獣人の番!?匂いだけで求められたくない!〜薬師(調香師)の逃亡〜【本編完結】

ドール

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番外編

後日談:出産

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 出産予定が近づき、リンジェーラはたびたび眠気に襲われる日を過ごしている。夜は、お腹が大きくなり上を向いては寝れなくなったが、横を向きゾディアス様に、後ろから抱きしめられるようにして、しっかり寝てはいた。


 今日も眠気には勝てずに、昼食後ベッドで仮眠を少しとっていた。いつ陣痛が来てもいいように、体力は温存した方がいいとディミドラに言われていたからだ。
 もちろん寝るだけでなく、散歩もして適度に運動はしている。太り過ぎもよくないのだとか・・・。


 確かに妊娠しているとはいえ、お腹が大きくなる以外にも大きくなったところもあった。
 ・・・胸が大きくなっている気がするのだ。今までに増して、ゾディアス様の胸へ向かう視線が多く、少し前に見過ぎだと、怒り喧嘩してしまったくらいだった。


 一方的にリンジェーラが責める形になってしまい、ゾディアス様は申し訳ないくらい凹んでしまった。なんでも妊婦なリンジェーラは襲えないからと、目に焼き付けて・・・まあ、処理をしていたのだと言った。
 番だとわかってからは、ほぼ毎日求められていたのが、妊娠後はパタリとなくなった。あってもスキンシップくらいだ。


 安定期に入ってから、医師からは激しくしなければと言われたのだが、結局処理を手伝う事はあっても致しはしなかった。ゾディアス様曰く加減ができる自信がないのだとか・・・。


 喧嘩はしたが、なんだか可哀想になり、ちゃんと大好きなリンジェーラの胸で満足させてあげた。ゾディアス様の色艶のある表情はかなり妊婦にはきつかったなと思い出す。


 
 そんなお昼寝タイムにリンジェーラは、お腹の軽い痛みで目が覚めた。月のものがきた時の軽い痛みだが、痛くなったり、痛くなかったりと間隔があった。


 今日もゾディアス様は仕事に行っているため不在だ。陣痛かもしれないと思い、控えていた侍女に医師を呼んでもらい診察を受けた。


「3~4センチは開いていますね。産まれるのは早いかもしれません」
 診察をしてもらい、医師は早いかもしれないといった。リンジェーラは痛みが短いならその方が嬉しいが、まだこの痛みが本陣痛ではないことは理解していた。
 ちゃんとディミドラに話を聞いたり、本で調べていたのだ。


「今間隔が短めで痛みがあったり、なかったりなんですが、月のものの時の痛みよりは弱いので、どうなんでしょうか」


「いきなり痛みが強くなるでしょうが、心配することはありません。皆通る道ですから・・・。それより旦那様へ連絡をされておいた方がいいでしょう。獣人の赤子の可能性が高いので」
 医師の助言に頷き、侍女を見る。待機していた侍女は、既にゾディアス様へ連絡をとっていると言ってくれた。


 少しでも何かあればゾディアス様へ連絡がいくようにはなっていたが、この屋敷の者は皆仕事が早かった。


 しばらくすると、ゾディアス様が帰ってきたのか騒がしくなる。何故騒がしかったかは、ドアがあいて入って来たゾディアス様を見て悟った。

「リンジェーラ!」
 ゾディアス様は服に血をつけて帰ってきたからだった。おそらくそのような格好で、陣痛の始まった妊婦のいる部屋へ入るのを止められたのだろう・・・。


「・・・ゾディアス様。怪我は・・・されていないですよね?でしたら今すぐシャワーを浴びて着替えてきてください」
 リンジェーラはゾディアス様を見て、静かに告げた。

「それより大丈夫か?痛むか!?」
 だが、ゾディアス様はその格好のままリンジェーラへ近づこうとした。


「ッ来ないで!血の匂いで・・・気分まで悪くなりそうです。痛みはまだそれほどではありませんから、ちゃんとしてきてください」
 恐らく返り血であろうが、妊婦だからか僅かでも不快になった。


 ゾディアス様はリンジェーラの言葉に医師の顔をみた。医師は陣痛が始まっている妊婦のそばに寄るには、清潔が大事だと言われ自分の格好を確認すると、すぐに戻ると言い、急いで部屋を出て行くのだった。


 ゾディアス様が出ていき、安堵したが直ぐに本陣痛が始まる。叫んでしまったからだろうか・・・。かなり陣痛は痛く、ゾディアス様が戻る頃には間隔がかなり短くなっていた。


 リンジェーラの様子を見てゾディアス様はかなり狼狽し、手を握ってくれた。そして、苦しむリンジェーラを見てお腹に手を当て、母を苦しめるな、早く出てこいと言っていた。痛みが引いたタイミングだったので、つい笑ってしまった。

 笑ってしまったからだろうか、パンと音がして破水までしてしまい、その事を告げると周りまで慌てだした。


 本当に生まれる直近になったので、ゾディアス様には退室してもらい、部屋の前で待機してもらう。生まれる瞬間は、今後の夫婦関係には、よろしくない場合があると聞いていたので、事前にちゃんと決めていたのだ。

 ちゃんと決めていたからか、ゾディアス様はリンジェーラを気遣い退室してくれ、リンジェーラは出産に集中することができた。ゾディアス様が退出して、すぐに元気な赤子が生まれた。

 ゾディアス様には子を綺麗にし、処置が終わってから部屋へ入ってもらった。ドアの前で、まだかと催促が何度もあったが、大丈夫だと声をかけ安心させなければならなかった。


「ゾディアス様、女の子です・・・獣人ですね。耳と尻尾がとっても可愛い。ゾディアス様に似ていますね」


「・・・女か・・・それに上位種だな。俺と同じ髪色だが、リンジーに似て可愛いぞ。瞳はリンジーのをついでいるな」

「女の子では嫌でしたか?」
 なんだかリンジェーラはゾディアス様の言動に不安になった。


「ただ、心配になったんだ。リンジェーラに似た女の子だ。将来は美人だろう・・・。それに上位種ともなれば周りが五月蝿いだろうからな。王家から何かしらくる可能性もある」
 王家には獣人の血は流れてはいない・・・だから上位種の女児が求められているのは知っていた。


「ゾディアス様・・・」
 リンジェーラは子が取り上げられる不安にかられた。


「まあ、今は大丈夫だろう・・・。今の皇太子が結婚し、その子どもが大人になってからか、孫くらいの話にはなる。上位種は寿命が長いからな・・・だがその時のために、助け合う兄弟は多い方がいい」
 

「もう兄弟の話ですか?・・・今はこの子に集中して下さいね。こんなに可愛いんですから、いっぱい愛してあげましょう」
 リンジェーラは腕に我が子を抱きながら、生まれたての皺くちゃな手を握った。

「そうだな。だが、俺にくれるリンジェーラの愛は残しておいてくれ」
 ゾディアス様はちゃっかり自分をアピールして寄り添ってくる。


「貴方と子への愛は別物ですから、どちらにもいっぱいあげますね」
 そんな可愛らしいゾディアス様にリンジェーラも疲れた身体を寄り添わせた。
 
「ああ期待している・・・それとリンジー、俺の子を産んでくれてありがとう」
 ゾディアス様は愛おしそうにリンジェーラを見つめ、口付けを送ってくれるのだった。


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