63 / 114
62.3人目の妻
しおりを挟むリンジェーラに無関心だったように見えた彼が、今は好意のある目で見てきてくる。そして、リンジェーラを口説こうとするような言葉を言うのだ。
「貴方は慈悲深くて、寛大・・・私に気を使わせないためにそのように謙遜までして」
何故か過大評価を頂いてしまった・・・。
「ゾディアス殿はやめて、私と交際しませんか。貴方を満足させてさしあげますよ」
今度は先程の男のポジションが彼に変わってしまったと思った。リンジェーラは困り果てる。嫌悪感はないが無理そうだ・・・。周りにはいないタイプで対応に悩んだ。
「それは聞き捨てならないな・・・」
ゾディアス様の声が背後からして、腰をひき寄せられ腕の中に入れられた。
「おや、やっと戻ってこられましたね。遅すぎます。何よりこんなに魅力的な女性を1人にしてはいけませんね」
やれやれと、ため息までつかれる。
「髪が濡れているな・・・これでは冷えるぞ。早く帰ろう」
ゾディアス様は目の前の彼を無視して、リンジェーラの髪を撫で話しかけてくる。
「・・・ゾディアス殿、無視はよろしくありませんよ。失礼です」
「他人のパートナーにちょっかいをかける奴には、適切な対応だ」
ゾディアス様は睨みつけている。やっかいな人なのだろうか・・・。未だ情報がないためどの立ち位置の人かリンジェーラにはわからない。
「なかなかおっしゃいますね。魅力的な人にアプローチするのはいけない事ではないはずですが?妻ではないのですから」
「そっちこそ、既に妻が2人もいるだろう・・・欲張らず、娶っている方を大切にした方がいい」
すでに2人の奥方がいるのにリンジェーラは驚く。リンジェーラには一夫多妻は考えられないことなので、同意を込めて頷く。
「もちろん大切に扱っていますし、夜伽も満足させてはいます。3人目は妻達の希望でもありますからね。身体がもたないと言われましてね・・・。私は慈悲深い彼女を気に入りましたから、是非迎え入れたいと思ったのですよ」
3人目を迎えるのが、妻達の希望だとは、どういうことなのだろうか・・・。普通は嫌がるのではないのか。
「なら、これでも可能ですか?」
リンジェーラは獣人撃退スプレーを自分に吹きかける。相手の表情が匂いにより歪んだ。
「この匂いに耐えられない方との、お付き合いは論外です」
ゾディアス様を見たけれど、平気そうな顔をしていた。まだ薬はきれてはいない。
「そんな・・・。ゾディアス殿は無理をしているだけでは」
「そんな事はない・・・」
勿論だ。無理はしていない。匂っていないのだから・・・。
ゾディアス様は、それを証明するようにリンジェーラをかかえあげ、頬に口付けしてくる。口へも口付けをしようとされたため、リンジェーラは手で拒否をする。
「人前ではやめて下さいッ」
なんだかゾディアス様はリンジェーラに対して、段々と大胆になっていると感じる。
「まぁ、時間をかけることにします・・・。今日は妻に贈り物をしようと来ただけなので、このへんで。ではまたお会いしましょう」
妻を大切に扱っているのは本当のようだ・・・。名前も知らない人はリンジェーラの手の甲に口付けして去って行った。
「結局、あの人はだれだったんですか?」
口付けられた手の甲を拭いながら、最後まで名乗られなかったなと思い口にする。
「・・・知らないで話していたのか?」
ゾディアス様は唖然としていた。
「はい・・・存じ上げませんし、名のられませんでしたから。こちらの名前も教えていません。へんな方でしたね」
リンジェーラがそういうと、ゾディアス様はクツクツと笑われた。
「彼をそんな風にいう者はいないだろうな・・・。彼は宰相補佐をしていてとても優秀だ。妻は既に2人いるが、兎獣人だからな・・・おそらく3人目というのは本気だろう」
「兎獣人だから、とは?」
「奥方達は、つまり夜伽が大変なんだろう・・・発情期が多い種族だからな」
なるほど、だから妻達は、3人目を希望しているというわけなのか・・・。
だがまだ未経験のリンジェーラには、どうたいへんなのかはわからない。ただ、自分の夫を共有する人数を、増やしてもいいと思えるほど大変なんだなと考えるのだった。
0
お気に入りに追加
934
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる