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7話 謀る者と抱きしめる者
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リベクさんに連れられてたどり着いたのは、かなり広い木の床のある部屋で、足の短い長テーブルが三列に並べられた部屋だった。
木の床にはクッションの様な物が並んでいた。
いや、普通に座布団か?
その入り口付近の廊下側の壁には大きな靴箱が立ち並び、足元にはスノコのようなものが入り口まで続いている。
部屋の中に既視感があると思ったらアレだ、座敷のある飲み屋の宴会場だ。
その三列のテーブルには豪華ではないが大量の料理が並べられており、既に何組もの家族が席についている。
先程は御者席に座っていたワイザーさんが隣の席の女性にそっくりな小さな男の子をひざの上に乗せ、向かいの席のバルナックさんと親しげに話している。
なんだかほっこりする。
入口から正面奥の壁際の中央辺りにはリベクさんの奥さんが座っているので、たぶんそこが上座でリベクさん夫婦の指定席なんだろう。
そしてジョゼットさんの隣には、腰まで届く長く美しい青髪の少女が座っていた。
ローザ・アライマウ
人 女 17歳
顔のパーツ一つ一つはとても整っており、アメジストのような紫のタレ目はとても澄んでいて美しく、太陽のような明るい笑みは、彼女の内面のやさしさを現しているようだ。
ただし『あと20キロ痩せたら美少女かも』と付け加えなければならない程の我がままボディではあるが。
顔は某菓子パンヒーローのようにパンパンに腫れている訳ではなく、『頬の肉付きが若干良いかな?』程度で済んでいるため『愛嬌の有るぽっちゃりちゃん』に収まってる。
悪食な俺としては、正直全然いけると思える程にかわいい。
リベクさんの娘さんかなー?(すっとぼけ)
その彼女が入り口に居る俺のほうに向けて笑顔で手を振って来た。
思わず振り返しそうになったが、隣に居るリシアが小さく手を振り返しているのを見ると、俺ではなくリシアに向けて振っていたようだ。
危うく恥をかくところだった。
いや、ここはあえて振り返した方がおいしいか?
ちなみにリベクさんは食堂に到着するなり自分の席の近くに居たベラーナさんに何か話している。
二人が口元に笑みを浮かべてチラチラとこちらを見ているので、もう嫌な予感がギュンギュンします。
「トシオ殿ー! こっちだこっちー!」
そんなリベクさんに招かれたのでそばに行くと、さも当然のように自分の隣の席に座らせた。
おかしい…。
そして俺の隣、ベラーナさんに因ってリベクさんとは逆隣に座らされたリシアが、困惑しながら自分の両親を見つめている。
おそらく普段彼女が座っている席ではないのだろう。
おかしいですよベラジナさん…。
したり顔のベラーナさんとは対照的に、本来なら俺かリシアの居る席に座っているのではと思われるジスタさんの顔にも『???』の文字が浮かんでいるのが嫌過ぎる。
困惑する俺達をよそに、リベクさんは杯を片手に立ち上がると、食堂は一斉に静かになった。
「えー、今日は色々あり食事の時間が遅くなってしまったが、誰一人欠けることなくこうして夕食を共に出来ることを皆に感謝する」
リベクさんの言葉にその場に居たほぼ全ての人が頷いた。
「それと、今日は皆に紹介したい者が居る。トシオ殿!」
あ、これは起立しろって事ですね…。
促されているので立ち上がると、その場に居た全員が俺に注目した。
日陰者で誰かに注目される事なんて今までなかった俺には、とても落ち着かないので勘弁してください…。
俺が落ち着いたそぶりを滲ませながらも会釈をすると、リベクさんが俺の肩に手を回してがっしりと掴む。
「彼の勇敢な行動により、私を含めこの場に居る者達の命が救われた。改めて礼を言う!」
そこで全員から拍手を浴びせられるが、何かの宗教団体のセミナーに思えてきたのは俺の気のせいだろうか?
「それともう一つ、ジスタとベラーナの娘、リシアの引き受け先が決まった!」
「ブホッ!?」
俺が驚くよりも先にジスタさんが突然吹き出した。
リシアを見ると、困惑顔でリベクさんと自分の両親を交互に振り返る。
「トシオ殿、リシアの事をよろしく頼みますぞ!」
「ウチの娘を頼んだよ!」
「はいー!?」
リベクさんに便乗するように、ベラーナさんが野性味のある笑顔で言い放つ。
いやもう何言ってんのこの二人!?
てかここでぶっこんできやがったか!
謀ったなぁ!
「まぁまぁまぁ、リシアもついにお嫁に行ってしまうのね!」
「おめでとうリシアちゃん! 幸せにね!」
ジョゼットさんとその娘のローザが、目に涙を浮かべ満面の笑みで祝福してやがります!
「いやいやいや、ちょっと待ってください! 会ってまだ数時間の人間になんで彼女を嫁がせようとしてるんですか!」
てかおっさん、ジスタ夫妻は家族同然じゃなかったのか!?
「え~? でもぉ~、トシオ殿はリシアの事を好いてくれてるのだろぉ~?」
「いやだからって―」
リシアに目を向けると、不安そうな顔をして目でなにやらこちらに訴えかけてくる。
「え、あーうー?」
それは俺に引き取られそうになってるのが不安なのか、拒否されるのが不安なのかどっちですか?
てか混乱して変な声でちゃったよ。
「それともトシオ殿は、リシアの事がお嫌いですかなぁ?」
「――いえ、嫌いではないですけど…」
リシアの事は嫌いじゃない。むしろ既に惚れていると断言できる。
だがおっさんのその人を食ったような言い方と顔が実に腹立たしい!
それとジスタさんがすごい形相でこっちを睨んでるのが怖いんですけど!?
「リシアはどうなんだい?」
「私も…嫌じゃないです…」
ベラーナさんの問いに俯きながら小さくつぶやくリシア。
その姿がなんだか周囲から無理やり縁談を押し付けられてるように見えて可哀相に思えてくる。
「じゃ、両思いって事でいいんだよねぇ?」
「……本当に君はそれで良いの? 嫌ならちゃんと言ったほうがいいよ?」
助け舟を出すように優しく声をかけた途端、リシアはまっすぐ俺を見つめ力強く首を横に振った。
「嫌ではありません!」
その声にははっきりとした強い意志と、その瞳には拒絶される事への不安が現れていた。
あぁ、女の子になんて事を言わせてしまったんだ。
と、気がついた。
俺は締め付けられる思いと共に、リシアをまっすぐ見据えた。
決意はもう固まっている。
「…ごめん、これは俺から言うべきだったね。リシア、俺は君が好きだ。ずっと俺のそばに居てくれるかな?」
「―はい!」
彼女の返事と共に包むように抱きしめると、リシアも俺の背に腕を回して力強く抱きしめ返してくれた。
途端に周りから大歓声が沸き起こる。
申し訳ないけど今はその歓声は無視させてもらう。
リシアの頭をぽんぽんっと優しく二回叩いてから身体を放させ、微笑みながら頷くと、すぐに真剣な表情でジスタさんに顔を向けた。
「ジスタさん。ベラーナさん。リベクさん」
名前と共に各人に顔を向けると、再びジスタさんへ今度は真っ直ぐ身体ごと向けた。
「未熟者ですがよろしくお願いします」
そういって俺は深く頭を下げ、次にリベクさんへ頭を下げた。
娘さんをくださいというお伺いではない。
リシアを貰いますという宣言だ。
リベクさんがジスタさんに目をむけると、ジスタさんは哀愁のある微笑みで頷いた。
「皆! ここに新たな家族が加わり、今夜は実にめでたい日となった! 今日は酒樽を開放する、好きなだけ飲んで騒いでくれ! 乾杯!!」
リベクさんの乾杯の音頭で食堂に居た全員が再び大歓声を上げると、一斉に酒や料理に群がった。
その日は遅くまでドンちゃん騒ぎでしたとさ。
木の床にはクッションの様な物が並んでいた。
いや、普通に座布団か?
その入り口付近の廊下側の壁には大きな靴箱が立ち並び、足元にはスノコのようなものが入り口まで続いている。
部屋の中に既視感があると思ったらアレだ、座敷のある飲み屋の宴会場だ。
その三列のテーブルには豪華ではないが大量の料理が並べられており、既に何組もの家族が席についている。
先程は御者席に座っていたワイザーさんが隣の席の女性にそっくりな小さな男の子をひざの上に乗せ、向かいの席のバルナックさんと親しげに話している。
なんだかほっこりする。
入口から正面奥の壁際の中央辺りにはリベクさんの奥さんが座っているので、たぶんそこが上座でリベクさん夫婦の指定席なんだろう。
そしてジョゼットさんの隣には、腰まで届く長く美しい青髪の少女が座っていた。
ローザ・アライマウ
人 女 17歳
顔のパーツ一つ一つはとても整っており、アメジストのような紫のタレ目はとても澄んでいて美しく、太陽のような明るい笑みは、彼女の内面のやさしさを現しているようだ。
ただし『あと20キロ痩せたら美少女かも』と付け加えなければならない程の我がままボディではあるが。
顔は某菓子パンヒーローのようにパンパンに腫れている訳ではなく、『頬の肉付きが若干良いかな?』程度で済んでいるため『愛嬌の有るぽっちゃりちゃん』に収まってる。
悪食な俺としては、正直全然いけると思える程にかわいい。
リベクさんの娘さんかなー?(すっとぼけ)
その彼女が入り口に居る俺のほうに向けて笑顔で手を振って来た。
思わず振り返しそうになったが、隣に居るリシアが小さく手を振り返しているのを見ると、俺ではなくリシアに向けて振っていたようだ。
危うく恥をかくところだった。
いや、ここはあえて振り返した方がおいしいか?
ちなみにリベクさんは食堂に到着するなり自分の席の近くに居たベラーナさんに何か話している。
二人が口元に笑みを浮かべてチラチラとこちらを見ているので、もう嫌な予感がギュンギュンします。
「トシオ殿ー! こっちだこっちー!」
そんなリベクさんに招かれたのでそばに行くと、さも当然のように自分の隣の席に座らせた。
おかしい…。
そして俺の隣、ベラーナさんに因ってリベクさんとは逆隣に座らされたリシアが、困惑しながら自分の両親を見つめている。
おそらく普段彼女が座っている席ではないのだろう。
おかしいですよベラジナさん…。
したり顔のベラーナさんとは対照的に、本来なら俺かリシアの居る席に座っているのではと思われるジスタさんの顔にも『???』の文字が浮かんでいるのが嫌過ぎる。
困惑する俺達をよそに、リベクさんは杯を片手に立ち上がると、食堂は一斉に静かになった。
「えー、今日は色々あり食事の時間が遅くなってしまったが、誰一人欠けることなくこうして夕食を共に出来ることを皆に感謝する」
リベクさんの言葉にその場に居たほぼ全ての人が頷いた。
「それと、今日は皆に紹介したい者が居る。トシオ殿!」
あ、これは起立しろって事ですね…。
促されているので立ち上がると、その場に居た全員が俺に注目した。
日陰者で誰かに注目される事なんて今までなかった俺には、とても落ち着かないので勘弁してください…。
俺が落ち着いたそぶりを滲ませながらも会釈をすると、リベクさんが俺の肩に手を回してがっしりと掴む。
「彼の勇敢な行動により、私を含めこの場に居る者達の命が救われた。改めて礼を言う!」
そこで全員から拍手を浴びせられるが、何かの宗教団体のセミナーに思えてきたのは俺の気のせいだろうか?
「それともう一つ、ジスタとベラーナの娘、リシアの引き受け先が決まった!」
「ブホッ!?」
俺が驚くよりも先にジスタさんが突然吹き出した。
リシアを見ると、困惑顔でリベクさんと自分の両親を交互に振り返る。
「トシオ殿、リシアの事をよろしく頼みますぞ!」
「ウチの娘を頼んだよ!」
「はいー!?」
リベクさんに便乗するように、ベラーナさんが野性味のある笑顔で言い放つ。
いやもう何言ってんのこの二人!?
てかここでぶっこんできやがったか!
謀ったなぁ!
「まぁまぁまぁ、リシアもついにお嫁に行ってしまうのね!」
「おめでとうリシアちゃん! 幸せにね!」
ジョゼットさんとその娘のローザが、目に涙を浮かべ満面の笑みで祝福してやがります!
「いやいやいや、ちょっと待ってください! 会ってまだ数時間の人間になんで彼女を嫁がせようとしてるんですか!」
てかおっさん、ジスタ夫妻は家族同然じゃなかったのか!?
「え~? でもぉ~、トシオ殿はリシアの事を好いてくれてるのだろぉ~?」
「いやだからって―」
リシアに目を向けると、不安そうな顔をして目でなにやらこちらに訴えかけてくる。
「え、あーうー?」
それは俺に引き取られそうになってるのが不安なのか、拒否されるのが不安なのかどっちですか?
てか混乱して変な声でちゃったよ。
「それともトシオ殿は、リシアの事がお嫌いですかなぁ?」
「――いえ、嫌いではないですけど…」
リシアの事は嫌いじゃない。むしろ既に惚れていると断言できる。
だがおっさんのその人を食ったような言い方と顔が実に腹立たしい!
それとジスタさんがすごい形相でこっちを睨んでるのが怖いんですけど!?
「リシアはどうなんだい?」
「私も…嫌じゃないです…」
ベラーナさんの問いに俯きながら小さくつぶやくリシア。
その姿がなんだか周囲から無理やり縁談を押し付けられてるように見えて可哀相に思えてくる。
「じゃ、両思いって事でいいんだよねぇ?」
「……本当に君はそれで良いの? 嫌ならちゃんと言ったほうがいいよ?」
助け舟を出すように優しく声をかけた途端、リシアはまっすぐ俺を見つめ力強く首を横に振った。
「嫌ではありません!」
その声にははっきりとした強い意志と、その瞳には拒絶される事への不安が現れていた。
あぁ、女の子になんて事を言わせてしまったんだ。
と、気がついた。
俺は締め付けられる思いと共に、リシアをまっすぐ見据えた。
決意はもう固まっている。
「…ごめん、これは俺から言うべきだったね。リシア、俺は君が好きだ。ずっと俺のそばに居てくれるかな?」
「―はい!」
彼女の返事と共に包むように抱きしめると、リシアも俺の背に腕を回して力強く抱きしめ返してくれた。
途端に周りから大歓声が沸き起こる。
申し訳ないけど今はその歓声は無視させてもらう。
リシアの頭をぽんぽんっと優しく二回叩いてから身体を放させ、微笑みながら頷くと、すぐに真剣な表情でジスタさんに顔を向けた。
「ジスタさん。ベラーナさん。リベクさん」
名前と共に各人に顔を向けると、再びジスタさんへ今度は真っ直ぐ身体ごと向けた。
「未熟者ですがよろしくお願いします」
そういって俺は深く頭を下げ、次にリベクさんへ頭を下げた。
娘さんをくださいというお伺いではない。
リシアを貰いますという宣言だ。
リベクさんがジスタさんに目をむけると、ジスタさんは哀愁のある微笑みで頷いた。
「皆! ここに新たな家族が加わり、今夜は実にめでたい日となった! 今日は酒樽を開放する、好きなだけ飲んで騒いでくれ! 乾杯!!」
リベクさんの乾杯の音頭で食堂に居た全員が再び大歓声を上げると、一斉に酒や料理に群がった。
その日は遅くまでドンちゃん騒ぎでしたとさ。
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