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27.思惑
しおりを挟む彼らが立ち去り、ゾディアス様は抱えていたリンジェーラを、ゆっくりと下ろしてくれた。
「すまなかった・・・あのような展開になってしまって」
ゾディアス様は、申し訳なさそうに、だが照れ臭くさそうに頬をかかれながら謝られる。
あれだけ自信たっぷりに、恋人のふりをしていたのにと、リンジェーラはゾディアス様を可愛らしく感じて、自然と笑みを浮かべていた。
「いえ、こちらこそ。助けに来てもらって助かりました」
ゾディアス様が来てくれなかったら、酷い目にあっていたと考えると、震えがきそうだ。だが、ゾディアス様と交わした口付けの方が印象的で、今回は恐怖より羞恥が勝っていた。
「・・・あんな助け方で・・・その、すまない」
ゾディアス様は、歯切れ悪くまた謝られる。きっと口付けをする流れになったのを気にしているのだろう。
リンジェーラはそう考えたが、ふと別の考えも浮かんだ・・・。本当はゾディアス様は口付けを、したくなかったかもしれないということを・・・。
「謝らないでください、その・・・とてもお上手でしたし・・・。それより、私に口付けなんてさせてしまって・・・申し訳ありません」
リンジェーラはゾディアス様にさせてしまった事を、今更ながら
後悔した。
「・・・何を言っている。君との口付けなら・・・またしてもいいくらいだ。なんなら、もう一度してみるか。・・・今度は誰も見ていない」
ゾディアス様は、悪戯な笑みを浮かべながらも、熱がこもりだした瞳でリンジェーラをみてきた。急に色気が増したゾディアス様に側によられて、固まってしまう。
再度甘い雰囲気をだしてきたゾディアス様は、リンジェーラの腰を引き寄せて、顔をちかづけてきた。だが、リンジェーラの返事を待ってくれているため唇が触れる事はない・・・。
「いいか?」
ゾディアス様の甘い視線に、嫌なんて言えそうにない。けれどなんとか声を振り絞り、横を向いて視線を逸らした。
「そういえば、本当に匂いは大丈夫だったんですか?この前は洗えばいいと言ってましたが・・・今回は・・・」
リンジェーラは話題を変えようと、気にはなっていた事を聞いた。
「ああ・・・実は、鼻が効かなくなる薬を嗅いでいてな。任務で行かざるを得ない所に、嗅覚が問題でいけないでは困るから、今まで実験体にされていたんだ、君の父にな」
ゾディアス様は、リンジェーラの腰を抱いたまま答える。
「ゾディアス様が実験体ですか・・・。副長がわざわざそんな事をしなくても良いのでは・・・?」
リンジェーラは会話をしながらも、腰を抱いている副長の手から逃げ出す。
「上位種に効かないでは困るからな・・・。団長を実験体にする訳にもいかないが、団長は1番に逃げた。番の匂いがわからなくなったら困ると言ってな」
ゾディアス様は、リンジェーラが側から離れた事で、熱が冷めたのかいつもと同じ態度に戻った。
「ん?秘密では?」
「ああ、秘密だ。だが、あの場には君の父と団長しか居なかったから問題はない・・・。一応言動には気をつけた方がいいとは言ってはいるんだが・・・団長には無理だろう。バレるのは時間の問題だ」
父が関わっていたのか・・・リンジェーラには気を遣って薬の事は話さなかったのだろう。
「だが、これで・・・夜会への参加は一緒にするようになるな」
「はい?どうして私も?」
ゾディアス様は何故か夜会に一緒にというが・・・。
「君との事は噂になるだろう・・・だが、噂になる以上夜会などにパートナーとして参加しなければ、私が手を出したと宣言したのは君だけだからな・・・さらに変な噂が流れるだろう、君の縁談も遠のく。すまない」
「・・・まあ、まだその気もないですし、私が伯爵家を継がないといけないわけではないので、問題はないですよ。ただ・・・噂は・・・ちょっと面倒にはなりそうですけど」
特に女性達をどうやりすごすかを・・・リンジェーラは思惑するのだった。
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