四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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28話 自重

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 モリーさんの店での騒動から一夜明けて、俺とリシアは再び朝から冒険者ギルドに来ていた。
 いや、流石に委託したあの鎧が昨日の昼前から出していたとは言え一日で売れるとは思って無かったよ?
 うん、思ってはいなかった。

「おはようございます……」
「おやトシオくん、リシア、おはようですにゃ」
「おはようございます」

 モーディーンさん達のPTが冒険者ギルドのテーブルで朝食をとっていたので声をかけたんだが、その中の一人、グラディエーターのザアラッドさんの着ている鎧にどうしても目が行ってしまう……。


強靭な対物対魔のミルトライトアーマー
打撃軽減(中)
斬撃軽減(中)
刺突軽減(小)
炎軽減(小)
体力増加(大)
物理ダメージ軽減(中)
魔法ダメージ軽減(中)
破壊不可
ライトウエイト付与
スロット【オークカード×2】【ゴーレムカード】【ミスリルゴーレムカード】


 わー、なんだこのすごい付与の掛かりまくった鎧はー(棒)

「す、すごくいい鎧ですね……」
「とてもお似合いです♪」

 若干震え声で言葉を投げかける俺とは違い、追従するリシアの営業スマイルには頼もしさすら感じてしまう。

「おお、わかるか? 昨日良い出物があってな、思わず有り金を全てはたいて買ってしまったわい! がはははは!」

 ザアラッドさんは大声で笑いながら立ち上がり、真新しい輝きを放つ鎧を自慢げに披露してみせた。

 お買い上げありがとうございます!

 食事の邪魔になるといけないので一言二言交わしてすぐに別れると、俺達は換金カウンターに直行する。
 冒険者カードの提示を求められ本人確認後にお金を受け取ると、PTメンバー全員でカード更新カウンターへ行くように言われた。
 だが不思議なことに、革袋の大きさがリベクサンに渡されたのと同じ大きさしかなく疑問に思う。
 手に持ってみたが予想をはるかに下回るずっしり感しかない。

 おかしいなぁ、手数料を差っ引かれてもこれの5倍はあるはずなんだが。

 その場で中身を確認すると、革袋の中に小さな革袋が別にあり、その小さな革袋の中には見慣れない硬貨が2枚入っていた。
 鑑定をかけて確認すると〈白金貨〉と鑑定された。

「トシオ様、白金貨は金貨100枚分の価値があります……」

 周りを気にしながら、リシアが耳元で小さく教えてくれる。

 うわー…、うわー…。

 手が震え膝が笑い、食いしばっていないと歯がガチガチと音を鳴らす。
 手足に変な汗を拭きだしてくる。
 そんな大金を持っていることが怖くなり、すぐに収納袋様に放り込んだ。

 どどどどうしらたいいんだ!?
 おおおちお落ち着け、どうもしない、たまたま持っているってだけで何も変わらない、変わる訳じゃないから冷静になれ!

 とりあえず言われたとおり更新カウンターにやってきた。

「あら、貴方は確か一昨日の」
「はい、トシオです。こちらに来るように言われました」
「ではカードをお預かりします」

 平静を装っているつもりだが、はたからだと装いきれているのか謎である。

「更新するわね。〈アップデート〉」

 何かの魔道具にかざしてスキルを発動すると、カードが輝き☆の数が2になっていた。

 ☆イチノセトシオ☆

 はい、色々なダメージが抜けていませんともサーセン!

「すごいですね、たった2日でランク2だなんて。でも無茶はしないでくださいね」
「はい、ありがとうございます」

 にこやかに告げる職員のお姉さん。
 次にリシアもカードの更新をしランク2に昇格する。

 二人の昇格の理由。
 言うまでもなく、鎧の委託の売り上げ手数料である金貨28枚分の貢献だ。
 金貨28枚は実に痛いが、まぁ持ちつ持たれつってやつだし、しょうがないを割り切った。

 俺はリシアを連れて冒険者ギルドにある酒場兼食事所のカウンター席に座ると飲み物を注文し、この結果をチャットルームに居たレンさんとシンくんに伝えると、レンさんから『一箇所で永続的に暴利を貪るようなことは慎んだ方が良いだろうな』と釘を刺された。

『どうしてですか?』
『簡単に言えば、レアアイテムの価格が高騰して金を持つ一部の者達以外装備を強化出来なくなる』

 シンくんの疑問にレンさんが単純な結果だけを口にした。

 レアアイテムが高騰すると、初心者の装備が強化されない。
 結果、初心者は延々と低級の狩場から出られなくなり、冒険者内でも格差が生じる。
 ネトゲーと違い課金アイテムなんて逃げ道が存在しないのもまずい。
 それでも新人が居なくなると言うことは無いだろうが、ゲームではない以上、自分のせいでそんな不幸が生まれるなんて業を背負い込むのは御免被りたい。

 アイテムだけに関してならこれだけなのだが、もっと深刻な問題が他にもある。
 獣害なんかの被害が出ても、駆け付けた冒険者の装備が貧弱であるなら討伐速度が下がり、人的被害も増えてしまう可能性だ。
 その辺を理解せずに自分勝手にやってると、不幸が蔓延しかねない。
 そうなると、何らかの形で自分にしっぺ返しが発生することだって十分ありえるのだ。

 今後このお金稼ぎを禁じ手にしようと自分を戒め自重する。

『バタフライ効果で何が起きるかわかんない世界だし、慎んだほうが良いかもしれない。それじゃ一旦サイレントモードにするね』

 俺はそう締めくくってチャットを終えた。

 その後もレンさんはシンくんに俺が考えていた事をきっちり理解するまで教えているのを聞き流していると、注文の飲み物がシュワシュワと炭酸を弾けさせて洒落たグラスで出て来た。
 透明な液体の中に白味かかったブロック状のシャーベットが氷替わりに浮いた飲み物を、リシアと二人で堪能する。

 画像映えしそうな小洒落た炭酸飲料だ。
 味は青りんごかな?

「さっぱりとした口当たりにも関わらず、氷から解け出た果物で風味も濃く、ほどよい甘さがとても美味しいです」
「暑いときに冷たくて清涼感のある飲み物って最高だね」

 良く冷えた喉越しが心地よく、漸く一息つく。

 リシアが解ける前のシャーベットをスプーンで口に運び、笑顔で綻ぶ愛らしい横顔がまた格別だ。
 酒よりも割高なお値段ではあったが、愛妻から最高級の笑顔が引き出せたため。頼んでよかったと思う。

 初日のやらかしがあるだけに、お酒を頼む気は毛頭無いしね。
 でも、こうしてるとまるでデートをしている様で少し気恥ずかしい。

「美しいお嬢さんにそう言ってもらえると、私も作った甲斐ありますよ」

 小奇麗な服装をした初老のマスターが、感じの良い微笑みを浮かべ「これはサービスです」とイチゴの様な果物を皿に少し盛って俺達の間に置いてくれた。
 この配慮が実にニクイ。
 二人で礼を述べてから頂くと、イチゴとはまた違った少し酸味のあるベリー系の味で、これも冷たくて美味しかった。

「とても美味しかったです」
「ありがとうございました、また来ます」
「いつでもお待ちしております」

 笑顔で再度礼を述べて席を立つと、心が和んだせいか脚の震えも収まっていた。

「図らずも今日一番の用件が終わったけど、こんなうわついた気持ちで狩りに行くと事故りかねないから今日はやめておこう」
「それが無難ですね」
 
 リベクさんから頂いた50万カパーが家計費と昨日のアレコレで14万4千カパーまで減り、そして今日には264万4千にまで一気に膨らんだのだ。
 しかも手元にはリシアに買った特殊金属の鎧と盾、睡眠混乱無効の鋼鉄ヘルムと毒麻痺無効の鋼鉄グリーヴ。
 そして昨日付与してもらいそこねたゴーレムカードのおまけつきだ。
 浮つくなと言うほうが無茶である。

 だが大金は手に入った。
 これで奴隷か魔物を購入して戦力拡充に充てられる。
 まだ見ぬケモっ娘にドキが胸々してきたぜっ!

「でしたら新居の準備が出来ていますので、これから向かうと言うのはどうでしょうか?」

 次はリベクさんの元へGOと思った矢先、リシアが新居案内を開始した。

「もう改装終わったんだ」
「掃除だけで済んだみたいです。なので、食器などの日用雑貨を買い足して行きましょう。簡単な物はすでにここに入っていますから」

 リシアが背中の魔道具袋をこちらに示す。
 準備万端過ぎて自分の嫁の良妻っぷりに感心する。

 そして今晩は新居で二人きり……。

 今までは周囲を気にして抑え気味だっただけに、これで色々と気にしなくて済む。

 新妻のあられもない姿を思い出しながら、彼女の案内で新居へ向かった。

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