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 マーシャさんの言葉を聞き、ライは不思議そうに体を曲げる。


「冒険者ギルドとの提携……ティム、冒険者育成学校って冒険者ギルドと協力していないといけないって事?」
「そんなところだな。冒険者育成学校のカリキュラムの中には提携をしている冒険者ギルドでのクエストの受注をする物もあって、卒業するまではそのギルド以外からはクエストを受けられない。その代わり、そのギルドならクエストはいつでも受けて良いし、クエストを無事に達成出来たら、その分の成績の他に達成報酬も自分達の物に出来るから、学生達は授業以外でも力試しや小遣い稼ぎで自分に合ったクエストをやりに行くみたいだ」
「そういう事だ。もっとも、受けられるクエストのランクには流石に上限はあるようだがな」
「そうですね。学生の間はF~Dまでしか受けられませんし、受けに行く時には必ず四人以上で行く事になっていて、事前に事務室に申し出をする事も義務付けられています」
「F~D……Dランクってどんなクエストがあるの?」
「簡単な物であれば少し離れた地域での鉱石採取くらいだけど、その中で難しいのになると山賊のアジトの壊滅もあったはずだ。ただ、学生の間にDランクのクエストを受けられるのは最上級生の中でも限られた学生だけなんだけどさ」
「ふむ……マーシャ様、私達が再提携しないといけないギルドは如何様な名前なのですか?」


 セオドリックさんからの問いかけにマーシャさんは静かに答える。


「『アティナ』というギルドだ。さっきも言ったように、この『アティナ』は以前にここと提携をしていたのだが、ブレットの息子がそこのギルドマスターといさかいを起こしたらしく、ブレットの取り成しもむなしく提携を終了する事になったそうだ」
「ブレント副学長……まったく何をやってるんだよ……」
「どうやらそのブレントの発言がギルドマスターの逆鱗に触れた事が原因のようだ。ただ、副学長としての職を解任させるわけにもいかなかったため、厳重注意と一定期間の減給で済ませる事にし、今に至るようだ」
「え、どうして副学長を辞めさせられないんですか?」
「ブレットが言うには、その頃は職員の数も少なかったため、そのバカ息子ですらも辞めさせよう物なら学校の存続に関わってしまうからだそうだ」
「そうでしたか……」
「今ではブレットとギルドマスターはたまに酒を酌み交わす仲にはなれたそうだが、それでもブレントがいる間は提携はしたくないと言っているようだ。だが、この分校にはブレントは関わっていない。よって、今なら『アティナ』のギルドマスターも再提携を考えるはずだ」
「そうだと思います。でも、どうやってギルドマスターを説得して再提携してもらおうかな……」


 俺が方法を考える中、マーシャさんはクスクスと笑った。


「ティム、お前のコーチングを見せてやったらどうだ? それなら興味をひくかもしれないぞ?」
「興味は持ってくれると思いますけど、それだけになりそうですからね……」
「ギルドマスターの悩みを解決したら考えてくれるんじゃない? ギルドマスターに誰かに頼みたい程の悩みがあるかはわからないけど」
「そこだよな……とりあえず、ブレット学長には話を聞いてみて、その上で『アティナ』まで直接行ってみよう。たしか『アティナ』は本校から少し歩いたところにあるはずだから」
「それが良いだろうな。後は……そうだな、お前達にはある助っ人をつけてやるとしよう」
「助っ人……? セオドリックさん以外にも助っ人をつけてくださるんですか?」


 マーシャさんの言葉に疑問を抱いていると、マーシャさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「ああ、試験を行う上では過剰戦力ではあるが、少しはティムの力にならせたいからな。そやつは助っ人というよりは用心棒みたいな物だが、それだけの実力はある。そこは安心しても良いぞ?」
「そんなに強い人が助っ人に来てくれるのは助かりますね。俺もマーシャさんの魔力やコーチングの力があってライもコーチングで強化されていて、セオドリックさんがいるとはいえ、まだまだ連携などの不安がありますから」
「そうだね。でも、このコーチングの強化っていつまで続くんだろう? てっきり寝て起きたら消えてると思ったけど、今もずっと続いてるんだよね」
「永続的……は流石に無いと思うけどな。その内消えるのかもしれないし、何か変化があったら知らせてくれ。俺も自分の中にある力だから、色々研究してみたいんだ」
「うん、わかった。後は……ティムの武器はどうしようか。流石に武器がないとティムだけの時は危険でしょ?」


 ライの言葉に俺は苦笑する。


「そうなんだけど……これまでどの武器を使ってもまともに扱えた事が無いんだ。冒険者育成学校に通えなかったのもそれが理由の一つだし……」
「そういえばそうだったな……わかった、私が何か見繕っておこう。そしてそれは助っ人に渡しておくからそやつから受けとると良い」
「わかりました。よし……それじゃあまずはしっかりと食事をして元気をチャージしよう、ライ」
「うん。頑張ろうね、ティム」
「ああ」


 ライの言葉に頷きながら答えた後、マーシャさん達が見守る中で俺達は指令をこなす活力を得るために作ってもらった朝食をモリモリ食べ始めた。
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