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35.策略
しおりを挟むリンジェーラが、彼女達を追って騎士団の演習場に行くと、既に例の彼女は何人かの獣人騎士に囲まれていた。
行為自体は禁止されているが、多少の触れ合いなら問題にはならない。むしろ相手を見つけるためにも、この場は開かれていると言ってもいいのだろう・・・。
彼女が勝ち誇ったような笑みをリンジェーラに向けてくる。しかし、本命の副長ではないのかと、こちらも挑戦的な笑みでお返しして、ゾディアス様がいる方に視線を向けた。
リンジェーラが向けた視線に気づいたのか、珍しく汗をかいているゾディアス様が近づいて来た。
なんだか、近づいてくる歩き方さえも色っぽく見えて・・・苛ついた。見学に来ている令嬢達が見ていると思うからか・・・もやもやする。
「珍しいな、こんな所にくるとは・・・最近会えなかったというか、みなかったが大丈夫だったか?」
避けていたリンジェーラとしては、ちょっと気不味い・・・。
「ええ、大丈夫です。例の問題を引き起こした令嬢を連れて来てるので、お任せします・・・来ましたよ」
リンジェーラはゾディアス様に子爵令嬢が近づいて来たので少し距離をとった。
「ゾディアス様ッ、大丈夫ですか。彼女の匂いを嗅いでは気分が悪くなりますよ。良かったら、私の匂いを嗅いでくださいませ」
彼女はゾディアス様と、リンジェーラの間に入り、ゾディアス様に身を寄せるようにくっ付いた。
騎士団の面々は視線だけ向けて静観している。その中にはこの間の獣人騎士達もいた・・・勿論ジェイクも。
団長もいるが、面白そうにこちらも静観の姿勢だ。
「すまないが、俺には彼女の匂いはそう苦ではない。それに俺は複数を相手にしない主義だ。悪いが離れてもらえるか」
実に紳士的な対応だ。だが、彼女は引き下がらない。
「でしたら、私の匂いを嗅いでからもう一度言って下さい」
彼女はそう言い、ゾディアス様の首元に抱きついた。大方髪飾りにでも香を仕込んでいるのだろう・・・。抱き付けば近くに寄るため効果は早まるし、確実だ。
彼女の動きは、慣れているようだと思った。
「どうですかぁ?私の匂い、よく嗅いで下さい。気に入ったのなら私が彼女の代わりにお相手しますわ。勿論、今からでもです」
彼女は甘える様な声で、ゾディアス様の耳元に囁いた。
ゾディアス様は今日はさすがに、薬は飲んでいないだろうから効果がでるだろう・・・。リンジェーラは仕返しのつもりで、何もせず見ているだけという選択肢を選んだ。
勿論危険そうなら気付薬があるため、止めることは可能だ。
一応大丈夫かなと、抱きつかれている肩越しにゾディアス様の表情を伺った。
「今からか・・・」
ゾディアス様の低い声に、甘さが入っている気がする。彼女はまだゾディアス様の首元から離れない。
ゾディアス様の様子を伺っていたら、ゾディアス様と目が合う。瞳に熱が籠ったような揺めきを感じた。
彼女がゾディアス様からはなれ、目を合わせようとしている。
だが、ゾディアス様は彼女を見ていない・・・。
見ようとしない・・・。
見ているのは、見られているのは・・・リンジェーラだった。
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