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第一章「再会」

イチかバチか

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 僕たちの目の前で繰り広げられる、合田君と左倉さんの接近戦。残念ながら、合田君の方が劣勢れっせいだった。

「中々鋭い攻撃だが……当たらなければどうということはない!」

 合田君の渾身のスイングを紙一重で避けながら、左倉さんはカウンターの一撃を見舞う。何とかバットや腕でガードはしているものの、ダメージが溜まっているのは間違いない。

「おのれ、どこかで聞いたようなセリフ吐きながら、ちょこまか避けよって!」

 合田君の必死の反撃も虚しく空を切るばかり。格闘技にあまり詳しくない僕だが、明らかに素人の動きではなかった。

「棒状の武器での打ち合いで、左倉に勝利するのは至難の業だ。なんせあいつは剣道二段。全国大会常連の猛者だからな。むしろ合田君はよくやっていると思うよ」

 腕を組みながら観戦している右柳さんは、感心するように頷いている。

 確かに合田君は野球部という立場ながら、オークを素手で殴り倒したくらいだ。
 この戦いにおいても普通の人なら、既に致命傷を受けて倒されているだろう。


 左倉さんが鋭く踏み込み、突きを放つ。突き出された木刀の切っ先が合田君の喉をかすめ、そのままよろけてしまう。

 その隙に左倉さんは再び距離を取って構えた。

「……凄いな君は。まさか突きまで躱されるとは思っていなかった。野球の他に何か格闘技でもやっているのかい?」

「そんなもん必要あるかい! 単に俺が天才なだけや!!」

 攻められっぱなしにも関わらず、合田君の表情から笑顔は消えていない。その様子に僕は心強かったのだが、残念ながら夢野さんは、そうは取らなかったらしい。

「……まずいわね。合田君、かなりやせ我慢してる」
「え? そうなの!?」

 遅刻常習犯の合田君は、学級委員の夢野さんから注意を受けることが多い。そういったことで顔を合わせる機会が多い彼女は、僕より彼の性格を把握しているらしい。

 負けず嫌いな合田君は、危ない時ほど強がる傾向にあるらしい。見れば、彼の頭上のHPゲージが1/3くらいになっている。相当ルンを消耗してしまっているはずだ。


 その時、左倉さんの胴薙ぎの一撃を受けた左腕が、ついにだらりと下がってしまった。

「どうやら左腕のルンが尽きたようだね。これで……勝負ありだ」
「ケッ! お前を倒すなんざ、右腕だけで充分やっちゅうねん!」

 左倉さんは中段に構え、切っ先をゆらゆらと揺らしながら、近づいてくる。
 対する合田君は、右腕を前にはすに構えながら、腰を落とす。

 直後、二人は同時に前へと出た。

「そのガラ空きの胴……もらった!」

 左倉さんは一瞬胴を打つと見せて、すぐさま腕を上段に戻し、面打ちを放った。
 フェイント後の一撃に反応出来ない合田君の脳天に、勢いよく木刀が落ちてくる。

 ガツンという鈍い音の後、両者の動きが止まった。

「……終わりだな」

 ボソッと呟く左倉さんだったが、次の瞬間には目を見開いていた。何故なら合田君は、木刀を頭に受けた姿勢で止まっていたからだ。

「素直に胴体は狙ってこんと思ってたわ。頭への一撃なら、踏み込んで額で受ければ一発くらいは耐えられるんや!」

 慌てて後方へ飛んだ左倉さんだったが、合田君の踏み込みの方が早い。まんまと懐に入り込んだ合田君は、そのまま渾身の力を込めて金属バットを振りぬく。

 咄嗟に受けようとした左倉さんの木刀を弾き飛ばしながら、強烈な一撃が横腹へと突き刺さる。
 直後、左倉さんの身体がガクンと前に折れた。

「くっ、まさかこの状況で僕が負ける……とは」
「いやいや、自分充分強かったで。俺でなけりゃ、アッサリ負けてたやろうな!」

 合田君がカカカと笑うと、ゆっくりと左倉さんの身体が消えていく。頭上のゲージが0になっていることからも、胴体のルンが切れたのだろう。

 一人残った合田君は、大きくため息をつくと、右手の指でおでこをトントンと叩いた。
*********************
ネーム:タケシ
ルン:57
 ---------------
 頭:1
 胴体:7
 右手:3+40
 左手:0
 右足:4
 左足:2
 --------------
*********************

「……満身創痍とは、正にこのことや。大人しく胴打たれてたら、俺が負けてたやろうな」

 合田君は僕たちの元に戻ってくると、あぐらをかいて地面に座った。
 疲労はないかもしれないけど、これだけの戦いの後。休みたくなる気持ちもわからなくはない。

 そんな僕たちの様子を見ていた右柳さんが、ふぅとため息をついた。

「初戦は私達の負け……か。次の戦いだが」
「……僕がいくよ」

 合田君と違って自信があるわけじゃないけど、女の子で戦いを嫌う夢野さんを、先に行かせるわけにはいかない。
 しかし右柳さんは、やれやれと首を左右へ振った。

「悪いが……君は最後にしてくれないか? あいつたっての希望で、ね」

 どうやら3人目は、僕との戦いを望んでいるらしい。

 一体何故? 姿を現さないことといい、その人の目的は一体なんだというんだ。

「……仕方ないわ。私、行ってくる」

 僕たちのやり取りを見ていた夢野さんが、こちらへと歩いてくる。
 既に弓を持っていることからも、やる気になっているようだ。

「ほう、弓か。これは奇遇だな。実は私もなんだ」

 右柳さんはニヤリと笑うと、右手をトントンと叩く。
 直後彼女の右手には、金属製のボウガンが握られていた。

「祖父が猟師でね。家に遊びにいったとき、壁にかけられているこいつを見て、カッコいいと思ったものさ。まさかこんな形で使うことになるとは思っていなかったがな」

「……やっぱり、戦うしかないんですね」

 夢野さんは俯いたままポツリと呟く。その囁きを右柳さんは聞き逃さなかったようで、唇の端を吊り上げて、ニィッと笑った。

「まあ、そういうことだ。そんなに戦いたくなければ、そのまま立っててくれればいい。そこまで腕に自信のない私でも、動かない的なら当てられるだろうしな」

 消極的な夢野さんとは異なり、右柳さんは完全にやる気になっている。
 夢野さんはフゥとため息をつくと振り返り、校門の方へと向かって走り出した。

「その行為を私は戦いのゴングとみなす! それでは……いくぞ!」

 笑みを浮かべる右柳さんは、夢野さんを追って走り出すのだった。
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