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36.気付薬

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 ゾディアス様がリンジェーラから目線を逸らさないため、リンジェーラは嫌な予感がして焦った。


 リンジェーラの予定では、香の効果で目の前の彼女に反応をするはずだと思ったが、見られているのはリンジェーラだ。


 ゾディアス様は、子爵令嬢が離れ、すぐに行動をおこしてきた。

 ゾディアス様がリンジェーラを見る目は、獲物を見るような目だが、その内には欲も見てとれ、リンジェーラは鳥肌が立った。
 ゾディアス様が近づいてくる、少し足早に・・・。
 
 やはりゾディアス様は、惑わされているようで、リンジェーラをいきなり抱えようとしてきた。


「団長!」
 リンジェーラは抱えらる前に、すぐさま団長を呼ぶ。団長は心得ていたようで既に近くに待機していた。


 ゾディアス様は団長を睨みつけたが、行動をおこすのは団長ではない。団長は、今からリンジェーラが行動をおこした後に必要なのだ。


 ゾディアス様は団長を睨みつけたまま、リンジェーラを抱きかかえてきた。とりあえずは状況を確認するために、ゾディアス様に抱えられても抵抗はせずに、自分が落ちないようにゾディアス様の肩に手を添えた。

「ゾディアス様・・・、おろしてもらえませんか?皆んなが見ています」


「だめだ。見せつけてやればいい。君は俺のなのだから・・・。それに今からでもいいと言っただろう」
 ゾディアス様は子爵令嬢が言った言葉を、リンジェーラが言ったと思い込んでいる。・・・目は少し虚だ。


「私は何も言っていませんよ、いつ言いましたか?」


「抱きついてきた時に・・・」
 焦点の合わない目で答えられる。

「それは私ではありません。抱きついたのは、あちらの子爵令嬢です」
 リンジェーラは、子爵令嬢に視線を向ける。彼女はゾディアス様が自分ではなくリンジェーラに向かったため、意味がわからず、唖然と立ち尽くしていた。


「だが、俺はお前が欲しい・・・」
 ゾディアス様は、リンジェーラの目尻、頬に口付けてくる。


「ッ・・・えっと、それはいつからですか」
 見られているため、恥ずかしいが、なんとか耐えて質問する。


「匂い・・・抱きつかれた時の・・・そしたら、欲しくなった」
 ゾディアス様がそういうと、子爵令嬢の顔が青ざめていく。


「そうですか・・・なら私の特製をあげますね」
 リンジェーラはポケットから、気付薬を取り出してゾディアス様に嗅がせた。


 ゾディアス様は、きつかったのか、失神しそうなくらいの反応をして、リンジェーラから手を離した。

「きゃッ」


 リンジェーラは手を離され、落下の浮遊感に悲鳴を上げた。


 だが、そこはすかさず、待機していた団長が受け止めてくれる。団長の役割は、気付薬を嗅いだゾディアス様が、抱えたリンジェーラを落とすであろうと予想したうえでの、ヘルプ要員だ。


 本当は子爵令嬢に欲情したら、同じように質問して、気付薬をおおみまいした際の、ヘルプを予定をしていたのだったが、予定が狂ってしまった。

 とりあえずは子爵令嬢の悪事が暴かれるであろうし、リンジェーラは怪我をしなくてすんだので、いいという事にしておこう。


 団長から降ろされると、顔を大層歪めているゾディアス様が目に入る。気付薬は獣人には辛いだろうが致し方ない。リンジェーラなりの都合がいいと言われたことの仕返しだ・・・。


 獣人にとって、嗅覚を攻撃するのは、少しやり過ぎたかなとは思ったが、リンジェーラも傷ついたのだからと思い、ゾディアス様には悪いが、保身にはしってしまうのだった。
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