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71.不法侵入
しおりを挟む部屋へ戻ったリンジェーラは、バルコニーに出て、アーチ状の屋根がついたバルコニーソファにもたれ掛かり、一息ついた。
夕陽が眩しいため顔を伏せ、背に陽を浴びる。陽があたってあたたかかい。
だが、すぐに陽が当たらなくなり陰った。さすがにいきなり陽が沈むのは早い、と思うのと同時に背後から声かかる。
「どうしたんだ?大丈夫か・・・」
背後からいないはずのゾディアス様の声がして、振り返る。
「なんで・・・ここに」
リンジェーラは周りを見回す。兄の静止を押し切って来たのだろうか・・・。だが兄の姿はない。
「君の兄に、会うのを止められて、一旦帰ろうと思ったんだが、やはり諦められなくてな・・・。そこから登ってきてしまった」
ゾディアス様は、そばにある木に視線をむける。2階のため木を登れば可能かもしれないが、木とベランダはだいぶ距離がある。さすが、身体能力の高い獣人というべきか・・・。
「不法侵入ですよ・・・爵位を賜っている方のすることではありません」
さすがに、こちらよりも爵位が上だとしても、不法侵入はまずいとリンジェーラは思う。
「そうだな・・・だが顔を見たくて、ついな」
ゾディアス様は悪いとは思っているみたいだったが、リンジェーラとしては、顔を見たくてと言われた方が恥ずかしくて、また顔を伏せてしまった。
「顔を見せてはくれないのか?」
リンジェーラが、顔を伏せたため、ゾディアス様は近づいてきたようで、耳元で声がして、うなじに口付けられた。
「ひゃッ、何するんですかッ」
リンジェーラは、ゾディアス様の行動に振り向いて抗議する。
「目が腫れているな・・・泣いていたのか」
ゾディアス様はリンジェーラの抗議には返事をせずに、リンジェーラの顔を見て問いかけてくる。
リンジェーラは、少し腫れぼったくなっているであろう目元を見られたくなくてまた顔を伏せた。
だが、またゾディアス様はリンジェーラのうなじに口付けてくる。
「ッ、いいかげんにしてくださいッ」
ゾディアス様の方を向き、リンジェーラはしっかりゾディアス様の顔を見据えた。ゾディアス様は何故か嬉しそうな顔をしている。
「やっと、ちゃんと此方を向いたな」
ゾディアス様の顔を見てリンジェーラは、なんでそんな嬉しそうな顔をするのだろうかと、胸が締め付けられてしまう。
「それで・・・?顔を見て満足しましたか。満足したならお帰りください」
リンジェーラはまだ、ゾディアス様と話をする勇気がでなかった。
きっと昨日リンジェーラが見た後の事で報告にでも来たのだろう。そう思うと、聞きたくなくて、今すぐ逃げ出したくてたまらなかった。
「少し、話をしたい」
ゾディアス様はリンジェーラの頭を撫でてくる。
「私はしたくありません・・・」
顔を背けて、頭を撫でていた手を払うようにして拒否する。
「少しでいいから聞いてくれないか」
だが、ゾディアス様はしつこい。
「だからッ、聞きたくないって言ってるじゃないですかッ。どうせ・・・他の人と出来たって報告なのでしょうッ、だからッ、私はもうッいらないって言いにきたんでしょッ」
リンジェーラはゾディアス様がしつこく言うため、思っている事をぶつけてしまい、涙が頬を伝うのだった。
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