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「ん……」


 意識が戻っていくのを感じながら俺は目を開ける。すると、初めに目に入ったのはこちらを見つめながらニヤニヤと笑うマーシャさんだった。


「……えっ?」
「おや、目を覚ましたか」
「ま、マーシャさん……って、顔近いですって!」
「くく……中々愉快な反応をするではないか。女体を味わった経験はあると言っていたが、そう何度も経験はしていないようだな」
「いやいや、そういう問題じゃ……あれ、そういえばここは……?」


 ようやくここがあの地下室ではなく、自分とマーシャさんが同じベッドの上に横になっているとわかって俺は体を起こしてから周りを見回す。

 周りを少し黒ずんだ壁で囲まれたそこはどうやら保健室みたいなところのようで、軽く消毒液のツンとした匂いがする中で他にもベッドが置かれていたり包帯などが置かれた棚が見えたりしていた。


「俺……マーシャさんに力を目覚めさせてもらった後、気絶して……」
「ああ、そうだ。そしてお前をブレットがここまで運び、お前が目覚めた時に驚くだろうと思って私が添い寝をしてやっていたのだ。予想以上の反応が見られて私は嬉しいぞ?」
「俺は本当に驚きましたけどね……そういえば、俺の中の力は無事に目覚めたんですよね?」
「ああ、それはたしかだ。お前も内側から力が沸き上がってくるような感覚があるだろう?」
「……はい」


 さっきも感じていたけれど、今まで無かったはずの力が内側から主張してきていて、それと同時に体もなんだか軽くなったように感じていて、元気や活力も沸いてきている気がしていた。


「すごい……まるで自分じゃないみたいだ……」
「力を目覚めさせて生まれ変わったようなものだからな。そしてその際に入れた私の魔王としての魔力も取り込んでいるから、確実に以前のお前よりは強いぞ?」
「ああ、そうなんで──え? マーシャさんの力も俺の中に入ってるんですか?」
「そうだ。ティム、試しに初級の風属性魔法でも使ってみたらどうだ?」
「初級の……えっと、たしか……」


 俺は入学試験のために勉強した記憶を頭の奥底から引っ張りだし、その名前を口にした。


「……『風魔法ウィンド』!」


 その瞬間、目の前では突風が吹き荒れ、その威力に俺が驚いている間にマーシャさんはクスクスと笑ってからそれを難なく打ち消した。

 すぐに打ち消したものの、カーテンは軽く破れたり重いはずの棚が動いていたりと室内は少し荒れてしまっていた。


「え、え……?」
「これが私の魔力を受け入れた影響だ。今のお前ならば様々な魔法を扱えるだけでなく、魔法の威力自体を常に高めた状態で唱えられるぞ。良かったではないか、ティム」
「いやいや、威力が明らかにおかしかったですよ!? それに今の威力って……!」
「そうだな。おおよそ『豪風魔法ガスターウィンド』と同等のレベルだったと私も認識している」


 マーシャさんはなんてこと無いように言うが、『豪風魔法』は五段階ある魔法の威力の中でも中級くらいであり、同じように二段階ほど上がって使えるのだとすれば、『豪風魔法』が最大レベルである『極風魔法テンペスト』と同じだという事になるのだ。

 そして『極風魔法』は辺りをも巻き込む程の風を発生させる風属性の魔法であり、強大な力を持つ魔道師が使えば、数百もの人間の命を簡単に奪える程の物であるため、俺もうっかり『豪風魔法』を使おうものなら、同じような惨事を引き起こしかねないのだ。


「……はあ、魔法を使えるようになったけど、しばらくは制御のための特訓をしないとなぁ……」
「特訓も良いが、特訓を続ける事で威力も更に上がっていくぞ? ティムはこれまで魔法を使えない物として考えてきた分、まだまだ伸び代はあるようだからな」
「勘弁してくださいよ、もう……」


 魔法を使えるようになった事、そして体が軽くなった事で武器の扱いも出来るようになったであろう事は本当に嬉しい。ただ、そこまでの威力は別に求めていないし、うっかりで相手を殺してしまう恐れがあるのは本当に危険なのだ。

 その事を考えてまた溜め息をついていたその時、保健室のドアがコンコンとノックされ、静かにドアを開けてブレット学長とバートさんの二人が中へと入ってきた。


「失礼します。ティムさん、お加減はどうですか?」
「あ、はい……バッチリではあるんですが、マーシャさんの魔力を取り込んでしまった事で魔法が使えるようになったと同時に威力がおかしい事になっていて……」
「なるほど、先程の強い魔力の気配はそれでしたか。それならば、ティムさんにはお願いしたいこと以外にも様々な特訓も積んでもらう必要がありそうですね。目覚めさせた力の件もありますし」
「力……そういえば、俺の中に眠っていた力って……」


 その時、俺の腹からとても大きな音が鳴り出し、それに続いて倒れそうな程の空腹感を感じていると、ブレット学長は俺を見ながらクスクスと笑った。


「お話は食事をしながらにしましょうか。時間もそろそろ夕飯時を過ぎる頃ですから」
「そ、そんなに寝ていたんですか……」
「はい、それはもうぐっすりと。それでは皆さん、参りましょうか」

 そのブレット学長の言葉に揃って頷き、ベッドから出て靴を履いた後、俺達は保健室を出て廊下を歩き始めた。
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