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65.いつもの日常
しおりを挟むディミドラが辺境伯領に帰ってしまったので、リンジェーラはいつもの日常に戻った。
ゾディアス様と出かけた時の薬草を調合し、ゾディアス様から依頼されたポーションを作っている。
魔導師団へ注文されていた物は、既に納品済みだったので、数日は宮廷に行かなくてもよかった。
宮廷以外では団長と出会った事はないので、宮廷にさえ行かなければ、団長に捕まりディミドラの事を聞かれずにすむだろう。
なんとはぐらかすかは考え中だ。屋敷にこもって、何かに刺繍をしていたとでもいえばいいだろうか・・・。勝手に勘違いして、自分にだと思って、期待して待つのではないかと思うのだが・・・。
団長はディミドラに対しては、単純だからうまく騙されてくれるだろうと期待して。
ディミドラが、大人しく刺繍をするような女性でないことは、彼女を理解していれば、気づくのだろうが・・・。ディミドラに夢中な団長には無理だろうな、とリンジェーラは思うのだ。
夕方まで作業に集中し、ポーションは完成したのだが、材料を結構使ってしまい、他の調合薬に必要な分がなくなってしまった。まだ日はくれていないので、屋敷の方へ向かい、執事へ出掛けたい事を説明すると、兄が姿を現した。
「もう夕刻だ。すぐに暗くなるぞ、明日にしたらどうだ」
兄は心配してか、いい返事はくれなかった。
「明日までに、しておきたい作業工程があって・・・どうしても行きたいの。お願い」
リンジェーラは兄を見上げて、上目遣いでお願いをする。こうすれば兄は大抵聞いてくれるのだ。
「・・・抜け出されると困るからな。許可はしてもいいが条件がある」
「条件?」
「俺が一緒に行く」
「お兄様が?お仕事は大丈夫?」
「問題ない。たまに、妹と出かける余裕くらいある。父は今日帰りが遅いらしいからな、街で食事でもして帰ろうか」
兄とはたまに父がいない時は出掛けたりしていたので、いつものパターンではあった。
最近は忙しくてあまり時間がなかったので久しぶりだ。
「お兄様と出掛けるなら嬉しい!久々ね」
リンジェーラは嬉しくて、兄の腕に抱きついた。
「そうか。なら支度をしておいで、目立たない服でな」
夜に街に行くときは、なるべく目立たないようにするのはお決まりだ。
「すぐに準備するから門のところで待ってて」
リンジェーラは、兄から離れ、急いで準備をしに戻って行った。
「やれやれ、まだまだ令嬢にはなりきれないな」
リンジェーラが走りさる姿を見て、兄は呟くのだった。
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