四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

文字の大きさ
上 下
29 / 254

23話 夫婦の取り決め

しおりを挟む
 部屋に戻るとまずステータス欄とアイテム欄を開く。
 ステータス欄に500.127カパーと表記されている。
 アイテム欄を見ると金貨50枚。

 一気にお金持ちにはなったが、実際どれほどの価値があるのかいまいちわからん……。
 地方の町の宿代が食事別で一泊10カパーなのは大福さんやレンさんに聞いてはいるが、外で買い食いとかもしていないので、庶民が一日いくらで生活しているのかがわからんと話しになんないなぁ。
 その点シンくんは街中を観光しているらしいが、あそこは物価が高いそうなのでめやすになるのかも少し怪しい。
 でもライシーンも大都市だし、むしろシンくんの方が参考になるかも?
 いや、そういうのはまずライシーンっ子であるリシアに聞くべきだな。

 椅子に座りながら金貨袋を取り出しテーブルの上に置く。
 二人で食事くらいは可能な大きさのありふれた丸い木のテーブル。
 すると、リシアがもう一つの椅子を俺の隣にもってきて並んで座る。
 肩が触れ合うのが甘酸っぱくて胸に来る可愛い。

 けど――。

「金貨5枚多くね?」
「それは恐らく冒険者ギルドに支払う手数料も込みだからですよ。売りに出すのも買い取りを依頼するのも手数料が発生しますので」
「あぁ、納得」

 そしてその冒険者ギルドへの依頼を取り下げるため、ワイザーさんがギルドへと走っていった。
 お手間を取らせてすみません。

「手数料は大体1割くらいか」
「そうですね」

 そんなことを言いながら、リシアも触れ合う肩の感触を楽しんでいるかのように、押したりすれたりを繰り返す。
 もうずっとこうしていたいところだが、俺達はただのカップルではない。
 まだ3日目だが夫婦なのだ。
 しっかり決めておかないと、夫婦としてこの先やっていけない事だってある。

「まずはこのお金をどうしたものか」

 そんな切り出しでスタートする。
 お金の問題は人を変える。
 ここを最初にきっちりしておかないと、夫婦の間に溝ができ、離婚なんて事にもなりかねない。
 だからできる限り早めにきっちりと決め、今後の憂いを取り除いておきたいのだ。

「どうされるのですか?」
「まずは半分を家計に入れて、残った半分をリシアと山分けにしようと思うんだけど、どうかな?」
「家計に金貨25枚は多すぎませんか? 一般のご家庭でも子供が5人居たって1年暮らすのに10万カパー、金貨10枚も必要としませんよ」
「そんなもんなんだ」
「そんなものなのです」

 てことは、消極的に考えても二人で生きていくだけなら5年は働かずに食っていけるという事か……え、リベクさんなんて大金渡してくれてやがりますん?
 正気かあのおっさん。
 そしてこれに見合ったものを返すつもりだったのか俺。

 あまりの大金に額と手と足の裏に変な汗が出始めたが、今は無視して話を続ける。

「じゃぁ先ず10枚を家計に入れて、残りを二人で――」
「トシオ様」
「なに?」
「私を信頼してくださるのは大変うれしく思いますが、10万カパーもあれば、例え3人でも2~3年はそれでやりくりして見せます。当然その中から私のお小遣いも少しは拝借させていただきますが。なので、残りはあなたが自由にお使いください」

 ……え、何言ってるのこの子。
 どんだけ男に都合が良いこと言ってるの?
 わかってますのリシアさん?
 は?
 え?

 リシアのあまりの無欲さに、思考が空転してしまう。

「それに、冒険者は何かとお金も要り様になるはず。残りのお金はすべてトシオ様が管理してください!」
「わかった」

 反論しようと言い訳を頭で練っている間に、先にリシアに力説され、たじろぎながら思わず頷いてしまった。
 何が彼女をそうさせているのかいまいちわからない。
 けど、やはりそれではリシアに申し訳がない。
 なので彼女には別に金貨を1枚渡す。

「必要になるかもしれないから、これだけでも取っておいて。1年後にはまた渡すから、余ったら好きに使ってくれていいから。あと、家計からも欲しいものがあったら買っていいからね?」
「わかりました。ではお預かりします」

 金貨11枚を手渡されたリシアがそれを〈魔道具袋〉に収納する。

 これでお金の話は決まったと言っていいだろう。
 今後は変化が起きる度に話し合いをすればいい。
 マイホームとかマイホームとか子供とか。

 俺に子供……ちょっとまだ想像もつかないな……。
 子供がそのまま大きくなったみたいな人間なだけに、色々と不安しかありやしない。
 あとは今日の戦利品だな。

 アイテム欄には〈初級魔道書〉〈中級魔道書〉〈上級魔道書〉〈エアレーカード〉〈エアレーの角〉〈山羊の角〉〈うさ耳〉と並ぶ。

 アイテムは冒険者ギルドの隣にある買い取り屋にもっていけばいいらしい。

 あと肉の類は部屋に戻る前、料理番の奥さん達に全て渡したが、実はある実験を兼ねて山羊のお肉を一つだけ残しておいた。
 真夏にも関わらず、その鮮度が思いのほか良かったため『これ、収納袋様に入れっぱなしにしたらどうなるんだろ?』というなぞの探究心に導かれてのことだ。
 とりあえず1週間放置してどうなるか見てみることにしよう。
 ちなみに魔道具袋の方はどうなのかとリシアに聞くと、汚れはしないが普通に傷むらしい。
 収納袋様の面目が保たれるのか楽しみである。
 だが調理場を出ていく際ジョゼットさんがリシアを呼び止め、リベクさんの時と同様、二人して内緒話をしていたのが印象に残ったというかそれしか残ってない。

 だからなぜこちらを見て悪い笑みを浮かべてるんだあんたらは。
 こうなったら横に居る本人に直接聞くしかない。

 そう思い横に目を向けると、リシアが何かを言いたそうにこちらを見詰めていた。
 まるで待ち構えていたと言わんばかりだ。

「どうかした?」
「少しだけよろしいですか?」
「良いけど?」
「ではお言葉に甘えて」

 リベクさんやジョゼットさんとしていた内緒話を打ち明けてくれるのかな? 

 なんて思っていたら、おもむろに抱き着き俺の肩に頬を擦り付け口づけを始めた。
 普段着である町娘風な服装のスカートから覗く尻尾が持ち上がり、まるで別の生き物かのようにゆっくりとふりふりうねうね揺れていた。

「ふふふ……♪」

 そしてご満悦でにやけているリシアさん。
 どうやら甘えたかっただけのようである。

 あーあー!
 まだ夜には早いどころか夕方ですらないですよ!
 もう今は夜ってことにして今すぐ彼女とゴートゥーベッド!
 なんてことをしたら部屋の前を通った人に、特に向かいの部屋の彼女の両親に聞かれたら取り返しのつかないことになるのでまだまだお預け。
 
「リシア、こっちを向いたまま俺の膝にまたがっくれる?」
「こ、こうですか……?」

 俺の太ももにリシアが跨り座ると、丁度目の前に来た彼女の大きな胸で顔が埋まる。
 リシアはリシアで、俺の頭を抱え込む様に抱きしめ頬を預ける。
 その間も背中や頭を撫でることを忘れない。

「はしたないですが、まるで抱っこされているのに抱っこしてるみたいな不思議な感じが一度に味わえるなんて……。こういうのも良いですね」
「喜んでもらえたみたいで良かったよ」
「トシオ様はどうなのですか?」
「俺も嬉しいよ?」
「ならよかったです♪」
 
 一つの椅子を二人で座りながら、互いの感触を堪能する。
 そして互いに示し合わせたかのように、黙ったまま二人同時に密着を解く。

「……ですがこれ、お昼にやると尋常じゃない熱が籠りますね」
「ホントそれ」
「残念です。早く夜がくれればいいのに」

 今は真夏のライシーンでも、夜になると日本の秋頃の様な涼しさになる。

 心底残念そうに愚痴を漏らす最愛の妻の美しい髪を、優しく優しく撫でて労う。

 まぁたまにはこういう事だってあるさ。

しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

処理中です...