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9.兄
しおりを挟むあれから父に話が伝わったようで、あの日の獣人達を調べてくれている。あの獣人達は一応連行され、取り調べを受けているはずだから、記録があると思う。
騎士団長に秘密を話すことになった経緯も説明し、師団長の判断もあることから、勝手に話すことに決めたお説教はなかった。
だが、家に帰ってから、兄に怪我をしない様に注意を受け、毎日防衛魔法をかけられる事になった。それと、必ず宮廷内は付き添いを誰かつける様にと・・・。
兄は、とても心配性だ・・・。私にとって、あの日は最悪な出来事ではあったが、その日からの出来事はいいことだらけだった。
その1番は、新しい父ができ、兄ができた事だ・・・。兄はとても優しく、よくしてくれたので大好きな存在になった。頼れる人がいなくなった私にとって、もう無償で愛を与えてくれる者はいないと思っていたから・・・。
兄はよく話も聞いてくれるし、私の望みはなるべく叶えてくれようとする。父も甘い方だったが、父が反対する時、兄は大抵私の気持ちを優先し、父に譲歩させるための提案をしてくれるのだ。
今日も父は仕事に出かけたが、私は当分外出禁止だった。月のものがきてしまったからだと言う理由もある。
月のものがある期間は、獣人が絶対に寄り付かないリンジェーラのために作られた調合小屋に寝泊まりする。自分としても数日の辛抱ではあるし、やる事は沢山あるため退屈はしてはいない。
ハーブやユーカリ、柑橘系の樹々に囲まれているこの場所は安心できた。時間がある時は兄も様子を見に来てくれるし、食事の時間には兄が迎えに来て、また送ってくれる。屋敷の中なのに外出している気分になるくらいだった。
昼食を小屋で軽く食べ終えて、庭で植物の世話をしていると、兄がやってきた。何やら不機嫌そうだ。
「リンジー、手紙だ」
「ありがとうございます」
貰った手紙は手紙は2通あった。送り主は・・・ゾディアス様と、騎士団長だった。
「リンジーは獣人にもモテモテだな・・・それも上位種の2人か」
お兄様が、まだ不機嫌な感じで言われる。
「モテているわけではありませんよ。これもそんな手紙ではありませんよ」
団長の秘密は契約のため話せないので、説明には困るが、これはラブレターではない事を伝える。
「いいや、人族にだって毎回手紙を貰っていると聞いたぞ。リンジーは可愛いからモテるんだ・・・。手紙だって毎回相手になんかしなくていい・・・。まだ結婚は早いんだからなッ」
「結婚は・・・まだ当分しませんよ。相手だって、お兄様達よりも大切にしてくれて、守ってくれる人でなければ私には無理ですから・・・だからそんな人が現れるまではまだ、先の話です」
兄は私がすぐに嫁いで行ってしまうのが、寂しいと思ってくれているのだろう。
「そんな私のことより、お兄様こそ早く相手を見つけたらどうですか?私に構ってくれるのは嬉しいですが・・・相手いないんですか?」
「私の事はいい・・・今はお前が大事だからな」
お兄様は腕組みをして、言われる。
「そうはいきませんよ。お兄様はこの家を継ぐのですから、しっかり伴侶をみつけませんと・・・お兄様こそモテてるの知っているんですよ?」
兄だって、次期伯爵だし、見た目は金髪、アメジストの瞳が綺麗なイケメンだ。すらりとした長身だし、優しいし、令嬢達に人気があるのを知っている。
獣人達の相手を望む者は多いが、子が成しにくいし、競争率は高かった。身持ちが固く、貞操概念が高い高位貴族の令嬢ならば、きちんとした人族と婚姻を望んでいるので、兄は相手として優良だと言える。
リンジェーラは兄はその気になれば、相手は見つかりそうなのに、自分のせいで婚期が遅れる可能性に申し訳なく思いながら、兄の相手に相応しそうな令嬢がいたら、引き合わせようと考えるのだった。
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