四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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34話 魔導書Ⅰ

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 目が覚めると、俺はリシアに抱きついて眠っていた。
 右側にリシア、左側にローザをはべらせていたのだが、今は俺の頭を抱きかかえるリシアの胸に顔を埋めて抱き付き、後ろからはローザに抱きしめられるサンドイッチ状態だ。
 リシアの背中に回した手で体毛の滑らかな触感を確かめながら、頬に当たる柔らかな弾力を楽しむ。
 背後から抱き着くローザの質量と密着感も素晴らしい。

 酒池肉林ならぬ肉地肉林状態気持ち良い……。

 心地の良い肉の海に溺死していると、突然リシアの手が俺の顔を上に向かせ、唇を重ねてきた。
 目覚めの甘いくちづけを、俺は無粋にも暴力的に彼女の口内を蹂躙する。
 それに応えるようにリシアも舌を絡めてくる。

「おはようございます、トシオ様」

 荒々しいくちづけを終えると、女神の微笑みが迎えてくれた。

「おはよう。おかげで今日も最高の朝になったよ」
「その様なことを言われては、毎朝したくなっちゃいます……」

 リシアが再び自分の胸に俺の顔を埋めると、優しく髪を撫でてくれた。
 その動きでローザも目覚めたようで、緩慢な動きで身を起こした。

「おはようございますトシオさん、リシアちゃん」

「おはようローザちゃん」
「おはようローザ。ローザも綺麗だよ」

 俺は仰向けになってローザの首に左腕を潜らせる。
 抱き寄せようとしたがさすがに動かなかったじょはご愛敬だ。

「トシオ、様……」

 名前を噛みしめるようにつぶやくと、はにかみながらも自ら身を寄せてきた。
 仕草がかわいいのでこちらとも淫らな朝の挨拶を交わす。

「でもローザには今まで通り〝さん〟付けで読んでほしいかな。なんか急に変えられると違和感がすごい」
「残念ですわ、トシオさん」
「リシアはそのままでいい? ずっとそう呼ばれてたからなんかそのままの方がしっくりくる感じがして」
「はいトシオ様」
「あ、でも自分勝手で悪いんだけど、たまで良いから二人には〝あなた〟って呼んで欲しいかな?」
「わかりましたわ」
「えぇ」
「「あなた♪」」

 リシアとローザが赤い顔で瞳を潤ませながら、今までに無いほどの蕩けるくちづけを代わる代わるしてくれた。
 起きたばかりだというのに、両手に女神状態で幸福感がすさまじい。
 


 早朝から激しく淫らな運動を終え、日課となった槍を使っての準備運動を済ませると、庭の芝に寝転んだ。
 チャットルームを開いてレンさんとシンくんに話しかける。

 内容は奴隷使いと魔物使いの称号である。

 どちらもたいした能力は無いものの、固有スキルに〈契約〉と〈禁則事項〉があり、奴隷商と同じ事が出来るようだ。
 ただし、奴隷使いは亜人獣人を含めた人族のみ。魔物使いはモンスターのみその従者に加えることができる。

『〈契約〉は奴隷商人と同じで契約時には契約書と血の入ったインクが必要かもだけど、〈禁則事項〉は禁止項目の設定変更で普通に使えた。気が向いたら取っておいて損は無いと思う』
『ふむ、考えておこう』
『僕は別にいいかな』

 いまいち乗り気でないシンくんと、機会さえあれば取っても良いかな程度のレンさん。
 ここはレンさんの興味を引く方向からゆさぶってやろう。

『ミノタウロスとか人間よりマッチョっぽいだろうし、使役できたら筋肉が触り放題か……』
『む……!』
『別に人間型に限らず、自然界の生き物って強靭な肉体してるし、モンスターなら尚更かも』
『……確かにそうだな。より強力な仲間をPTに入れる意味でも必要かもしれん』
『兄貴!?』

 魔物使いの称号を獲得する為にも魔物商に行かねばとか、レンさんがぶつぶつと呟き始める。

 一名様ご案内♪

 では次に――

 シンくんを

     堕としてみせよう

              ホトトギス

『竜騎士とかステキやん?』
『!?』

 音声チャットにも関わらず、明らかに動揺がわかるシンくん。
 やはりシンくんは厨二方面で攻めるのが吉のようだ。
 ならば――

『飛竜に限らずでっかいドラゴンを使役して吐いた炎で敵を蹂躙とか、ロマンだよね~~』
『ぐっ……』
『魔王を倒す最強の竜騎士』
『確かにそれは……』
『いや、竜騎士の時点で魔王なんか倒すまでもなく、お姫様から村娘まで選り取り見取りだろうなぁ』
『……すごく良いかもですね!』

 追加でもう一名様ご案内♪

 ただ、このままでは野生のモンスターに突撃して強引に契約を迫り、失敗して大怪我とかになりかねないので『基本的には卵から返して育てるのがセオリーで、自分達より強いモンスターはまず契約できないし危ないからやめておいたほうが良いよ』と釘を刺しておいた。

 それからふと昨日風呂の水を入れた際のことを思い出したので、二人に話を振ってみる。

『昨日〈詠唱短縮〉状態で魔法を連射して使ったんだけど、時々発動しなかったんだよね。〈クールタイム減少〉って使ったことある?』
『それなら最近は常に使っているぞ』

 レンさんは経験済みか。

『僕はまだですけど、詠唱短縮があればロングアローを撃つと驚かれますよ』
『ロングアロー?』
『マジックキャスターのアロー系を最大レベルで撃つときは長い呪文詠唱が必要らしいです。でも、まれに詠唱短縮を持っている人もいるそうですよ』
『へー、そんな人も居るんだ』
『生まれ持っての才能とかだろうか?』
『いわゆる神の贈り物ギフトってやつか』

 何気にシンくんも狩りに行ってるっぽい?

『他にも俺達にはないボーナススキルのようなものがあるやもな』
『じゃぁワープみたいなボーナスを持った人が居れば、早く再会できるかもですね!』
『まぁそんな奴が容易に見つかれば良いのだが』

 シンくんの楽観論に、レンさんも『だったらいいな』のようなニュアンスで答える。

『話を戻すけど、クールタイム減少の使い勝手はどうだった?』
『有ると手放せなくなるほどに便利だ。詠唱短縮と組み合わせると、スキルの連射が出来る。例えば攻撃の連打に全てバッシュを乗せたりだな』
『へー。』

 てことは、エアレー戦では何発か不発していた可能性があるな。
 あの時は必至だったから気付かなかったけど。 

『ファイターの〈バーストインパクト〉を撃っても硬直せずに済むのも強みだ。周囲に衝撃波を放つ技の性質上、簡易バリアとして非常に優秀だ』
『マジか、あとで試してみる』

 レンさんから絶賛が返ってきた。
 
 バリアとかなにそれつおい。

『あと、誰かエレメンタラーの魔法の発動方法知らない? 精霊言語と詠唱短縮をとっても発動してくれないんだけど』
『僕のPTにはいませんから……あとで聞いてみます』
『俺のPTにはそもそも魔法職自体が居ないからな。やはり2~3人、最低でも神官系一人は欲しい所だ。……そういえば大福さんの奥さんにエレメンタラーが居たはずだ』
『じゃぁ悪いんだけど、誰か大福さんがINした時にでも聞いててもらえる?』
『わかりました』
『わかった』

 こうして今朝の情報交換を終えた。

 ではお待ちかねの検証タイムと行ってみよう。
 ボーナススキルを〈詠唱短縮Lv2〉〈クールタイム減少Lv2〉にし、バーストインパクトを――と行きたいところだが、あれ音が大きくてこんな早朝だと近所迷惑につながるのでぐっと堪える。

 代わりにチャット中に閃いたあることを試してみることにした。
 大空に向けて手を伸ばし――

 ファイヤーアロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!

 《ロ》の数だけ10本の火の矢が上空に打ち出され、眩い火柱が天へと昇る!

 おおおお! すげえ! あはははははは! なにこれすげー、気持ち悪い……。

 視界がぐるぐる回りその場で地面に倒れ伏せた。

 あ、昨日のMP消費しすぎた時に起きた目眩だ。
 昨日の今日なのにもう忘れるとかマヌケ過ぎだろ吐きそう……。

 ドンダケアホヤネン=テラバカス(BC:293~271)

 なぞの石膏ローマ人っぽい人が生まれたが、それと同時に盛大にリバースしてしまった。

 朝ごはん前でよかった……。

 MPが回復するともう一つ試したいことがあったので矢の出現場所を意識する。

 ファイヤーアロー!

 心の中でとなえると、10本の火の矢は仮想敵をイメージした空間を囲むように現れた。

 ふむ……。

 出現させた火の矢を再び上空に放つと、今度は上空の雲に意識を集中してファイヤーアローLv10を発動させる。

 俺は雲に火の輪を出現させるつもりだったが、予想を裏切るように10本の火の矢は大体50メートル程の距離で出現した。

 流石に距離が開きすぎか?

 またも火の矢を上空に放とうとしたが思いとどまり、火の矢を霧散するイメージで〈消えろ〉と念じる火
 の矢は雲散霧消うんさんむしょうした。

 発射キャンセルは出来るのか。

 好きな場所に出現可。
 有効出現射程50メートル。
 発射キャンセル可。

 アロー系がこの範囲まで任意の場所に出せるって事は、オールレンジ攻撃できるんじゃね?
 
 試しに10本生み出し、適当なタイミングと角度をつけて一本ずつ打ち上げてみたら普通にできた。
 
 魔法もイメージ次第で色々と出来るな。

 芝に置いてあった槍を拾い上げ構える。

 や。

 前方を槍で突きながら突いた空間の真下でファイヤーアローを一本出現させ上に放つ。

 よっ。

 袈裟斬りを前方の空間に放ちながら再びファイヤーアローをその空間の下から上に打ち上げ。

 たーっ。

 真横になぎ払うと同時になぎ払った空間から真上以下略。

 結論〈詠唱短縮〉さえあれば、マジックキャスターの魔法なんてイメージ次第で操作は自由。

 だがこの世界の人はそんなスキルチートなしでも詠唱短縮を可能にしようとしていたことが分かった。
 それはMP回復中に思い出したリベクさんに貰った魔道書の存在がきっかけである。

 収納袋様から魔道書Ⅰを取り出した。
 やはりそのままでは読めないのでボーナススキルの〈古代魔法語〉を習得してページをめくる。

 おー、読める読める。

 書いてる内容は『魔法とは、自身の中に宿る魔法エネルギーである〈マナ〉に方向性を与え、望む結果を引き出す技術である』から始まった。

 最初は魔法言語により力を導き〈力ある言葉〉で発動させ、馴れてくるとその言葉を心の中で唱え〈力ある言葉〉だけを口にする。
 最終的には〈力ある言葉〉を心の中で唱えるだけで、魔法を発動状態に持って行き、初めて魔法の扱いを熟知したことになるのだとか。

〈力ある言葉〉……〈ファイヤーアロー〉とか〈アイスボール〉とかの事かな?
 詠唱短縮で減っていく順がそうだし、今はそうだと仮定しておこう。

 んで、更にその少し先をさっき庭で『心の中の掛け声だけで魔法を発動させる』ということを、スキルの力で俺がやっていたわけだ。

 …え、これでⅠなの?

 てっきりマジックキャスターの魔法を網羅した程度のことしか書いてないと思ったら、結構ガチな真髄部分に触れている気がするんだが。
 てかこれでⅠならⅡやⅢってどんだけすごいこと書いてるんだ?
 でも逆に言うと、スキルがなくても現地の人達は可能であるため、実はボーナススキルなんてこれを書いた人にとっては当たり前の能力なのではと思ってしまう。

 またもチャットルームに戻り、先程までの事を二人に報告した。

『この短時間でそこまで調べたのか……』
『ねこさんのやり込み具合がすごいですね……』
『オールレンジ攻撃が楽しみだぞ俗物! 落ちろ蚊トンボ!!』
『『ぶふっ!』』

 チャットの向こうから盛大に吹きだす二人であった。

 チャットルームをまたサイレントモードに切り替え後、しばらくして兵器マニアのレンさんが『ねこさんの話を聞くとSFや近代兵器の知識も応用できるかもしれんな』と呟いたので、何かすごい案が出てくるかもしれない。

 どんな案が出てくるのやら、これは期待せざるを得ないな。
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