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38.番

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「そのハンカチは・・・女性物のようですね」
 リンジェーラは声が震えないように注意しながら、ゾディアス様に問いかけた。


「ああ・・・探している相手の物だ。これで気分がマシになる」
 探している相手・・・。番の事だろう。ゾディアス様は匂いを嗅いでいるようだ。


「そうですか・・・なら、良かったです」
 リンジェーラはゾディアス様に聞きたかった。それはどうしたのか、だが、聞くと怪しまれるのではないかとも思った。


「俺に彼女が存在をしていると、気づかせてくれた物だ」


「どこで、それを?」
 リンジェーラは、まさかと・・・自分の物だったはずの、似たハンカチの出所について聞いてしまう。


「数年前に路地で見つけた。たまたま近くを討伐後に通ってな・・・匂いがして、このハンカチを拾った。見つけた時にあたりを探したのだが、匂いは途切れていた」
 ハンカチには血が付いている。乾いて固くなった血が・・・。


「血ですか・・・?洗わないので?」
 あの時に拭われた血だろう。


「匂いが取れるから洗いはしない・・・。ずっとこの匂いの相手を探しているんだ。手がかりはこれだけだ。怪我をしてこれを使ったんだろう・・・」
 ゾディアス様はそう言い、ハンカチを愛おしそうに見つめた。


 リンジェーラは確信する。あれは自分のハンカチで間違いないのだと。ゾディアス様の番は自分だと。


 いい表せない感覚で身体が震えそうになった。だが・・・リンジェーラは何も言えなかった。
 それは自分のだと、自分がゾディアスの番なのだと・・・。


 自分がゾディアス様の番で嬉しい気持ちもあったが、リンジェーラは同時に、バレてはいけないとも思った。


 探しているゾディアス様には悪いが、この間の件からリンジェーラの思いは複雑だった。
 ゾディアス様も番が現れれば、リンジェーラより番が1番になるだろうと、自分をカモフラージュに使った後は捨てるのだろうという思いがあった。

 番など現れなければ、彼は自分に振り向いてくれるかもしれないとさえ考えるようになっていた。


 だが、その番は自分だったのだ。リンジェーラが名乗らなければゾディアス様にはわからない。このまま名乗らずに、ゾディアス様がリンジェーラを好きになってくれることはないのかと考える。


 番だから好きになられるのではなく、リンジェーラ自身を見てちゃんと好きになってもらいたいと思った。
 番だと話すのは、そうなってからでもいいと・・・。自分が番とわかり、まだ見ぬ番に抱いていた気持ちがなくなった。自分が彼の番だったのだから。

  
 父達には話をしなければならない。だか、団長には話せば、同じ番をもつ獣人として、必ず裏切るであろうから黙っておかなければと思うのだった。
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