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 朝食後、軽く身支度を済ませた俺達は分校の昇降口の前にいた。というのも、そこでマーシャさんが言っていた助っ人と待ち合わせをしているからだ。


「助っ人か……いったい誰なんだろうな」
「誰だろうね。でも、マーシャ様の場合は助っ人だって言って本当は自分だったって言う可能性もありそうじゃない?」
「あー……たしかにありえるな」


 昨日会ったばかりではあるけれど、マーシャさんはとても悪戯が好きなようであり、ライが言うように助っ人だと言って自分から来る事も平気でありえる気はする。

 それに、今回の件に分校の責任者であるマーシャさんが来てくれた方が俺としても助かる。もっとも、これまでに見た事が無い程に綺麗な女性であるマーシャさんが一緒だと周囲の目をひいてしまってだいぶ大変そうではあるので、そこは注意しないといけない気はしていた。

 そうして待ち続ける事数分、昇降口の方から強い魔力を感じてハッとしながらそちらに顔を向けた。すると、そこには見覚えはあるけれど、とても驚く姿があった。


「……え?」
「あ、ゴーンだ」
「あー……おはよう、二人ともー。セオドリックさんも久しぶりー」


 そんなのんびりとした声で言いながら近づいてきたのは初日に出会った黒竜のゴーンだった。けれど、地下室で出会った時のような巨大な姿ではなく、ライと同じくらいの可愛らしい手載りサイズになって飛んできていたのだ。

 そしてゴーンは小さな翼をパタパタとはためかせながら俺の片方の手に着地すると、眠たそうに欠伸をしてから俺を見ながらにこりと笑った。


「マーシャ様に頼まれて助っ人に来たよ」
「マーシャさんが言ってたのはゴーンだったのか……たしかに最上位のクエストでしか見ないような黒竜なら実力は折り紙つきだろうけど、でもどうしてゴーンに助っ人を頼んだんだろう……?」
「僕は普段から眠ってばかりだからね。それならティムの手伝いをしてこいってマーシャ様から言われたんだよ。あと、マーシャ様にこれを渡せって言われてきたから今の内に渡しとくね」


 そう言うと、ゴーンの体が白い光を放ち始め、その中から長い杖のような物が現れ始めた。それは白い光を放つのを止めると、もう片方の手へと移動し、俺はその杖を静かに握った。


「これがマーシャさんが言っていた……」
「そう。この杖は魔道具の一種で使用者の意思を自分から感じ取って戦ってくれる物みたいだよ。たしか名前はケイオンとか言ったかな?」
「えっ……!?」
「ふむ、ケイオンか。此度の試験においてそれは中々の戦力になるな」


 セオドリックさんの言葉を聞いてライは不思議そうな顔をする。


「そのケイオンってそんなにすごい杖なの?」
「伝説で言い伝えられてる杖だよ!」
「あれ、そうなの?」
「そうだよ!」


 ライが不思議そうに言う中、俺は自分の手の中に伝説の杖がある事に驚きながら答える。ケイオンは伝説の魔道士が使っていたとされる先端に絡み付いた白と黒の蛇の目に紫色の宝石が嵌め込まれた灰色の杖であり、ゴーンが言うような自分から戦う力以外にも様々な力を持っていて、使用者を輝く未来へと導くとされる物だ。

 それが俺の手の中にある事もそうだが、マーシャさんが持っていた事も本当に驚きだ。


「……セオドリックさんとゴーン、そしてこのケイオン。これは本当に心強いけど、マーシャさんが言うように戦力が過剰過ぎないかな……」
「それくらいマーシャ様がティムを気に入ってるって事じゃない? マーシャ様、僕にティムの助っ人をお願いしてきた時にすごく良い笑顔してたし、マーシャ様が言ってたコーチングの能力だけじゃなくてティム自身を心から気に入ってるんだよ」
「マーシャさんが俺の事を……」
「うん。分校の学長の件はブレットさんからのお願いだと思うけど、気に入らない相手だったらそもそも相手にすらしないし、僕はマーシャ様がティムの事をすごく気に入ってるんだなと思うよ」


 ゴーンの言葉を聞いて俺はマーシャさんの顔を思い浮かべる。言われてみれば、マーシャさんは出会ってから今朝まで俺に対して嫌悪感を示した事は無かった気がする。それどころか昨晩も夕食の時に面と向かって気に入ったと言ってくれた上に能力の正体を探るためとはいえ、体に触れてきたりうっかり木を倒してしまった時も後片付けだけで良い事にしてくれた。

 そして、ブレット学長から俺の本校での話を聞いていたのにも関わらず教員として働くためのチャンスまでくれて、ゴーンやケイオンまで助っ人として与えてくれた。

 だけど、俺はそのマーシャさんの気持ちに感謝はしても甘え続けるつもりはない。マーシャさんは俺なら出来ると思って今回の件を託してくれたのに、マーシャさんに甘えてばかりでは何も出来なくなるし、マーシャさんの気持ちを裏切る事になるからだ。


「……この件、絶対にうまくいかせよう。ブレット学長とマーシャさんからの期待には絶対に応えたいからな」
「うん、そうだね。僕もティムのお付きを命じてもらえたし、その期待にはしっかりと応えるよ」
「おー、二人ともやる気だねぇ。でも、僕だって同じだよ。お願いされたからにはちゃんとやるから、二人ともよろしくね」
「ああ、よろしくな、ゴーン」
「よろしくね、ゴーン」
「うん」


 ゴーンが嬉しそうに笑いながら頷いていたその時だった。


「皆さん、おはようございます」
「あ、ブレット学長」
「ブレットか。実に久しいな」
「そうだな、セオドリック。四天王達が教師候補として召集を受けているのはマーシャから聞いていたが、お前が一番に来るとは思わなかったよ」
「近くにいたというのもあるが、私はマーシャ様の四天王だからな。その命とあれば、すぐにでもお側に駆けつけ、お力になるべきなのだ」
「流石の忠誠心だな。さてティムさん、これから『アティナ』に向かうところなのでしたね?」
「そうですけど……マーシャさんからお聞きになったんですか?」


 ブレット学長は微笑みながら頷く。


「そうです。マーシャからどんな試験がいいだろうと聞かれた際、分校をしっかりと学園として機能させるなら冒険者ギルドとの提携は必須ですし、『アティナ』のギルドマスターとはまた一緒に仕事をしたいと思っていましたから。愚息の行いによる後始末をお願いする形になりますが、よろしくお願いします」
「いえ、大丈夫です。しっかりと試験に合格してみせるので見ていてください、ブレット学長」
「ティムさん……」


 ブレット学長は驚いたような顔で俺を見ていたが、やがて安心したような顔をした。


「はい、お任せします。ただ、ギルドまでは私も一緒に参ります。私もギルドマスターと話したい事がありますから」
「わかりました」
「では皆さん、参りましょうか」


 ブレット学長の言葉に頷いた後、俺達は街中にある『アティナ』に向けて歩き始めた。
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