四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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33話 大浴場

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 首輪を外されたククテトとトトテトを引き取り、リベクさん宅を後にした。

 帰りに雑貨屋へ寄ると、リシア達に新居で足りていないも物を持ってくるように頼む。

 石鹸も欲しいなぁ……あ、乾燥させたヘチマがある。
 ヘチマってボディタオルになるんだよなぁ。
 手拭じゃいまいち洗った気がしなかったので、これも買っておこう。

 近くに居たトトテトが店先の棚に置かれてある小さな犬のぬいぐるみを興味深げに指で突っつき、ククテトがガラスの風鈴をじっと見詰め、風が吹く度にちりりーんと鳴る澄んだ音に耳を傾けている。
 青いガラスの涼し気で綺麗な風鈴だ。
 
 会計を済ませで一旦店を出ると、最初の角を曲がったところで「あ、買いそびれた物を思い出したからちょっと戻って来る。先に行ってて」と伝えて店に戻った。
 素早く買い物を済ませ、直ぐに彼女たちと合流を果たす。

「なにを買われたのですか?」
「予備の石鹸。使ってるものがなくなってから買いに行くのって面倒でしょ?」

 リシアの問いにそう告げると、小さな声で「嘘が下手ですね」と笑われてしまう。
 ハハッ、バレテーラ。

 新居までの道すがら、二人から少し事情を聞くと、思ったとおり二人は姉妹。
 それまでは森の奥で魔物である母親と暮らし、近隣の村の人々からは神の獣として崇められていた。
 しかしある日、見かけない人間(話の様子からは冒険者)が森へ入ってきて捕まり、売り飛ばされたのだそうだ。
 母親はどうしたのかと聞くと、逃げるときにはぐれてしまいわからないとの事。

 出来ることなら再会させてあげたい。

 話を聞いている間に新居へ到着。

「ここが今日から私達の家ですよ」

 ローザが慈母の笑みで二人に声をかけ、新居の庭へと足を踏み入れる。
 芝の中に浮かぶ石畳が扉まで続いている。
 とりあえず玄関に到着したは良いのだが、ククテトとトトテトは裸足であるため、このまま家に上げる訳にもいかない。

「2人の足を洗わないとな」

 二人の体全体が土埃で汚れているため、足と言わず全身丸ごと洗ってやりたい。

「では母屋と納屋の間を進んで頂けますか? お風呂場の出入り口を開けますので」

 リシアが何気なくそう言うと、家に上がった。

 いや待って、今なんて言いましたリシアさん?

「風呂……だと……!?」
「こちらですよ」

 こちらが驚愕しているにも関わらず、ローザも何事も無いように家と納屋の間へ入っていく。
 俺も獣の姉妹を伴いその後を追うと、土間の扉のもう一つ向こうの扉が外側に開き、リシアが顔を出す。 

 中を覗くと、どこの風呂屋だよと言いたくなるくらい個人の家の風呂にしては広く、古代ローマの大衆浴場の様な石造り仕様。
 広さ的にはリビングくらいはある。

 奥に見える扉と玄関から延びる廊下から見えた扉が違うことから、おそらくだが隣は脱衣所だな。
 リビングと土間があのくらいで風呂がこれだから、脱衣所(?)も結構広そうだ。

 洗い場と浴槽には20センチ程の段差となり、浴槽の底は地面よりも下にある。
 排水口が洗い場だけでなく、浴槽にまで備えられている。

 浴槽深いなぁ。

 浴槽の底が二段になっており、一段目は人が普通に座って肩が少し出るくらいだが、深い所では立っていても頭と首しか出ないくらいの深度となっている。

 なんでこんなデザインなんだ?
 水の量を減らしつつ深さも楽しみたいとか?
 設計依頼を出した人間の思考がわからん。
 けど、全体的には天井ぶち抜いて露天風呂にしたいくらい情緒があった。

 それと、排水口があるってことは、下水道も完備されているってことか。
 リベクさん地のトイレも水洗だったし、ライシーンって案外インフラ設備が整っているのかもしれない。
 大通りには街灯が並んでるし。

「以前は魔法使いの方が暮らしていたそうで、お湯なんかも魔法で沸かしていたそうですよ。なので裏のポンプで水は溜められますが、お風呂としては使えません。でもプールとしてなら使えますよ」

 リシアはそう説明し終えると、桶を持って浴場を出て行き、水を汲んで戻って来る。

 俺は靴を脱いで浴室に入ると、人獣の2人を招き入れる。
 リシアから桶を受け取りククテトに渡す。

「脚の裏は自分達で洗える?」
「はい」
「じゃぁ俺が水を用意するから、土とか綺麗に洗い流してくれ。リシア、手拭いがあったら持って来て。ローザはこのハーピーの卵もリビングに置いてきてくれる? あと、ルーナには絶対に遊ばないようにと注意もお願い」
「「はい」」

 作業の指示をだしながらステータスポイントを魔力へと極振りし、メインジョブをマジックキャスターに切り替えた。
 マジックキャスターのスキル〈クリエイトウォーター〉とファイヤーアローにスキルポイントを振る。
 さらにボーナススキルを人語習得と詠唱短縮以外をMP回復系に振り、排水溝を栓で蓋してから浴槽を出る。

 魔法使いしか使えないような風呂の作りをしているという事は、魔法で風呂が沸かせるという事だ。
 だったら俺もそれに挑んでみようじゃないか。
 久々の風呂に俄然やる気が出てくる。

「クリエイトウォーター、クリエイトウォーター、クリエイトウォーター、クリエイトウォーター、クリエイトウォーター」

 クールタイムにかぶるのか、時々魔法に失敗するも、大量に湧き出る水は次第に浴槽を満たしていく。
 だが満杯一歩手前で唐突に頭がくらくらとし始め、強い吐き気を催した。

 あ、なんだこれ、すご、く気、持ち悪、い……。
 風呂の淵を手で掴み、倒れないようにしたが膝をつくと盛大にリバースしてしまう。
 視界の右隅で点滅している簡易ステータスバーに気が付くと、MP残量がほぼ枯渇しかけていた。

 MPの使いすぎってこんな副作用もあるのか……。

「やはり魔法が使えたのですね」

 へばっている俺を見たリシアが寄り添うと、その胸に抱いてくれた。
 突然の体調不良に焦りと不安が生じていたが、リシアの温もりと優しさに動揺が薄れる。
 服についてしまった吐しゃ物が申し訳ない。
 魔法に関してはエアレー戦で見せはしたので驚きが薄い。

「ジョブを好きに弄れるってことは、マジックキャスターにだって切り替えられるってことだからね。あと、同時に別のジョブも一つまで追加できる。ここ数日のリシアもメインジョブがプリーストでサブがファイターのダブルジョブにしてた」
「そのようなことまで出来たのですか……。ですが、MPの使い過ぎには気を付けてくださいね? 家の中だから良かったものの、戦闘中だと命にかかわるのですから」
「そうだね、気を付けるよ」

 回復したMPが危険値から脱したのか、気分の悪化が収まったので立ち上がる。
 すると、リシアが声を忍ばせ尋ねてきた。

「それでですね、あの……私をエレメンタラーにしてくださる件は……」

 やはり諦めきれないのね。

 恥じらいながら人に聞かれないようにと小声で聞いてくるリシアが可愛すぎる。
 そんな子供の様な夢を未だに持っている可愛いリシアに近付き頭を撫でた。

「実は試しはしたんだけど、エレメンタラーの魔法ってどうやれば使えるのかわからなくってね……。今は無理だけど、わかり次第必ずエレメンタラーにしてあげるから待っててね」
「はい♪」

 リシアは俺の言葉に沈んだ表情になるものの、希望はあると示した途端に笑顔で大きく頷いた。

 日曜の朝の女児向けアニメを応援する女の子ってこんな感じなのだろうか?
 愛らしすぎるので額にキスしておく。

 しかしエレメンタラーか、近くに居ないかな?
 あとで大福さんの奥さん達の中に居ないか聞いてみるか。

「あの、……御二人はつがいなのですか?」

 俺が思案していると、気になったのかククテトが恐る恐る問いを投げて来た。

「んーまぁ「つがいよ」

 リシアがまたも俺の言葉尻を奪ばい、胸を張って言い切る。

「それからさっき居たローザが二人目の奥さん。君が三人目になってくれると嬉しいかな?」
「ま、魔物が人族とつがいになんてなれるはずが!?」

 ククテトは慌てて否定するが、俺は彼女の髪を撫で、二人の距離を物理的に縮める。

「やっぱり人種は嫌?」
「い、嫌ではありませんが、あまり深くは関わるなと母から言われて育ちましたから……」

 少し恥ずかしそうにしながらも、母の教えを忠実に守ろうとするククテト。

 嫌じゃないんだ。
 元々は崇められていたみたいだし、それなりの距離を保って共存していたみたいだから、種そのものには嫌悪感がないってことかな。
 言葉通りに取ればだけど。

 そのまま頭をなでさせてもらっていると、俺とククテトの腹部の間に、もこもこの大きな腕がねじ込まれる。

「お姉ちゃんから離れろ!」

 力いっぱい俺とククテトを引き剥がしたのはトトテトだった。
 健気にも俺とククテトの間に立ち、再び敵愾心を露にする。

 まずはこっちを懐柔する必要があるな。
 だがどうするべきか……。
 
 思案しながらトトテトを見つめていると、ククテトが怯えながらも必死の形相で彼女を庇うように前に出る。

「申し訳ありません、妹はただ私を守ろうとしただけなのです! 罰なら全て私が受けますから、どうか妹だけはお許しください!」

 しまった、黙ってたから機嫌を損ねたと思われたか。

 脅すつもりは無かったのだが、ここまで怯えられると逆にこっちが困る。
 なので彼女達との関係を悪化させない為にも、今すぐ行動を起こさなければならない。

「……いやだめだ。トトテト、俺の前に出ろ。これは命令だ」
「ぐうっ」

 わざと高圧的に告げる。
 ククテトに押さえられて前に出られないトトテトが、胸を押さえて苦しみだした。

「ククテト、手を放さないと妹が苦しみ続けるぞ」

 慌てて身を離すも、ククテトのその顔には苦渋が滲んでいる。
 トトテトは苦しみから逃れるように一歩、また一歩と前に足を進め、俺の元にたどり着く。

 歩き方から筋肉の動きまで、その歩みは小さなトラそのものだ。

「はいよく出来ました。じゃぁこれから罰を与えるね」

 そう言って彼女を抱きしめると、優しく頭を撫でてあげる。

 よーしよしよし、可愛いねーいい子だねー。

「う、あ、なにするんだー!?」
「罰として今日出会ったばかりの男に抱きしめられ撫でられる刑を執行してやってる。ありがたく嫌がりなさい」
「やーめーろーよー!」

 嫌がるトトテトを無視して、余さず彼女のもふもふのもふもふをもふもふしてやる。
 生意気な小さな子を相手にしている様でほほえましい。

「トシオ様、そのような羨ましい罰なら私も受けたいです!」

 リシアがなにやら口走っているので呼び寄せると、彼女にもこの素晴らしきもふもふを堪能させてあげた。

「こ、これは……、ローザちゃんとはまた違った心地良さがありますね……!」

 トトテトをうっとり顔のリシアに預けて身を離すと、今度はククテトに向き直る。

「さてと、じゃぁ次は俺の邪魔をしてくれたククテトにも罰を与えないとね」
「え? え?」

 執行された妹への罰の意味不明さに困惑するククテト。
 そんな彼女に素早く近付き頭を抱き寄せると、髪や背を撫でてじっくりとモフる。
 胸に彼女のたわわな巨峰はむにょむにょと当たっていて、ちょっといけない気持ちになりそうだ。

「あの、これは一体どういうことでしょうか……?」

 非道な仕打ちを受けない為に大人しくしているのだろうが、罰とは思えないくらい優しく抱きしめ撫でられている状況に、ククテトの困惑が更に増す。

 これはいいもふもふだ。
 あとでローザにも味あわせてあげようそうしよう。

 そして彼女達にも、ローザの素晴らしさを堪能させてやらねばならない……。
 
 俺は口元に邪悪な笑みを浮かべながら、くすんだ白い体毛をもふり続けた。

 そんなことをしている間にも、MPが回復しきる。
 今度はファイヤーアローを水の中に出現させて水をお湯に変える実験を行った。

「意外と何とかなるもんだな」

 湯気を上げているお湯を見ながらつぶやく。
 あっけなさ過ぎて拍子抜けだ。
 念のためロングスピアでかき回すが、底が水だったという事もなかった。

「こんなに大きなお風呂に入るのは、私初めてです」
「俺もだよ。それじゃぁリシア、ローザを呼んできてくれる? これからみんなでお風呂に入ろう。っとその前に、ククテト達の身体も洗わないとな」

 しばらく待つと、恥じらいながらも全裸となったリシアとローザが浴室に入って来た。
 その下腹部にある奴隷紋が、淫紋に見えてドチャクソエロい……。

 昼前にハッスルしたばかりだというのに、再びもたげそうになる欲望と煩悩。
 それを誤魔化すように、ククテトとトトテトの身体を石鹸で洗い、泡塗れにするお仕事に没頭する。
 これが思いのほか楽しくて、皆で群がって洗いまくった。
 洗われるククテトも最初は緊張していたが、マッサージを受けている気分になっているのか、途中からは凄くリラックスしていた。
 トトテトは終始くすぐったがって馬鹿笑いしていたが。
 石鹸はそこそこ高かったが、二人を洗えたので満足だ。

 桶からお湯を組んで洗い流すと、真っ黒な汚れが洗い場に広がり、その汚れの落ち具合に感動した。
 だがもっと感動することに、灰色掛かっていたククテトの体毛が見事なまでの純白となって現れたのだ。
 
 これはどう見ても神獣の類ですわ。
 ここまで神々しいなら、そら近所の村人に崇めらるわな……。
 
 次にトトテトを洗い流すと、少しくすんだ白髪に狸のような茶色に黒が混じったの赤毛が現れた。
 灰髪タヌキ色、だがこれはこれで愛嬌があるな。

 全員が体を洗い終わり、いざ湯舟へ!

 そこで初めて浴槽の段差の有効性に気が付いた。
 体の造りが全体的に小さく、それでいて姉と同じくらいには足の長いトトテトには、俺達と同じ高さでも問題は無い。
 しかし、ククテトは下半身しか入れていなかった。
 そしてククテトもそれにもどかしさを感じてか、奥の深みへと入ると、全身きっちり浸かってしまった。

 もしかして、あの深さは人馬用だったりするのか?

「リシア、ここの前の持ち主ってケンタウロスだったりする?」
「いえ、ただ魔法使いの方だったとしか聞いていません」

 浴槽の謎は迷宮入りとなりましたとさ。



 風呂を出た後、乾いたククテトに毛をなでさせて貰ったが、洗う前とは比べ物にならないくらいさらさらとなり、今度はローザも交えてもふらせてもらう。

 ローザがトトテトを抱きしめると、最初こそ嫌がったトトテトであったが次第に恍惚の表情を見せ始め、ローザの肉に顔を埋める。
 それを目撃した俺とリシアの口元に、悪い笑みが浮かんでいたのは二人だけの秘密である。

 堕ちたな(暗黒微笑)



 夕食では5人には多すぎると思った程の料理の量を、新たに加わった二人が――特にトトテトが、底なしの胃袋を発揮し片付けていく。
 
「これ程美味しい食べ物は初めてです!?」
「―――――! ――――――!」

 ククテトが感動で絶句するも、トトテトは無言でスプーンを動かしガツガツと食い散らかす。
 ボロボロとチャーハンの米粒がこぼれるが、そんなものはお構いなしに貪っていく。
 
 これは急がないと俺の分までもっていかれる!

「お口に合った様でよかったですわ」

 言っているローザも次々に口に入れては咀嚼し、また口に運ぶ。
 彼女の速さも大概だな。

「以前は何を食べていたの?」
「山や森にある果実や木の根、他にも魔物が落とす肉とかを焼いて食べてました。あとは虫とかです」

 リシアの問いに思い出しながら答えてるククテト。
 完全に雑食の野生動物だな。
 さすがに虫を食べるのはやめてもらいたい。
 


 そして夜。
 一階廊下をまたいだ反対側の通路に3つある個室の一つに布団を敷き、獣の姉妹にはそこで寝てもらう。
 個室と言っても新居のリビングキッチンを3等分にしたサイズナタメ結構広い。
 そして個室の前の部屋は、扉を開けると大広間となっている。
 どう考えても5人でも使い切れない広さである。

 広すぎじゃね?

「二人とも、俺達は奥の部屋を使うから、何かあったらいつでも来て良いからね」
「はい、わかりました」
「……そうだトトテト」
「………?」

 部屋を出る間際、収納袋様からある物を取り出し、未だ警戒を解かない彼女に手渡す。
 それは昼間、雑貨屋で彼女が興味を示した小さな犬のぬいぐるみだ。

「なんで……?」
「さぁ、なんでだろうね? それじゃぁ、おやすみっ」

 困惑するトトテトを置いてリビングへ戻ると、リビングの丁度真ん中辺りの窓に、青いガラスの風鈴を取り付けた。
  
「まぁ、風鈴ですか? 良いですわねぇ」
「これを買いに戻られたのですか?」
「ククテトが気に入っていたみたいだからね」
 
 ローザとリシアにそう言うと、三人寄り添って澄んだ音色に耳を傾ける。

「……それで、私達のは無いのですか?」

 リシアがねだる様にそう訪ねてきたが、その琥珀色の瞳は真っ直ぐ俺の目見詰め、薄着となった胸を俺の二の腕に強く押し付けてくる。
 そんなことをされれば、いかに鈍感な俺でも察するというものだ。 

「それは今から三人で作ろうか」

 リシアの形の良い唇を奪うと、二人を新たな寝室へと連れていく。

 抑える必要の無くなった情欲で、愛しの妻達を激しく求めた。

 実に充実した一日となった。
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