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63.婚約話 前編
しおりを挟むそうこうして、ゾディアス様に迎えの馬車まで抱えられて乗せられた。頭が濡れたのを拭いてくれたりと甲斐甲斐しい。
そういえば、獣人は好きな相手には尽くすと聞いた事があるし習性でもあるのだろう。
髪を拭かれながら、ゾディアス様が迎えに来るまでに、どうして宰相補佐の彼に気に入られたのかを聞かれたので、一応経緯を話した。
「なるほど・・・。彼の奥方達は優しく包容力があるというらしいからな。リンジーの慈悲深いところに魅力を感じたのだろう・・・。あとは・・・きっと見た目だな」
「・・・見た目ですか」
「彼の奥方達は、2人とも・・・豊満だ」
ゾディアス様は髪を拭いていた手を止め、リンジェーラの胸元に視線を落とした。が、リンジェーラはそんな予感がしていて、胸元をさっと隠す。
「・・・何故隠すんだ。俺の話ではないぞ?」
「・・・なら、隠されても問題ないはずですけど」
「いや・・・隠さなくても、問題はないはずだ」
髪を拭く手は依然とまったままだ。
「そうですか・・・」
ゾディアス様のいい分に、なんだか普通に相手をするのがめんどくさくなってしまった。適当に返事をすると、髪を拭くのを再開して、ゾディアス様が予想にない事を聞いてくる。
「そういえば、俺達は婚約の契約を交わしていないが、いつ場をもうけたらいい?」
「・・・・・・は?」
婚約・・・。番が現れるまでの関係のはずだが、わざわざ婚約までしようだなんて、意味がわからなかった。
「団長から言われてな・・・。団長はそうそうに交わしたらしいんだが。俺達はどうするかと聞かれたんだ」
「・・・婚約!?団長とデラが?そんな話聞いてませんけど・・・まだ番発表はしないって言ってませんでした?」
婚約をしたとは聞いていないが・・・。ましてやディミドラは納得もしていないのだ。
「まだ発表はしないが、あの日のうちに婚約を交わしたと団長は言っていたぞ?」
あの日・・・出会った日だろう。だとしたら、ディミドラは知らない可能性がありそうだ。
団長は・・・ちゃっかり外堀を固めていたようだ。
「彼が番と婚約をするのは、おかしいいことではありませんが・・・私たちがする必要はあるのですか?」
リンジェーラとしては、婚約は不要だと考えている。ゾディアス様の事は好きだが、これからどうなるかはわからないから、関係を縛る行為はしたくないのだ。
「・・・番がみつからない間でもだな、きちんとした付き合いをしていると周りに周知するためにも、婚約は交わしていた方が印象もいいし、みつかった場合も、君の方が都合がよくなる。口先だけの関係ではない扱いの方が、令嬢には傷にならないと・・・」
ゾディアス様なりにリンジェーラの事を思っての言葉だろうが・・・ゾディアス様の考えにはやはり、番がみつかるまでの間というのがある。
リンジェーラとしては、もし番が現れても側におきたいと思ってもらえるくらい好きになっていてほしい。
どうせ番はリンジェーラなのだ・・・。いっそ真実を知ってしまえば私は彼に愛される。だが・・・番だからと愛をささやかれたくなどはないのだ。
「その話はまた改めて、父がいる時にでも・・・。一応父に話はしておきます」
今すぐにどうするかは、自分では返事が出来なかった。
屋敷まで送ってもらい、次の会う約束を取り付ける事はなく別れたのだった。
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