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40.相談
しおりを挟むリンジェーラは、父に言伝を頼み、ディミドラと屋敷へ向かった。リンジェーラはまず屋敷内で仕事をしている兄の執務室をディミドラと訪れ、ディミドラを紹介してから、庭にあるリンジェーラの調合小屋に来た。
「まあ、素敵な場所ね。隠れ家みたいで、薬草やハーブがこんなにいっぱい」
ディミドラはお気に召したようで、興味深々であたりを見回している。
「ここなら、獣人は来ないから安心なの。団長でも家には来ないから安心して」
あの薬を使わなければだが・・・。
「あら、最高ね。つい、ああ言っちゃったから・・・リンジーとの時間が減るのが残念だわ」
ディミドラはギャップに弱く、絆されやすいようだ。
「まあ、言ってしまったのは仕方ないわ。大きな猫がしょげたみたいに見えたのでしょ?」
リンジェーラはディミドラを庭のガーデン席へ案内する。
「そうそう。どうしてかしらね。可愛いって存在じゃないのに。可愛いのを思い浮かべて重ねてしまうなんて・・・不思議だわ」
ディミドラが団長の事を話す時は、団長を相手に話している時と違い攻撃的な発言でもなければ、冷たい感じでもない。
「ディミドラは、団長とはどうなの?」
リンジェーラは席に座ったディミドラに、ハーブティーを入れながら質問する。
「求愛が相変わらずね。手紙も来るし、たまに辺境までわざわざやって来るわ。あの日以降は、無理やり身体の関係を迫られたりはしないけれどね。私が異性と居るのを嫌がるから、二の舞にならないように、彼が来た時は気をつけているわ。始まりはどうであれ、初めての人ではあるし、見た目はタイプだから・・・信用はしてなかったんだけど、ちょっと絆されつつあるかも?まあ、ご覧の通り、素直にはやれないけどね」
ディミドラは番だというのを受け入れつつあるのだろうか。
「今日はいきなり来て驚いたけど、とてもいいタイミングで来てくれてよかった。相談したいことがあったの・・・まだ誰にも言ってなくて。番同士なら、わかってもらえるかなって、丁度デラの事考えてたの」
「番同士・・・。リンジーも?誰かの番だったの?!」
「今日、それがわかったの・・・」
「誰の番が聞いていい?」
「実は・・・ゾディアス様なの」
「え?だって、今まで一緒にいたでしょ?なのに、わかったのは今日なの?」
ディミドラは不思議がっている。
「あの事件から、獣人が嫌っている匂いを纏っているから・・・気づかれなかったみたい。ゾディアス様自身は、まだ私が番だとは知らないわ。あの事件の時に無くしたハンカチがあるのだけれど、それをゾディアス様が、番の物だと言って持っていたの」
リンジェーラは、ディミドラにこれまでの経緯を説明した。もちろん、番が見つかるまでのカモフラージュとして、リンジェーラは都合の良い存在なのだと言われた事も・・・。
リンジェーラの心情も全て話した。
「リンジーは、ゾディアス様を好きになってたのね。でもゾディアス様には都合がよかったと言われて、好きになるまでの彼との時間までもが虚しくなった・・・。うん、当分ばらさなくていいと思うわ」
「デラならそう言ってくれると思ったわ。獣人達は、番、番、うるさいのよね。番なら見た目も性格も全部どんなでも受け入れるのかって・・・。人族と違って、番なら好きになるまでの過程がないってのが理解できない」
リンジェーラはディミドラに自分の心情、考えを包み隠さず話した。
「わかるわ・・・。こっちもそう。冷たくしても嫌いになってくれないのは番だから。人族なら、拒否し続けてたら愛想をつかすはずだしね。私のする事は尊重してくれるけど、危険な事や自分が嫌な事はダメだと言われたりするわ。ちょっと窮屈ね・・・。勝手に制限しないでほしいわ」
ディミドラはあまり行動を制限されるのが嫌いらしい。
「やっぱり、デラに話して良かった」
同じ番同士、気もあう2人は思考も似ていた。
結局この後もまだまだ話したりず、日が暮れて父が帰るまで話し続けるのだった。
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