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22話 返し、また返され
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「冒険者を続けるなら、冒険者ギルドに入いられたほうが何かとよろしいかと思います」
自室に戻った俺達は装備を外し部屋に置くと、リシアがそう提案してくれた。
メリットを聞くと、
1.〈PT作成〉をはじめとする〈冒険者専用スキル〉が使える。
2.アイテムを普通よりも多く入れられる魔法のかかった〈魔道具袋〉なるアイテムがもらえる。
3.問題ごとは冒険者ギルドに依頼が集まるため仕事が受け易く収入が得やすい。
4.レアアイテムの委託販売をしてもらえる。
との事。
安定収入には悪くないかもか。
それにレアアイテムが捌きやすいのはいいなぁ。
そして収納袋様ェ……。
まぁ袋その物が盗まれる心配が無いから、貴重品はこれからも収納袋様に入れるけど。
それとエアレーの角と毛皮もこのまま収納袋様に入れておけば大丈夫か。
冒険者ギルドに行く道すがらエアレーのドロップアイテムについて聞いてみた。
「角と牙は武器や工芸品の素材に使うそうです。毛皮はソファーに敷いたり絨毯としてお金持ちの間では人気です。防寒着としても使えますが、さすがにそれはもったいないと思います。どれも希少なため高額で取引されていますよ」
角は二本あるから一本は売っても良いか。
毛皮はどうしようかなぁ…。まぁ急がないし保留にしよう。
序にカードのことも聞いてみた。
「カードは装備に着けたり高額で取引されると聞いたことがあります。装備に付与するときは失敗すると装備諸共消えて無くなるので注意してください。カードの付与は鍛冶師さんかエンチャンターの方ならできるそうです。カードの効果は鑑定士の方に見てもらうことができます」
装備共々ロストは痛いな。
でも失敗ってどういう理屈だろ?
スロット付きの装備ならカードの取り付けが100%成功するのか、それを以てしても確立で失敗するのかは要検証だ。
俺は【鑑定Lv3】があるからそういう実験ができるが、普通の人にはわからないのかもしれない。
鑑定士とやらの鑑定Lvがどれほどの物かにもよるが。
そんな訳でリシアに案内してもらい、冒険者ギルドへとやって来た。
「あの建物が冒険者ギルドです」
リシアの声に目を向けると、そこは大きな建物だった。
大きく開け放たれた入り口では、冒険者風の人々が行き交い活気にあふれている。
中に入ると左手に受付カウンターが並んでいる。
右奥には酒場兼軽食が楽しめる居酒屋テイストのカウンターと円テーブルがいくつもあり、完全に酒場だ。
酒場との違いは壁際に大きな掲示板がいくつ並び、そこに依頼書らしき紙が整然と張られているところであろう。
「リシアは冒険者登録はもうしてるんだっけ?」
「はい、ファイターになった日に済ませています」
そうだった。
昨日冒険者カードを見せてもらったのを忘れてた。
「あそこの受付で登録できますよ」
見ると一番手前の受付に『冒険者登録と更新はこちらです』と書かれた看板が目に入る。
確か称号も冒険者カードで見れるんだっけ?
未登録者が初心者が称号なんて持ってても不自然なので一応ここは外しておこう。
「私は掲示板で何か無いか見てますね」
「わかった、ちょっと行ってくる」
受付に行くと、パンツスーツみたいな格好をした綺麗なお姉さんが座っていた。
その人の目を一度だけ見てから視線を鼻に置く。
こうすると相手に威圧感を与えないんだって。
何かの受け売りだけど。
当然リシアにもそうしてる。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが」
「はい。ではこれを持っていてもらえます?」
渡されたのは、リシアにも見せてもらった一枚のカード。
書いてある内容は自分の名前とジョブの空欄枠。
これに名前とかを書けってことなのかと疑問に思っていたら、お姉さんがスキルを使用した。
「〈登録〉」
スキルの発動と同時にカードが淡く輝くと、持っていたカードに名前とジョブが現れる。
トシオ ☆
ファイターLv16
☆。
イチノセ☆トシオ
………死にたい。
「では拝見させていただきますので、カードをお返し願えますか?」
「はい」
お姉さんに渡すと、その視線が称号のところを確認してすぐに戻って来た。
「あなたは大丈夫なようですね。では簡単な説明をしますね」
何が大丈夫なのかわからんが、そこからお姉さんの少し長い説明が入るので割愛する。
リシアが言っていたことの他にも、ギルド依頼はカードにある☆の数の範囲内でしか受けられなかったり、そのランクは貢献度やジョブLvなどを考慮して増えるとか。
あとは☆1つの状態で一年過ぎると、カードの更新時に没収されるとのこと。
没収にしろ無くすにしろ、再発行には銀貨10枚となかなか厳しい。
そして話の途中で称号を見たのと『あなたは大丈夫なようですね』の言葉で、犯罪者の称号を持っているかどうかを確認したんだと気が付いた。
規則だとはわかっていても、俺の顔って犯罪を犯しそうな顔に見えるのかなと自分の顔付きに不安を覚える。
これが自己肯定の低い男の卑屈さってやつよっ。
どんなに自慢気に言っても悲しみしか見出せない言葉ってあるよね。
「注意事項は以上です。何か聞きたいことはありますか?」
『お姉さん、彼氏は居ますか?』なんてありきたりな冗談が浮かんだが、俺が言っても冗談なのか本気なのか判断に困りそうなのでやめておく。
そもそも冗談にしても面白くもなんともないし、このお姉さんなら言われなれていそうだ。
「大丈夫です」
「ではくれぐれも犯罪に手を染めたり、命に係わる危険なことは避け、ライシーンの冒険者として節度ある活躍を期待します」
「はい、ありがとうございます」
お姉さんから背負い袋型のアイテム収納魔道具〈魔道具袋〉を受け取り、礼を述べて席を立つ。
「おまたせ」
「はい」
掲示板に居るリシアと合流すると、俺も大量の依頼書を確認してみる。
〈急募 ハーピーの羽毛 1キロ8000カパー 大量持込大歓迎〉
〈求む ドラゴンの鱗 1枚1000カパー 何枚でも〉
〈求む ウッドマンの葉 1枚5カパー お気軽に〉
など、どうやらアイテム募集ばかりを集めた掲示板だった。
張り紙の下のほうには募集主の名前や店が書かれている。
「あの、トシオ様」
「ん?」
リシアがなにやら浮かない表情で指をさす依頼書を見ると、自分の目を疑った。
〈求む エアレーの毛皮 1枚のみ 45万カパー〉
45万カパー…だと……!?
そして募集人の名前に二度びっくり。
〈リベク・アライマウ〉
……これはもう直接持っていくしかないな。
「リシア、帰ろう」
「はい!」
帰宅後、俺達はすぐにリベクさんの部屋へとお邪魔する。
「トシオです」
ノック後にそう告げると扉が開き、中から顔を出したワイザーさんに促されるまま部屋へ入る。
部屋の中では相変わらず忙しそうなリベクさんが上品な仕立ての服を着たジスタさんと何やら話し込んでいる。
近くのソファーに座っているこれまた上品な私服姿に帯刀状態のベラーナさん、その正面ではサラとか言う若い女性が向かいのソファーで剣を布で磨いていた。
「どうしたんだいトシオくん?」
「忙しいところすみません、リベクさんにお見せしたいものがあって」
そう言ってエアレーの毛皮を背負い袋の中に有る収納袋様から取り出した。
「おお、それはエアレーの毛皮じゃないか!? どうしてトシオくんがそんなものを?」
「実は昼間に遭遇したので倒したら出てきました」
「なんと、成り立てのファイターである君があのエアレーを倒したのか!?」
「さすが婿さんだ、やるねぇ!」
ジスタさんが驚き、ベラーナさんが俺に抱きつき背中をバンバンと叩くと、ワイザーさんとサラさんも食い入るように毛皮を見つめ室内大興奮。
でもベラーナさん、背中痛いです! あとやっぱり胸が当たってます!
見かねたリシアが頬を膨らませて引き剥がすと、ベラーナさんが苦笑いしながらリシアに謝る。
「冒険者ギルドの張り紙を偶然目にしたのでお渡ししようかと」
エアレーの大きな毛皮を二つに折ってリベクさんに手渡した。
「本当かね! いや助かるよ、領主のビレーデン様がソファーに敷く毛皮が欲しいと言っていたので是非贈りたくってさぁ。でも3週間待っても持ってきてくれる人が居なくて困ってたんだよねー。だがこれで私の顔が立つと言うものだよ! ぬあっはっはっ!」
そう言いながら机の引き出しから重そうな革袋を取り出し俺に差し出してきた。
「これは報酬だ、受け取ってくれ」
「いえ、リベクさんには既に返しきれない程のご恩がありますのでこれは受け取れません」
「ふむ……君がそういうなら」
リベクさんが俺の断りに思案すると、それを受け入れ本棚へ向かう。
一度で相手の気持ちを汲んで断りを受け入れるリベクさんの切り替えの早さに羨望してしまう。
「ではトシオくん、この本を貰ってくれんかね?」
差し出されたのは3冊の古い本だった。
「これは?」
「以前見栄で買った魔道書さ。大金を払ったのに客を招いても誰も見向きもしてくれなくってね、今では埃をかぶるだけのものだよ。ぬははははー!」
いつものようにおどけて笑う。
魔導書か、どんなことが書かれてるんだろ?
「恐らく今後の君には必要になる物だと思う。是非受け取って欲しい」
そう言ってしっかりと手渡された分厚く重たい本。
「では喜んで受け取らせていただきます」
両手でそれを受け取り小さくだが頭を下げた途端、三冊の重たい本の上に更に重たい感触がずっしりと加わる。
慌てて視線を上げると、そこには先程の袋が置かれている。
「おっさんなにしてんねん……」
両手が本で塞がれ投げ返すこともできない。
リベクさん相手に思わずツッコミ入れちゃいましたよ!?
「こうでもしないとトシオくん受け取らないでしょ? あー、たとえ投げ返されても枕元にこっそり置きに行くから無駄だよ? ぬっはははははは!」
逃げ道断たれた!
「あー、もー、この人は……」
「トシオ様、旦那様ですよ? 諦めて下さい」
言っても無駄だとリベクさんの傍で育ったリシアが悟りの境地から言い放つ。
「だったら別の形で絶対返してやる……」
「えー? なにー? 聞こえなーい? ぬふふっ」
ホンっトに軽いなこのおっさんは!
再び頭を下げありがたく本共々収納袋様に入れると、今度はエアレーの角をその場で取り出した。
「ジスタさんにはこれをお渡ししたくて」
とエアレーの角を差し出す。
エアレーの毛皮同様、この贈り物はリシアと二人で決めた事だ。
しかしジスタさんは受け取ろうとはしなかった。
「エアレーの角は武器の柄に用いるととても手に馴染むと聞く。それを使えば短槍の柄になるはずだ。君が使いなさい」
「それがですね、実は二本拾っていまして……」
二本目を袋から出してみせた。
俺とジスタさんの顔に照れくさい笑みが浮かぶ。
「なので気にせず貰って頂けると嬉しいです」
「……わかった。ありがたく使わせてもらうよ」
俺はジスタさんに角を手渡すと部屋を退出した。
部屋を出る間際にまたリシアがリベクさんに呼び止められ、小声で何か言葉を交わしている。
まるで悪だくみをするような顔でこちらをちらちらと見ているだけに、嫌な予感しかしない。
予想が付かないだけに対策の立てようがないし。
何が飛び出してくるのやら。
一仕事終えたばかりなのに、気持ちが全然休まらなかった。
自室に戻った俺達は装備を外し部屋に置くと、リシアがそう提案してくれた。
メリットを聞くと、
1.〈PT作成〉をはじめとする〈冒険者専用スキル〉が使える。
2.アイテムを普通よりも多く入れられる魔法のかかった〈魔道具袋〉なるアイテムがもらえる。
3.問題ごとは冒険者ギルドに依頼が集まるため仕事が受け易く収入が得やすい。
4.レアアイテムの委託販売をしてもらえる。
との事。
安定収入には悪くないかもか。
それにレアアイテムが捌きやすいのはいいなぁ。
そして収納袋様ェ……。
まぁ袋その物が盗まれる心配が無いから、貴重品はこれからも収納袋様に入れるけど。
それとエアレーの角と毛皮もこのまま収納袋様に入れておけば大丈夫か。
冒険者ギルドに行く道すがらエアレーのドロップアイテムについて聞いてみた。
「角と牙は武器や工芸品の素材に使うそうです。毛皮はソファーに敷いたり絨毯としてお金持ちの間では人気です。防寒着としても使えますが、さすがにそれはもったいないと思います。どれも希少なため高額で取引されていますよ」
角は二本あるから一本は売っても良いか。
毛皮はどうしようかなぁ…。まぁ急がないし保留にしよう。
序にカードのことも聞いてみた。
「カードは装備に着けたり高額で取引されると聞いたことがあります。装備に付与するときは失敗すると装備諸共消えて無くなるので注意してください。カードの付与は鍛冶師さんかエンチャンターの方ならできるそうです。カードの効果は鑑定士の方に見てもらうことができます」
装備共々ロストは痛いな。
でも失敗ってどういう理屈だろ?
スロット付きの装備ならカードの取り付けが100%成功するのか、それを以てしても確立で失敗するのかは要検証だ。
俺は【鑑定Lv3】があるからそういう実験ができるが、普通の人にはわからないのかもしれない。
鑑定士とやらの鑑定Lvがどれほどの物かにもよるが。
そんな訳でリシアに案内してもらい、冒険者ギルドへとやって来た。
「あの建物が冒険者ギルドです」
リシアの声に目を向けると、そこは大きな建物だった。
大きく開け放たれた入り口では、冒険者風の人々が行き交い活気にあふれている。
中に入ると左手に受付カウンターが並んでいる。
右奥には酒場兼軽食が楽しめる居酒屋テイストのカウンターと円テーブルがいくつもあり、完全に酒場だ。
酒場との違いは壁際に大きな掲示板がいくつ並び、そこに依頼書らしき紙が整然と張られているところであろう。
「リシアは冒険者登録はもうしてるんだっけ?」
「はい、ファイターになった日に済ませています」
そうだった。
昨日冒険者カードを見せてもらったのを忘れてた。
「あそこの受付で登録できますよ」
見ると一番手前の受付に『冒険者登録と更新はこちらです』と書かれた看板が目に入る。
確か称号も冒険者カードで見れるんだっけ?
未登録者が初心者が称号なんて持ってても不自然なので一応ここは外しておこう。
「私は掲示板で何か無いか見てますね」
「わかった、ちょっと行ってくる」
受付に行くと、パンツスーツみたいな格好をした綺麗なお姉さんが座っていた。
その人の目を一度だけ見てから視線を鼻に置く。
こうすると相手に威圧感を与えないんだって。
何かの受け売りだけど。
当然リシアにもそうしてる。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが」
「はい。ではこれを持っていてもらえます?」
渡されたのは、リシアにも見せてもらった一枚のカード。
書いてある内容は自分の名前とジョブの空欄枠。
これに名前とかを書けってことなのかと疑問に思っていたら、お姉さんがスキルを使用した。
「〈登録〉」
スキルの発動と同時にカードが淡く輝くと、持っていたカードに名前とジョブが現れる。
トシオ ☆
ファイターLv16
☆。
イチノセ☆トシオ
………死にたい。
「では拝見させていただきますので、カードをお返し願えますか?」
「はい」
お姉さんに渡すと、その視線が称号のところを確認してすぐに戻って来た。
「あなたは大丈夫なようですね。では簡単な説明をしますね」
何が大丈夫なのかわからんが、そこからお姉さんの少し長い説明が入るので割愛する。
リシアが言っていたことの他にも、ギルド依頼はカードにある☆の数の範囲内でしか受けられなかったり、そのランクは貢献度やジョブLvなどを考慮して増えるとか。
あとは☆1つの状態で一年過ぎると、カードの更新時に没収されるとのこと。
没収にしろ無くすにしろ、再発行には銀貨10枚となかなか厳しい。
そして話の途中で称号を見たのと『あなたは大丈夫なようですね』の言葉で、犯罪者の称号を持っているかどうかを確認したんだと気が付いた。
規則だとはわかっていても、俺の顔って犯罪を犯しそうな顔に見えるのかなと自分の顔付きに不安を覚える。
これが自己肯定の低い男の卑屈さってやつよっ。
どんなに自慢気に言っても悲しみしか見出せない言葉ってあるよね。
「注意事項は以上です。何か聞きたいことはありますか?」
『お姉さん、彼氏は居ますか?』なんてありきたりな冗談が浮かんだが、俺が言っても冗談なのか本気なのか判断に困りそうなのでやめておく。
そもそも冗談にしても面白くもなんともないし、このお姉さんなら言われなれていそうだ。
「大丈夫です」
「ではくれぐれも犯罪に手を染めたり、命に係わる危険なことは避け、ライシーンの冒険者として節度ある活躍を期待します」
「はい、ありがとうございます」
お姉さんから背負い袋型のアイテム収納魔道具〈魔道具袋〉を受け取り、礼を述べて席を立つ。
「おまたせ」
「はい」
掲示板に居るリシアと合流すると、俺も大量の依頼書を確認してみる。
〈急募 ハーピーの羽毛 1キロ8000カパー 大量持込大歓迎〉
〈求む ドラゴンの鱗 1枚1000カパー 何枚でも〉
〈求む ウッドマンの葉 1枚5カパー お気軽に〉
など、どうやらアイテム募集ばかりを集めた掲示板だった。
張り紙の下のほうには募集主の名前や店が書かれている。
「あの、トシオ様」
「ん?」
リシアがなにやら浮かない表情で指をさす依頼書を見ると、自分の目を疑った。
〈求む エアレーの毛皮 1枚のみ 45万カパー〉
45万カパー…だと……!?
そして募集人の名前に二度びっくり。
〈リベク・アライマウ〉
……これはもう直接持っていくしかないな。
「リシア、帰ろう」
「はい!」
帰宅後、俺達はすぐにリベクさんの部屋へとお邪魔する。
「トシオです」
ノック後にそう告げると扉が開き、中から顔を出したワイザーさんに促されるまま部屋へ入る。
部屋の中では相変わらず忙しそうなリベクさんが上品な仕立ての服を着たジスタさんと何やら話し込んでいる。
近くのソファーに座っているこれまた上品な私服姿に帯刀状態のベラーナさん、その正面ではサラとか言う若い女性が向かいのソファーで剣を布で磨いていた。
「どうしたんだいトシオくん?」
「忙しいところすみません、リベクさんにお見せしたいものがあって」
そう言ってエアレーの毛皮を背負い袋の中に有る収納袋様から取り出した。
「おお、それはエアレーの毛皮じゃないか!? どうしてトシオくんがそんなものを?」
「実は昼間に遭遇したので倒したら出てきました」
「なんと、成り立てのファイターである君があのエアレーを倒したのか!?」
「さすが婿さんだ、やるねぇ!」
ジスタさんが驚き、ベラーナさんが俺に抱きつき背中をバンバンと叩くと、ワイザーさんとサラさんも食い入るように毛皮を見つめ室内大興奮。
でもベラーナさん、背中痛いです! あとやっぱり胸が当たってます!
見かねたリシアが頬を膨らませて引き剥がすと、ベラーナさんが苦笑いしながらリシアに謝る。
「冒険者ギルドの張り紙を偶然目にしたのでお渡ししようかと」
エアレーの大きな毛皮を二つに折ってリベクさんに手渡した。
「本当かね! いや助かるよ、領主のビレーデン様がソファーに敷く毛皮が欲しいと言っていたので是非贈りたくってさぁ。でも3週間待っても持ってきてくれる人が居なくて困ってたんだよねー。だがこれで私の顔が立つと言うものだよ! ぬあっはっはっ!」
そう言いながら机の引き出しから重そうな革袋を取り出し俺に差し出してきた。
「これは報酬だ、受け取ってくれ」
「いえ、リベクさんには既に返しきれない程のご恩がありますのでこれは受け取れません」
「ふむ……君がそういうなら」
リベクさんが俺の断りに思案すると、それを受け入れ本棚へ向かう。
一度で相手の気持ちを汲んで断りを受け入れるリベクさんの切り替えの早さに羨望してしまう。
「ではトシオくん、この本を貰ってくれんかね?」
差し出されたのは3冊の古い本だった。
「これは?」
「以前見栄で買った魔道書さ。大金を払ったのに客を招いても誰も見向きもしてくれなくってね、今では埃をかぶるだけのものだよ。ぬははははー!」
いつものようにおどけて笑う。
魔導書か、どんなことが書かれてるんだろ?
「恐らく今後の君には必要になる物だと思う。是非受け取って欲しい」
そう言ってしっかりと手渡された分厚く重たい本。
「では喜んで受け取らせていただきます」
両手でそれを受け取り小さくだが頭を下げた途端、三冊の重たい本の上に更に重たい感触がずっしりと加わる。
慌てて視線を上げると、そこには先程の袋が置かれている。
「おっさんなにしてんねん……」
両手が本で塞がれ投げ返すこともできない。
リベクさん相手に思わずツッコミ入れちゃいましたよ!?
「こうでもしないとトシオくん受け取らないでしょ? あー、たとえ投げ返されても枕元にこっそり置きに行くから無駄だよ? ぬっはははははは!」
逃げ道断たれた!
「あー、もー、この人は……」
「トシオ様、旦那様ですよ? 諦めて下さい」
言っても無駄だとリベクさんの傍で育ったリシアが悟りの境地から言い放つ。
「だったら別の形で絶対返してやる……」
「えー? なにー? 聞こえなーい? ぬふふっ」
ホンっトに軽いなこのおっさんは!
再び頭を下げありがたく本共々収納袋様に入れると、今度はエアレーの角をその場で取り出した。
「ジスタさんにはこれをお渡ししたくて」
とエアレーの角を差し出す。
エアレーの毛皮同様、この贈り物はリシアと二人で決めた事だ。
しかしジスタさんは受け取ろうとはしなかった。
「エアレーの角は武器の柄に用いるととても手に馴染むと聞く。それを使えば短槍の柄になるはずだ。君が使いなさい」
「それがですね、実は二本拾っていまして……」
二本目を袋から出してみせた。
俺とジスタさんの顔に照れくさい笑みが浮かぶ。
「なので気にせず貰って頂けると嬉しいです」
「……わかった。ありがたく使わせてもらうよ」
俺はジスタさんに角を手渡すと部屋を退出した。
部屋を出る間際にまたリシアがリベクさんに呼び止められ、小声で何か言葉を交わしている。
まるで悪だくみをするような顔でこちらをちらちらと見ているだけに、嫌な予感しかしない。
予想が付かないだけに対策の立てようがないし。
何が飛び出してくるのやら。
一仕事終えたばかりなのに、気持ちが全然休まらなかった。
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