筋であったはず。
こういうチェックをさっとできるようになった辺り、慣れて来たなと実感する。
「よろしくね」
「「よろしくおねがいします」」
「よろしくー!」
「……」
俺達が挨拶を返すと、なにやらククとトトを凝視している。
初対面の人間にそういうのはよくないと思うんだけどね。
モーディーンさんを凝視していた俺が言うなとは思うが。
「彼女達はセントーラって種族だが何か?」
「いえ、初めて見る種族なので、少し珍しく思っていた次第です。気分を害されたのなら申し訳ありません」
嗜めるように俺は少しトーンを落とした調子で声をかけるも、ユニスは素直に謝ってきた。
「いや、こちらも攻めるつもりで言ったわけじゃない。誤解させてしまったならすまない」
素直なことは美徳である。
彼女からは誠実さと真面目さが感じられる。
俺はこの人馬の少女に少し好感が持てた。
「次はあたしの番だね」
やや低めの力強い声で前に出たのは、深緑の鱗に胴体と同じ長さの尻尾を生やした直立歩行のトカゲだった。
クサンテ
リザードマン 女 19歳
ファイターLv25
「あたしはクサンテ。見ての通りリザードマンの女戦士さ」
手にはショートスピアと盾を持ち、ユーベルトと同じ鉄のプレートアーマーと各所に革製の防具をつけていた。
ザアラッドさんより一回りでかい巨体には頼もしさを感じるが、身体的特徴に人間の女性らしさが無いと、いくら人外スキーでも欲情は出来ないなと実感した。
「では次は、満を持しての私が名乗らせて頂きましょう! 私の名はア~~~ヴィン! 流離いの吟遊詩人で~~~~すっ」
アーヴィン
エルフ 男 68歳
マジックキャスターLv26
きらめく金髪をかき上げ優雅な身のこなしで一礼と共にリュートを鳴らし、ビブラートを効かせて自己紹介をしてみせたのは、赤いド派手な革ジャケットを着たエルフの男だった。
すげぇ……異世界ってホントすげぇよ……。
アニメや漫画でも見たことねーよ、出っ歯のブサメンエルフなんて……!
俺はこいつには優しくしてやろうと何故か熱く心に誓った。
「お嬢さん、今夜は私と二人、月夜の湖で愛を語らいませんか?」
そのアーヴィンがリシアの手を取り、寝言をほざいて口づけをしそうになったところをスッと近付き横から腰で押しのけた。
うん、すまん。
だが人の嫁を口説くな。
「痛いじゃないですか」
アーヴィンは盛大にすっころんだにもかかわらず、素早い身のこなしで起き上がると、何事も無かったかのように服についた土を払う。
「そう言うのは俺の嫁以外でやってくれ」
「なっ!?」
俺の言葉に反応したのはアーヴィンではなくユーベルトだった。
……二人仲良く心の中の〈マスト殺すリスト〉に追加しておこう。
「お~、まさか貴方の奥方でしたか、それはたいへん失礼した」
アーヴィンは大形に驚いて見せると、すぐに紳士的な態度で頭を下げた。
唇から歯が出てるけど。
「じゃ~次はアレッシオちゃん、自己紹介してねっ」
話しが進まないと思ったのか、レスティーが全体的にふっくらとまるい男の背を押して前に出させる。
アレッシオ
ドワーフ 男 19歳
プリーストLv14
「あの僕はドワーフのアレッシオ、よろしくおねがいします」
温和な笑顔でゆったりとしたしゃべり方のアレッシオは、皆に一礼して簡潔に挨拶を終えた。
鉄球に棘の付いたメイスの一種であるモーニングスターと鉄の盾に全身革の装備だった。
「以上が第5PTよ。ちなみに私とユーベルトきゅんとアレッシオちゃんは以前から組んでいるわ」
そうゴンザレスティーがしめてくれた。
「よろしく。俺はトシオ。一応ファイターをやってる。こっちは―「トシオ様の妻でリシアと申します。ジョブはプリーストです」
何度目かの俺の言葉尻を奪い、アーヴィン以上の優雅な一礼と共に自己紹介をするリシア。
リシアの口から妻発言が出た為か、それで一縷の望みも断たれたようにうなだれるユーベルト。
気持ちが痛いほどよくわかる。
「じゃぁ次はククとトト」
俺が促すと、ククがトトに寄り添って前にでた。
「私はククテト、こちらは妹のトトテトです。魔物と戦うのは慣れていませんが、足手まといにならないように頑張ります。どうかよろしくお願いします」
「あては魔物とは何度か戦ったことあるよ」
「ジョブは二人ともファイターだ。今はこの4人でPTを組んでいる」
すかさず補足。
そして俺は最後の一人に顔を向けると、他の皆も彼女に注目した。
「あ、あの、私はフィローラで、す。職はエレメンタラーでしゅ! よろしくお願いしまふ!」
金髪の小さな女の子は、声に緊張を滲ませ頭を深々と下げた。
そのせいでメガネが落ち、落ちた眼鏡が俺の足元に来たので拾って渡してあげる。
「あああ、ありがとうございましゅ!」
慌てすぎて最後に口から変な声が漏れて更に慌てる。
「フィローラさんは可愛いね」
微笑ましかったのでつい口に出してしまうと、彼女は益々顔を赤らめ俯いてしまった。
あちゃー、余計なこと言うんじゃなかった……。
……あ。
またリシアにツッコまれるかと彼女に目を向けるも、リシアも微笑ましくフィローラを見ていた。
……昨日のウェイトレスさんが猫耳っ子だったからツッコんできたのかそうなのか?
正妻の琴線の基準がなんとなくわかったので次から気をつけよ。
それにしても、人に獣人にケンタウロスにリザードマンにエルフにドワーフか。
しかもキャラがオカマに厨二に優等生に男勝りにナルシストにおっとりだ。
第5PTはなかなかぶっ飛んでるな。
そして俺達第6PTも、異世界人に猫神様の奇跡に魔物な二人にマルモルだ。
明らかに『問題児を集めました』なこの第三班で、3日間も一緒にやらないといけないのか……。
でもここまで個性的だと逆に楽しそうだなぁ。
さぁて、夕食まで何をしようかな。
中高とぼっちに近かった俺には『臨海学校のやり直し、ただし今回は友達が居るよ』な感覚になっていた。
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神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

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