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33.我慢の限界
しおりを挟むあれから、リンジェーラは自分の気持ちを自覚してしまってからは、ゾディアス様に会わない様にしていた。会えば酷い事を言ってしまいそうだったから・・・。
彼は自分のために良いと思って、起こしてくれた行動だと思っていたが・・・まったくと言っていいほど、そんな事はなかった。少しはいい関係を築けていたと思っていた自分が馬鹿みたいだ。
彼は自分に都合がいいというだけで、リンジェーラを利用したのだ。本当は彼がそんな人ではないとわかってはいるが、今は心情的に言い方は悪いがそう思ってしまう・・・。
初めからそうするために、リンジェーラに近づいて来たわけではないのだろうが、自分に対してその気だと思わせるような口付けもしておきながら、まだしたいと言いながら、結局は・・・彼も番が現れれば、リンジェーラの事などどうでもいいのだと気づいた。
こんな事なら、彼を好きにならなかったかもしれないのに、今はただ微妙な立場が惨めなだけだった。
広がった噂に、リンジェーラを羨ましがる女性達がいる。しかしその事でもリンジェーラは不快になる目線を向けられたり、彼女達の相手をしなくてはいけないので、日々苛立ちが募った。
男性からの誘いは、ほぼないし、逆に噂に惑わされた人達、特にリンジェーラに思いを告げてきた人の中には、自分達が告白してきたのを内心嘲笑って、楽しんでいたんだろうと、嫌味を言われた。
リンジェーラは、襲われる危険よりも、周りからの不快な態度で傷つきつつあった。だが、そろそろ良い子をやめてもいいかと思うようにもなっていた・・・。
気持ちがやさぐれだす原因は、日々の令嬢達からの呼び出しもあった。呼び出すのは、高位令嬢ではなくリンジェーラの爵位よりも低い令嬢だ。
市井育ちのために、皆現在のリンジェーラの伯爵令嬢という肩書を忘れるのか、軽視していた。
父や兄に現状を話したとしても、迷惑がかかると思っていたし呼び出されるだけなら黙って聞いていれば、彼女達は満足して去っていた。
だが、リンジェーラにも我慢の限界というか、言われたくないこともある。今日の呼び出しも、自分よりも低位の貴族令嬢に呼びとめられた。
「まったく貴族の産まれとしても、市井の生活が貴方を駄目にしてしまったのは明白ですわね。男性に媚びていきていかなくてはならない術を身につけているんですもの」
「本当に、市井で生活していた者が貴族社会にいるだなんて不快ですわ。市井なら許されるでしょう男漁りも、ここでは見苦しいだけですのに」
彼女達はクスクスと笑いながら話す。
「まさか市井での経験を活かして、男性をたらし込んでいただなんて、卑しい生まれの方には負けますわ。上位種の獣人までたらしこめるなんて、本当に才能ですわね」
「毎日美しい物ばかり見ていたから、飽きられたのかもしれませんわ。だからこそ彼女を珍味として味見してしまったのでしょう」
彼女達は、リンジェーラがゾディアス様と男女の仲だと噂の通り思っているため、汚らわしいものを見る目つきだ。
「一度食べてしまわれたら、毒に侵されたのに気づかずに関係を続けていらっしゃるのよ。お可哀想なゾディアス様」
彼の名前を呼ばないでほしい。・・・不愉快だ。
「本当にね・・・。毒は解毒してさしあげませんといけないのだけれど・・・猛毒ですからね。自分の毒で自滅でもしないかぎり、難しそうですわね」
ようはリンジェーラに自滅しろと、自ら身を引けと言っている。彼女達の方が毒花だろうに・・・。
「毒に侵され続けるなんて、お助けしてあげたいわ」
やれるもんなら、やってみろ・・・。リンジェーラは心の中で悪態をつく。段々と心が荒んでいくのがわかった。
「毒を好むのは毒を持つ者同士かと思いましたが、狂わされていては抗えませんものね。毒をもって生まれたということは、血筋だったのかもしれませんわね。お相手は惑わされて結局一緒に庶民に落ちたのでしょう?」
「確かに。お姿は毒を隠す様に可憐みたいですが、お母上に似たようですし、そういう血筋なのでしょうね。これでは親と同じになってしまいますわ。ゾディアス様はご存知なのかしら」
彼女らは、亡くなった母までを悪くいいだした。彼女らは、ついにリンジェーラが我慢できない事を言うので、もう黙っているのはやめる事にした。
「いいかげんになさいませ・・・」
リンジェーラは我慢をやめ、反撃にでた。
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