上 下
24 / 113

23.魔笛

しおりを挟む
 

 師団長室から退室して、気分は最悪のまま、自宅に帰るために中庭を通った。普段なら通らないが、近道と思い通ってしまったのがいけなかった・・・。


 中庭の道からは見えにくいガゼボで、複数の獣人騎士が数人集まっていて、1人の女性とお取り込み中の真っ最中を見てしまった。


 リンジェーラはこんな中庭でとは思いもよらず、足早に見なかった事にして通りすぎようとした。
 しかし、いつも何かと絡んでくる、獣人のジェイクがそのメンバーにいたようでリンジェーラの手を掴んで引き留めた。


「おいおい、何処いくんだよ。こんなとこ通って、交ざりたくて来たんだろ?」
 彼はニヤニヤして、いつものようにまとわりついてくる。


「そんなわけないでしょ、急いで帰ろうしてるだけだから、手を離してッ」
 リンジェーラはこの場から離れたくて堪らなかった。彼に手を掴まれているため動けず、むしろどんどんガゼボに引きづられていってしまう。いつもより強引だ。


 2人の男女が交じり合っていて、周りはそれを見ていた。相性を確かめ合っているのだろうが・・・なんだか不快な匂いがした。昼間からこんなところでやめてほしいと思う。
 リンジェーラはその行為をみたく無かった。


「ほら、お前との相性も確かめてやるよ。今は伯爵令嬢だが、市井育ちなんだし経験くらいあるんだろ?あそこじゃ、皆んな獣人の番になりたくて、寄ってくるくらいだしな」
 いつにもまして、彼は卑猥で強引で、乱暴だった。彼らの行為を見て気が高ぶっているのだろう。


 いつものように、撃退スプレーをお見舞いしてやろうとしたのだが、彼はリンジェーラが行動するより早く、リンジェーラの両手を片手で後ろに拘束した。


「おっと。また、あれをする気だったろ。でも残念だったな・・・二度は食らわない。この間のお礼に、多少の嫌な匂いは我慢して、ちょっとだけ味見してやるよ」


「頼んでないッ、やめてッ」
 リンジェーラは、拘束されたままブラウスの前を肌けさせられた。
 リンジェーラの白肌に下着に支えられた膨よかな胸が、晒される。


「やっぱいい身体・・・ん?なんだ・・・犬笛?」
 彼が、リンジェーラの胸元にあった魔笛を摘んだ。ゾディアス様に借りて返すのを忘れていたため、出会ったら返そうと身につけていたのだ。


 リンジェーラはチャンスだと思い、素早く行動した。彼が指で摘んでいる魔笛を咥えて、勢いよく息を吹きこんだ。
 これをくれたゾディアス様に、助けを求めるために・・・。


 目の前の彼は犬獣人だから、彼にも音は聞こえたのだろう。顔を歪めて魔笛をリンジェーラの口から素早く外し、周りを見渡した。
 だが、誰もくる気配がなかったため、拘束していた手は解かずに行為を続けようとする。

 だが、彼がリンジェーラに近づこうとした時、彼は横から伸びてきた大きな手で、顔面を鷲掴みにされるのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

絵に描いたような転落令嬢は初恋を実らせる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:18

犬猿の仲の片想い相手は、溺愛気質の絶倫でした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:92

少年怪盗は選択の余地無く命令に従わされる

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:17

異世界で恋をしたのは不器用な騎士でした

BL / 完結 24h.ポイント:823pt お気に入り:78

処理中です...