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4.騎士団副長
しおりを挟む「お前も、いいかげん学べ」
ゾディアス様は、リンジェーラにも注意してきた。しかし、先程の表情とは違い、目も声色も優しい。
「学ばないのは彼の方です。見るたび目の敵の様に絡んできて・・・迷惑しているのは此方です。ちゃんと躾けてください」
ゾディアス様が獣人だと意識してしまっているからか、彼が侯爵家だというのに、口調がきつくなってしまった。
しかし、ゾディアス様は気にする風もなく、大きな手でリンジェーラの頭を優しく撫でてきた。
獣人で唯一頭に触れてくるのは彼だけだ。髪にも香油を使っているから、匂うとは思うのだが、臭くないのだろうか、不思議だ・・・。
「毎回頭を撫でるのは止めて下さい・・・誰かに見られたら目の敵にされます」
獣人に近寄らないリンジェーラのはずが、副長にアプローチされていると勘違いされてしまう・・・。
彼になら、撫でられても、家族に撫でられる感じと似ているからだろうか、悪い気はしない。彼は決してリンジェーラをぞんざいには扱わないし、危害を加えてきたことはない。
「・・・誰にだ?」
ゾディアス様は、理解していないのか、聞いてくる。
「貴方のまわりの女性陣に決まってるでしょう・・・」
ゾディアス様の女性関係の話は、あまり聞かないのだが、上位種の獣人でもあるため、人気が高く注目されていた。
もちろん、上位種と言うだけではなく、灰色の綺麗な長髪に、トパーズの様な輝く瞳・・・広い肩幅に、引き締まった身体付きもいいためなのもある。
屈強な男に惹かれる女性は多いようだ。よく騎士団の演習場には女性達が見に来ている。
「それに・・・、臭い匂いがつきますよ・・・」
「・・・気にしているのか」
ゾディアス様はおかしな事を言う。この匂いは元からの匂いではないし、自分で選んで付けているというのに・・・。
「そんな訳ないじゃないですか・・・。私は好きでつけているのです。そうではなくて・・・獣人達が嫌いな匂いが、ゾディアス様についてしまうって意味で言っているんです。平気なんですか?」
臭いものをよく触れるなという意味で言ったのだ。ゾディアス様は理解しているのだろうか・・・それに、本当に平気なんだろうか。
「問題ない・・・嫌いな匂いだが、手ぐらいなら洗えば匂いは消える」
ゾディアス様は、失礼な事をしれっと言った。
「そうですか・・・」
獣人と人の感覚はやはり違うのだと痛感する。
「では、次からは、石鹸で洗っても取れない匂いを研究しておきますね」
二度と触られるものかと、お返しとばかりに笑顔で返事をかえしてやる。
「・・・そうか、なら、それができたら、触る前に言ってくれ」
ゾディアス様は、一瞬静止し、視線を背けると、そのまま背を向けて行ってしまった。
広い背中が遠ざかるのを見て、なんとも言えない気持ちになるのなった。
リンジェーラは、ゾディアス様に対してなら、もう少し可愛い返事をしてあげても、よかったかなと後ろ姿を見続けた・・・。
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