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62.3人目の妻

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 リンジェーラに無関心だったように見えた彼が、今は好意のある目で見てきてくる。そして、リンジェーラを口説こうとするような言葉を言うのだ。


「貴方は慈悲深くて、寛大・・・私に気を使わせないためにそのように謙遜までして」
 何故か過大評価を頂いてしまった・・・。


「ゾディアス殿はやめて、私と交際しませんか。貴方を満足させてさしあげますよ」
 今度は先程の男のポジションが彼に変わってしまったと思った。リンジェーラは困り果てる。嫌悪感はないが無理そうだ・・・。周りにはいないタイプで対応に悩んだ。



「それは聞き捨てならないな・・・」
 ゾディアス様の声が背後からして、腰をひき寄せられ腕の中に入れられた。


「おや、やっと戻ってこられましたね。遅すぎます。何よりこんなに魅力的な女性を1人にしてはいけませんね」
 やれやれと、ため息までつかれる。


「髪が濡れているな・・・これでは冷えるぞ。早く帰ろう」
 ゾディアス様は目の前の彼を無視して、リンジェーラの髪を撫で話しかけてくる。


「・・・ゾディアス殿、無視はよろしくありませんよ。失礼です」



「他人のパートナーにちょっかいをかける奴には、適切な対応だ」
 ゾディアス様は睨みつけている。やっかいな人なのだろうか・・・。未だ情報がないためどの立ち位置の人かリンジェーラにはわからない。

「なかなかおっしゃいますね。魅力的な人にアプローチするのはいけない事ではないはずですが?妻ではないのですから」


「そっちこそ、既に妻が2人もいるだろう・・・欲張らず、娶っている方を大切にした方がいい」
 すでに2人の奥方がいるのにリンジェーラは驚く。リンジェーラには一夫多妻は考えられないことなので、同意を込めて頷く。
     

「もちろん大切に扱っていますし、夜伽も満足させてはいます。3人目は妻達の希望でもありますからね。身体がもたないと言われましてね・・・。私は慈悲深い彼女を気に入りましたから、是非迎え入れたいと思ったのですよ」
 3人目を迎えるのが、妻達の希望だとは、どういうことなのだろうか・・・。普通は嫌がるのではないのか。
 


「なら、これでも可能ですか?」
 リンジェーラは獣人撃退スプレーを自分に吹きかける。相手の表情が匂いにより歪んだ。


「この匂いに耐えられない方との、お付き合いは論外です」
 ゾディアス様を見たけれど、平気そうな顔をしていた。まだ薬はきれてはいない。


「そんな・・・。ゾディアス殿は無理をしているだけでは」


「そんな事はない・・・」
 勿論だ。無理はしていない。匂っていないのだから・・・。


 ゾディアス様は、それを証明するようにリンジェーラをかかえあげ、頬に口付けしてくる。口へも口付けをしようとされたため、リンジェーラは手で拒否をする。


「人前ではやめて下さいッ」
 なんだかゾディアス様はリンジェーラに対して、段々と大胆になっていると感じる。
 

「まぁ、時間をかけることにします・・・。今日は妻に贈り物をしようと来ただけなので、このへんで。ではまたお会いしましょう」
 妻を大切に扱っているのは本当のようだ・・・。名前も知らない人はリンジェーラの手の甲に口付けして去って行った。
 


「結局、あの人はだれだったんですか?」
 口付けられた手の甲を拭いながら、最後まで名乗られなかったなと思い口にする。

「・・・知らないで話していたのか?」
 ゾディアス様は唖然としていた。
 

「はい・・・存じ上げませんし、名のられませんでしたから。こちらの名前も教えていません。へんな方でしたね」
 リンジェーラがそういうと、ゾディアス様はクツクツと笑われた。


「彼をそんな風にいう者はいないだろうな・・・。彼は宰相補佐をしていてとても優秀だ。妻は既に2人いるが、兎獣人だからな・・・おそらく3人目というのは本気だろう」


「兎獣人だから、とは?」


「奥方達は、つまり夜伽が大変なんだろう・・・発情期が多い種族だからな」
 なるほど、だから妻達は、3人目を希望しているというわけなのか・・・。
 だがまだ未経験のリンジェーラには、どうたいへんなのかはわからない。ただ、自分の夫を共有する人数を、増やしてもいいと思えるほど大変なんだなと考えるのだった。
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