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応接室に到着すると、用事が終わったのかブレット学長の姿はなかった。俺達が揃って席に着いてから一連の出来事について話をすると、グレアムさんは沈痛そうな表情で静かに頷いた。


「そうか……ティムも大変だったな。それにしても、あのムカつく野郎にそこまで疎まれてるなんてな……ティム、俺にはその理由や解決策はわからないが、お前さんの事は応援してるからな」
「はい、ありがとうございます。とりあえずこれでクエストは達成したわけですが、あの……再提携の件は……」
「ああ、問題なく合格だ。たしかに他の人の力も借りてはいたが、それでもクエストを達成してきた事実は変わらないし、そんなお前さんだからそこのモニカって姉さんも力を貸したんだろうからな。二人にそれぞれ報酬も渡すさ」
「それはありがたいけど、なんだか申し訳ないわね。途中から加わったのに報酬まで貰えちゃうなんて」
「いえいえ。モニカさんにはお世話になりましたし、むしろ俺の方がお礼を差し上げたいくらいですから。それでは、再提携についての書類などはウチの学長や本校のブレット学長にもお知らせした上で後日ここまでお持ちしますね」
「ああ、よろしく頼む。ティム、改めてこれからよろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします、グレアムさん」


嬉しそうなグレアムさんと握手を交わすと、グレアムさんはライ達を見ながら楽しそうな様子で笑みを浮かべ始めた。


「それにしても……ティムはますますテイマーみたいになってきたな。ここは本当にテイマーになってしまったらどうだ?」
「それはマーシャさんにも言われてますよ。努力家のようだから特訓を重ねてテイマーの力を手に入れたら良いと」
「まあそうだろうな。他のジョブに比べたら、テイマーはあまり憧れられないし、好き好んでパーティーに入れようとする奴も少ない。だが、俺から見てもお前さんにはテイマーの素質はありそうだし、テイマーで教員ってのも中々聞かねぇから、話題性はバッチリだと思う」
「話題性はあっても、まだ生徒を取れる程の実力は無いですけどね。とりあえずこの件はマーシャさんとブレット学長に──」
「では、早速聞かせて頂きましょうか?」
「え……?」


突然聞こえてきた声に驚きながらドアの方へ顔を向けると、そこには受付嬢に連れられたブレット学長とマーシャさんの姿があり、二人の姿にモニカさんは嬉しそうな様子を見せた。


「二人とも、久しぶりね。マーシャは変わらずだけど、ブレットは……また少し老けたんじゃない?」
「モニカと違ってしっかりと老化は来ているからな」
「モニカよ、久しぶりだな。まさかティムと行動を共にしているとは思っていなかったぞ?」
「向こうで偶然出会ってね。二人はどうしてここにいるのよ?」
「マーシャと一緒にグレアムさんと話をしに来ようと思って、一度分校まで行ってきてたんだ。ティムさんに分校との再提携の件はお任せしたけれど、元々はウチの愚息のせいでこうなったわけだから、分校の学長を任せているマーシャも含めて改めてご挨拶をするべきだと感じたんだ」
「再提携をするのは分校だからな。たしかに学長である私が顔を見せぬのは礼儀知らずというものだ。そして二人でこの『アティナ』の近くまで来たところ、お前達の姿を見かけたので気配を隠して後ろからついてきたのだ」
「後ろからって……普通に声をかけて下さいよ……」
「たまにはこういった事をしたくなるのですよ。さて、グレアムさん……」


ブレット学長はグレアムさんに視線を向けると、申し訳なさそうな顔をしながら静かに頭を下げた。


「愚息の無礼、改めて本当に申し訳ありませんでした。冒険者育成学校の副学長とあろうものが冒険者のみを贔屓し、冒険者の経験が無い方を下に見るなど本当にあってはならない事ですから」
「……まあそうだな。元勇者であるアンタにはこれまで何度も来てもらったり謝ってもらったりしているし、今はもう済んだ事だとは思ってる。ただ、ティムも同じようにその副学長のせいで辛い思いをしているし、ソイツが自分のところの教員に指示を出して邪魔をしようとしていたという話も聞いている。前までは事情があって副学長のクビを切れなかっただろうが、今ならそういう判断をしても良いとは思うぜ?」
「……はい。今すぐにというのは出来ませんが、近い内にブレントには解雇を言い渡す事にしています。本人は拒むでしょうが、それだけの事をブレントはしてきましたから」
「……自分の息子に対してそういう判断を下すのは辛いだろうが、現実を受け入れさせるのも親の務めだからな。ブレット、アンタのその決意は俺も評価するぜ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。さてと……それじゃあお前さん達にもティムの件について話を聞いてもらおうか。中々面白い話が聞けたし、お前さん達も楽しめると思うぜ?」


その言葉を聞いたブレット学長とマーシャさんの視線が俺に向き、俺は緊張から口が乾くのを感じていたが、二人の表情が優しかったため、気持ちを落ち着けてから俺はにこりと笑った。


「お二人に楽しんでもらえるかはわかりませんが喜んでお話はしますよ」
「はい、ありがとうございます、ティムさん」
「では頼むぞ、ティム」
「はい」


そして俺はクエスト中の出来事を話し、応接室はしばらく賑やかな声で満ちていた。
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