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66.兄と酒場

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 リンジェーラは直ぐに目立たない服装に着替えて、変装用に伊達眼鏡をかける。
 眼鏡と三つ編みにした髪型で、だいぶ野暮ったくは見える。


「どうかな?上手く隠せてる?」
 兄の前で一回転してみせる。


「そうだな。どんなリンジーも可愛いが、今はリンジーとはわかりにくいし、令嬢にはみえないだろう。自慢の妹を見せびらかせなくて残念だ。」
 

「どうせ、令嬢には見られていませんよ~。そんなに残念なら、今度お兄様にエスコートされてお買い物とかしたいから、また昼間にお願いしますね。おしゃれしますから」
 リンジェーラは兄に、お出かけの約束をとりつける。


「たまには、自慢して歩くのもいいな。時間を作れるように調整しておくよ。好きな物を買ってあげる」
 兄はリンジェーラを、たくさん甘やかしたいようだ。



 馬車に乗って街に行き、目的のお店で薬草を購入した。兄は使用人に屋敷に持って帰っておくように指示する。


 この時リンジェーラは、わざわざ出掛けずとも買ってくるように頼めばよかった事に気づいた。
「持って帰ってもらうなら、わざわざ来なくてもよかったですね」


「普通はそうするだろうな。リンジーは人に頼むということが頭にないから、考えつかなかったんだろう。いつも自分でしてしまう癖があるからな。令嬢としては、仕えられる事になれておかなければ、ならないな・・・」
 兄はリンジェーラに令嬢として成長をしてほしいのだろうが、決して強制することはしなかった。


「はい、気をつけます」
 リンジェーラは、父や兄に恥をかかせないために、なるべく気をつけているつもりはあるが、考え方や癖はなかなか治らないのだった。



「今はいいよ。今日は、リンジーが前から行きたがっていた酒場に行くからね。身分はわからないほうがいい」
 リンジェーラは前から酒場に行ってみたいと言っていた。だが酒場はお酒を提供しているし、冒険者や男が多いから1人では行かないように言われていた。


「えっ、いいの?大丈夫?夜の酒場の方が危なくない?」
 

「大丈夫だ。護衛をやとっている」
 兄は酒場に行くために、わざわざ護衛を雇ったと言う・・・。


「酒場に行くのに護衛・・・ですか」
 護衛に囲まれて食事ができるだろうか。


「と言っても、リンジーがよく雇う冒険者の護衛達を、酒場で食事を奢るから絡まれたら護衛してくれと呼んだんだ。勿論女性もいるから安心しなさい」


「なるほど。安心ですね。ありがとうございますお兄様」
 リンジェーラは兄の気遣いに感謝するのだった。

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