上 下
18 / 114

17.パーティー 後編 下

しおりを挟む




 リンジェーラは抵抗しながらも、やはり男の力には敵わず、段々と会場から見えない茂みに連れて行かれそうだった。 

 こんな時に思い出すのは、獣人なのに優しく対応してくれる彼だ。こんな事なら、彼のそばにいれば良かったと思った。
「・・・ゾディアスッ様」


   リンジェーラが、副長の名を呟いた時、リンジェーラに触れていた目の前の彼が離れ・・・吹き飛んだ。リンジェーラは背後から抱きしめられ、身体に回された腕に安堵を覚えた。


「すまない、待たせた」
 背後からゾディアス様が優しく声をかける。


 どうやら、ゾディアス様は彼が離れた一瞬を狙い蹴り飛ばした様だった。もうすでに、目の前の彼は気絶している。防御もしていない人族が獣人の攻撃に耐えるのは無理だろう。


「震えているな・・・」
 ゾディアス様が来た事で、安堵し震えが出てしまった。


「大丈夫です・・・ッ。安心して気が抜けただけなので」
 リンジェーラは自分の身体を抱きしめ、震えを止めようとした。


「無理をするな・・・部屋まで送る。なんなら、部屋の前で見張りでもしてやる」
 ゾディアス様はリンジェーラのために提案してくれる。



「はい・・・その前に」
 リンジェーラは、ゾディアス様に支えられながら、気絶した彼の元へ行き小さなスティクタイプの魔法具を額に当てた。

「何を・・・?」


「忘却のための魔道具です・・・。師団長から頂いてまして、もし襲われて反撃しても、忘れさせて問題にならなくするためにと・・・」
 師団長はリンジェーラのために、忘却の術式を施した魔道具を持たせてくれていた。彼らだけでは心配だと言って、元々作ってくれている最中だったのを急いでくれた。


「物騒な物をもらったな・・・」


「これで、何故彼がここで怪我をして気絶しているのか、思い出す事はないでしょう・・・。副長が怪我を追わせては、問題になるかもしれませんから。本当なら、私が仕返ししたかったのですが・・・これ以上ない成敗でしょうから、やめておきます」
 リンジェーラは、さすがに一発で気絶させられる威力の蹴りをもらった彼に、ほんの少し同情してしまった。


「すまないな・・・面倒をかける」
 ゾディアス様も、彼を見てやり過ぎてしまったと、思ったのだろう。だが、彼は助けるためにしてくれたので、悪くない。


「いいえ・・・私の為にしてくれたのですから、隠蔽くらい問題ありません」


「隠蔽か・・・ならば、共犯だな」
 ゾディアス様はフッと笑われる。


「誰か来るといけませんから、もう行きましょう」
 そう言ったが、1人では立てず、支えてもらいながら部屋まで連れて来てもらった。
 その間ずっと周囲には悟られない様に、仲睦まじく寄り添うふりをしたのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...