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93.魔道具
しおりを挟む朝の支度を終え、ゾディアス様と朝食を一緒に食べて仕事に同行する。ゾディアス様は、食事中も何かいいたげな視線を向けてきたが、リンジェーラはなんとかスルーし続けた。
ゾディアス様に、師団長の所に送ってもらい、昼には迎えに来ると言ってもらって、ゾディアス様は仕事へ向かわれた。
視線は変わらずだが、昼もまた会うので、リンジェーラは特に気にしないでおいた。
「お熱いようですね、リンジー」
師団長が、部屋のドアを開けて出てきた。
「フィラデル様・・・からかわないで下さい」
リンジェーラは指摘されて恥ずかしかった。
「仲がまとまって良かったですね。リンジーから話を聞くのを楽しみにしていましたよ。部屋へ入って聞かせてください」
リンジェーラは師団長に招かれて、前回のようにテラス席まで案内される。
「それで、彼に貴方が番だとどう話したのですか?」
師団長は席に着くなり本題に入ってきた。よほど気になっていたのだろうか。
「この間の皇太子のパーティーでの話は聞かれましたか?」
「参加出来なかったので、詳しくはわかりませんが、獣人の参加者達が途中で一箇所に集まり出したというのは聞きましたね」
「その原因は、私が自分でグラスを割って手首を切ったためです」
リンジェーラは手首に視線を落とす。今はもう傷跡すら残ってはいない。
「何故・・・そのような事を」
師団長は、怒っているようだ。
「最近、男爵夫人がゾディアス様の番だと、ゾディアス様にいいよっていたんです。でも、子を産んでいたので、匂いはわからないといって・・・ハンカチの情報をどう仕入れたかわかりませんが、もちだしたみたいで」
「なるほど・・・その夫人の話には聞いていましたが。その夫人が原因ですか?」
師団長は察したようだ。
「はい・・・あのパーティーで夫人は、禁止されていた香を使用してゾディアス様を朦朧とさせてしまって・・・。今回は私の声も届かずに、彼女が連れて行ってしまいそうになったので・・・賭けにでるしかなくて」
リンジェーラはあの時の事を思い出して、手首の傷つけたあたりをなぞる。
「自分を傷つける行為は、褒められたものではありませんね。今回は仕方がないとはいえ、次からは何か対策を考えておくべきです」
「はい・・・。ゾディアス様には身につける物に、私の匂いをつけるといいといわれたんですが、それは問題もあるらしくて・・・」
リンジェーラから口にするにはちょっと恥ずかしくて口籠った。
「・・・言わなくてもわかりますから大丈夫ですよ。獣人に番の匂いが作用する効果は理解してますから。常に作用するのはしんどいでしょう。けれど、自分が意図してない時に惑わされるのであれば、常に作用していないと困りますね・・・。私に心当たりのある魔道具があるので、取り寄せて試してみましょう」
師団長は心当たりがあると言った。魔法に関しても、魔道具に関しても、やはり相談して良かったなとリンジェーラは思った。
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