107 / 115
番外編
後日談:マーキングの成果
しおりを挟むマーキングという執拗な行為をされてから、ゾディアス様はよりリンジェーラにベッタリになった。
それもそのはず・・・リンジェーラはまた身籠っていたのだ。
何度も繰り返された行為で、リンジェーラはまた妊娠しそうだなと思っていたのだが、本当にまた妊娠した事実には驚いてしまった。
獣人と人族では子を成し難いはずなのと、まだ長女が2歳にもならずして2人目を身籠ったのだから。
そして、1人目同様、ゾディアス様は喜んでくれ、さらに過保護になった。
活発な娘のベルジェールが側に来る時は特に気を配り、リンジェーラの身体に衝撃がないように側で見守ったり、ゾディアス様がいない時は、ベルジェールに会うことは控えさせられたりとした徹底ぶりだった。
しかしベルジェールの成長は早いが、まだまだ二歳児で甘えてきたがる。今までと違い距離をとられた事で、より甘えん坊になっている気もするが、ぐずることはない母親孝行な子だった。
どちらかといえば、ゾディアス様の方がリンジェーラの側を離れるのに抵抗をみせ、かなり渋りながら仕事に向かうという日々を過ごすほどだ。
「リンジー、すぐに帰ってくるから、絶対に1人で出歩かないように。庭に出るのも必ず侍女に手を引いてもらえ、薬草の世話に没頭しないように、日傘をさしてもらって、かならず休憩をとって、身体を冷やさないようにも気をつけて、絶対にポーションを自分で運ばないように」
など・・・1人目と同様、毎日離れる際には注意事を言われ、邸で囲われる日々に戻るのだった。
だが、早すぎる2人目の懐妊に、薬師としての仕事が困ったことになっていた。
2人目は悪阻はあるが、ある種類の匂いに対してだけ吐き気があるだけだったのだが、それが問題だった。
普通のポーションの作成なら問題はないのだが、解毒剤のポーションを作る時は匂いに吐き気をおぼえるようになってしまったのだ。
匂いで吐き気がくるのはベルジェールの時にはなかったのに、悪阻というのは不思議なものだと思った。悪阻自体がない人もいればひどい人もいるし、悪阻の期間が短い人もいれば、出産するまである人もいると聞いた事があった。
獣人にしろ人族にしろ、そこはあまり変わりはないようだったので持ち得ていた知識は、何も情報がない助かっていた。
しかし解毒薬の作成が出来ないのは問題で、リンジェーラは頭を悩ませていた。もちろん理由を説明すれば依頼元のフィラデル様は無理はしなくていいと言ってくれるだろう。
だが、現状、解毒薬がないのは時期的に困るのもリンジェーラは理解していた。この時期は猛毒爬虫類の大量発生が通年で、解毒薬は必要不可欠だからだ。
ゾディアス様も討伐に当たると言っていたので、悪阻は辛いがある程度数は作成しておきたかった。だからなんとか匂いを嗅がないように工夫し作業にとりかかる。
匂いを嗅がないといけない過程だけを何とか耐えて、依頼数の半分は作成し終えたが、リンジェーラは限界になり作業を断念した。
そして、リンジェーラは吐き気を緩和させるべく、匂いがこもる調合部屋からでて、庭にあるベンチソファーにもたれながら悪阻が落ちつくのを耐えていた。
「リンジー、何をしたんだ」
いつの間にかゾディアス様が帰宅し、ゆったりとした動作で近づいてくる。足音がやけに響いて、ゾディアス様が怒っているであろう事がわかった。
「ただ、依頼のポーションを作っただけですよ。言われていた事は何も破ってはいません」
リンジェーラら身体を起こし、言われていたことを思い出す。1人で出歩かない、庭に出るの時ら必ず侍女に手を引いてもらう、薬草の世話に没頭しない、日傘をさしてもらう、かならず休憩をとる、身体を冷やさないようにする、ポーションを自分で運ばない・・・、だったはずだから、いいつけ自体は守っていたはずだ。
「侍女からは約束を破る事はしていないのは聞いているが・・・今1番きつい事を無理してする必要はないだろう」
「けれど、ゾディアス様が討伐に参加され、毒に苦しむ事になるかもしれないのなら解毒薬は必要です。これくらい少し休めば問題はありませんし、大丈夫です」
「リンジーが俺を思い耐えてまで作ってくれたのは嬉しいが、夫としては妻が苦しい思いをするのは、自分が毒に侵されるより耐え難いんだ」
ゾディアス様はリンジェーラの隣に腰かけて、自分の方へ腰を引いて引き寄せた。
「私だって・・・貴方と同じです。大好きだから」
ゾディアス様の腕の中に自分から抱きつき、リンジェーラは目一杯甘える事にした。
「ああ、俺もだ。だから俺の気持ちも理解してくれ。解毒薬ポーションはこの量で足りるようにするから問題はない。俺から事情も説明しておくから心配するな」
ゾディアス様は甘えるリンジェーラを受け止めつつも、絆されはしなかった。
「・・・フィラデル様がいいというなら、いいのですが。依頼量の半分ではありますし、足りるはずはないように思いますけど」
「大丈夫だ。要は討伐に当たる者が、毒の攻撃に当たらなければいいだけの話だ・・・攻撃回避の鍛錬を強化し、毒に当たるような可能性の者は討伐から外せばいい」
そういいきるゾディアス様はなんだか、悪い顔をしていた。団長の横暴さが移ってしまったに違いないと、リンジェーラは思ってしまう。
「それに、リンジーが懐妊した知らせはしていたし、仕事は絶対ではなく、可能ならという前提で、師団長に許可したくらいだからな。自分の唯一の番に無理をさせるなら、容赦はしない」
ゾディアス様は心配するなと、今は自身を気遣う時期だと言ってリンジェーラの膨らみがまだない腹を優しく撫でるのだった。
翌日にはゾディアス様が解毒薬を持っていき、リンジェーラが苦しみながら作成した物だから、使う可能性のある弱い者は討伐に参加させるなと言ったようだ。
団長は、その話を面白がり、師団長へ魔導師団と騎士団で討伐数を競い合う勝負をするぞと持ちかけ、毒を浴びた者がいれば討伐数の減点というルールを提案したらしい・・・一応高得点者には何やら賞品も用意する事になったとか。
ゾディアス様は、団長にしては皆がやる気になる名案をだしたなと満足気に話し、これで解毒薬を使う者が減ればリンジェーラも安心できるし、妻が苦しむ姿をみなくていいと言った。
そして、ゾディアス様は今日も甲斐甲斐しくリンジェーラの世話をやき、マーキングの成果が熟すのを、1番近くで見守ってくれるのだった。
6
お気に入りに追加
977
あなたにおすすめの小説
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

婚約破棄された悪役令嬢ですが、訳あり騎士団長様に溺愛されます
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは、婚約者であるラインハルト王太子から突然の婚約破棄を言い渡される。しかもその理由は、王宮に仕える公爵令嬢リリアナへの乗り換え――クロエが彼女をいじめたという濡れ衣まで着せられていた。
「こんな女とは結婚できない!」
社交界の前で冷たく言い放つラインハルト。しかしクロエは、涙を流すこともなく、その言葉を静かに受け入れた。――むしろ、これは好機だとさえ思った。
(こんな裏切り者と結婚しなくて済むなんて、むしろ嬉しいわ)
だが、父である侯爵家はこの騒動の責任を取り、クロエを国外追放すると決めてしまう。信じていた家族にまで見捨てられ、すべてを失った彼女は、一人で王都を去ろうとしていた。
そんな彼女の前に現れたのは、王国最強と名高い騎士団長、セドリック・フォン・アイゼンだった。冷酷無慈悲と恐れられる彼は、クロエをじっと見つめると、思いがけない言葉を口にする。
「……お前、俺の妻になれ」
冷たい瞳の奥に宿るのは、確かな執着と、クロエへの深い愛情。彼の真意を測りかねるクロエだったが、もう行く場所もない。
こうして、婚約破棄された悪役令嬢クロエは、訳ありな騎士団長セドリックの元へと嫁ぐことになったのだった――。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~
ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。
それが十年続いた。
だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。
そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。
好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。
ツッコミどころ満載の5話完結です。

断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる