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第一話
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「今日からお前は私の共犯者だ」
綺麗な月が輝く夜、静かな湖畔で僕は一人の男性に顔を近づけられながら顎を掴まれていた。流れるような長い銀髪に透き通るような肌、女性なら誰もが振り向きそうな綺麗な顔立ちにスラリとした長身、とその人はまるで物語の中に出てきそうな程にカッコいい人で、女性なら一発で恋に落ちるだろう。
けれど、僕は男だ。だから、この人に恋はしないけれど、緊張でドキドキはしていた。シチュエーションのせいもあったが、ドキドキしていたのはそれだけじゃない。僕はこの人の正体を知ってしまったのだから。
「お前を放っておいては、この事を話してしまうだろうからな」
「そ、そんな事は……」
「口では何とでも言える。だからお前は共犯者にする。魔王討伐を目的としている勇者パーティに魔王が魔法剣士として入っているとばらされては困るからな」
「い、言いませんって……」
緊張で口が渇く。心臓は早鐘を打ち、とても苦しい。だけど、この人は離してくれないし、そもそも逃げられる気がしない。それだけの威圧感も放っているし、その琥珀色の瞳に見つめられたら目をそらせなくなっているからだ。
「そもそも共犯者ってどうするつもりですか……?」
「そうだな。勇者達を説得して、何らかの益がある存在として認めさせる。そうすれば、奴らも納得してお前をパーティの一員として迎え入れるだろう」
「ぼ、僕はただの村人です。勇者様達の手助けなんてとてもとても……」
「それはどうだろうな」
「あ……」
彼の手が僕の髪を軽くすく。同性に髪をすかれているというのに、その流れるような所作に思わず見惚れてしまい、僕の心臓の鼓動はもっと早くなった。
「あ、あの……」
「気づいていないだけで、お前にも何らかの力があるかもしれないぞ?」
「そ、そんなこと……」
「たとえ力がなくとも、お前は共犯者なのだから出立の時には連れていく。役割は……そうだな、荷物持ちがいいか」
「そんな……」
ただの村人の僕だというのに、この人は勇者様の旅に僕を連れていこうとしている。役割を与えてくれるのはいいけれど、荷物持ちだとしても僕にとっては荷が重い。
どうにか断れないものだろうか。そんな事を思っていた時、魔王さんはスッと僕に顔を近づけた。
「な、何を……」
「なに、勇者達にもバラされてもよくはないのでな。少し保険をかけさせてもらうぞ」
「保険……?」
その言葉に疑問を覚えた直後、僕の唇が魔王さんの唇で塞がれた。
「んむっ!?」
驚く僕を前にしながら魔王さんの舌は僕の舌に巻き付いたり歯茎をゆっくりと撫でたりしながら動き回り、突然の事に動揺していた僕はされるがままだった。けれど、不思議と嫌な気分はしない事に気づき、その事に疑問を感じながら僕はされるがままに魔王さんからのキスを受け止めた。
「ふう……」
そんな声と共に魔王さんが顔を離す。もう終わりなのか。何故だかそんな事を思っていた時、舌に何か違和感を感じた。
「なんだ……?」
「正体を話されても困るのでな。お前の舌に紋章を施させてもらった」
「紋章……?」
「ああ。秘密をバラそうとした際にお前の全身に激痛が走る作用を持った紋章をな」
「ひっ!?」
それを聞いて僕の口から悲鳴が漏れる。本当はそんな物を勝手につけられた事を怒ってもいいのだけど、怒るよりも実際にその時が訪れてしまった時の事を想像して恐怖を感じてしまったのだった。
「言わなければその紋章が起動することはない。苦痛を味わいたくなければ、秘密を守る事だな」
「うぅ……」
どうして僕が。そんな事を考える中、魔王さんは静かに笑った。
「さて、改めて自己紹介をしよう。私はルーファス・クリフォード、これは魔法剣士として加わるためにつけた偽名で、魔王としての名はグレアという。お前の名は?」
「アレクシス・エアハートです……」
「そうか。ではアレクシス、人質としてしっかりとついてくるのだぞ?」
「はい……」
力なく僕は答える。こうしてただの村人だった僕は一夜にして魔王の共犯者としての人生を歩む事になってしまったのだった。
綺麗な月が輝く夜、静かな湖畔で僕は一人の男性に顔を近づけられながら顎を掴まれていた。流れるような長い銀髪に透き通るような肌、女性なら誰もが振り向きそうな綺麗な顔立ちにスラリとした長身、とその人はまるで物語の中に出てきそうな程にカッコいい人で、女性なら一発で恋に落ちるだろう。
けれど、僕は男だ。だから、この人に恋はしないけれど、緊張でドキドキはしていた。シチュエーションのせいもあったが、ドキドキしていたのはそれだけじゃない。僕はこの人の正体を知ってしまったのだから。
「お前を放っておいては、この事を話してしまうだろうからな」
「そ、そんな事は……」
「口では何とでも言える。だからお前は共犯者にする。魔王討伐を目的としている勇者パーティに魔王が魔法剣士として入っているとばらされては困るからな」
「い、言いませんって……」
緊張で口が渇く。心臓は早鐘を打ち、とても苦しい。だけど、この人は離してくれないし、そもそも逃げられる気がしない。それだけの威圧感も放っているし、その琥珀色の瞳に見つめられたら目をそらせなくなっているからだ。
「そもそも共犯者ってどうするつもりですか……?」
「そうだな。勇者達を説得して、何らかの益がある存在として認めさせる。そうすれば、奴らも納得してお前をパーティの一員として迎え入れるだろう」
「ぼ、僕はただの村人です。勇者様達の手助けなんてとてもとても……」
「それはどうだろうな」
「あ……」
彼の手が僕の髪を軽くすく。同性に髪をすかれているというのに、その流れるような所作に思わず見惚れてしまい、僕の心臓の鼓動はもっと早くなった。
「あ、あの……」
「気づいていないだけで、お前にも何らかの力があるかもしれないぞ?」
「そ、そんなこと……」
「たとえ力がなくとも、お前は共犯者なのだから出立の時には連れていく。役割は……そうだな、荷物持ちがいいか」
「そんな……」
ただの村人の僕だというのに、この人は勇者様の旅に僕を連れていこうとしている。役割を与えてくれるのはいいけれど、荷物持ちだとしても僕にとっては荷が重い。
どうにか断れないものだろうか。そんな事を思っていた時、魔王さんはスッと僕に顔を近づけた。
「な、何を……」
「なに、勇者達にもバラされてもよくはないのでな。少し保険をかけさせてもらうぞ」
「保険……?」
その言葉に疑問を覚えた直後、僕の唇が魔王さんの唇で塞がれた。
「んむっ!?」
驚く僕を前にしながら魔王さんの舌は僕の舌に巻き付いたり歯茎をゆっくりと撫でたりしながら動き回り、突然の事に動揺していた僕はされるがままだった。けれど、不思議と嫌な気分はしない事に気づき、その事に疑問を感じながら僕はされるがままに魔王さんからのキスを受け止めた。
「ふう……」
そんな声と共に魔王さんが顔を離す。もう終わりなのか。何故だかそんな事を思っていた時、舌に何か違和感を感じた。
「なんだ……?」
「正体を話されても困るのでな。お前の舌に紋章を施させてもらった」
「紋章……?」
「ああ。秘密をバラそうとした際にお前の全身に激痛が走る作用を持った紋章をな」
「ひっ!?」
それを聞いて僕の口から悲鳴が漏れる。本当はそんな物を勝手につけられた事を怒ってもいいのだけど、怒るよりも実際にその時が訪れてしまった時の事を想像して恐怖を感じてしまったのだった。
「言わなければその紋章が起動することはない。苦痛を味わいたくなければ、秘密を守る事だな」
「うぅ……」
どうして僕が。そんな事を考える中、魔王さんは静かに笑った。
「さて、改めて自己紹介をしよう。私はルーファス・クリフォード、これは魔法剣士として加わるためにつけた偽名で、魔王としての名はグレアという。お前の名は?」
「アレクシス・エアハートです……」
「そうか。ではアレクシス、人質としてしっかりとついてくるのだぞ?」
「はい……」
力なく僕は答える。こうしてただの村人だった僕は一夜にして魔王の共犯者としての人生を歩む事になってしまったのだった。
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