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3.絡んでくる獣人

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 調合室に向かっていると、後少しという所で、何かと絡んできては悪態をついてくる獣人と出会ってしまった。
 彼は私を見つけると、目の色を変えて何か言ってやろうというように、足早にやってくる。


「毎日毎日ご苦労さんだな・・・令嬢のお前がわざわざ持ってこなくてもいいだろうに。そんなにパパに構って貰いたいのか?」
 彼はだいだいこんな感じで絡んでくる。騎士団所属の若手で赤毛の犬獣人だ。見た目は活発そうな感じで、女性との距離も近く人懐っこいらしいから人気があるらしいのだが・・・。
 リンジェーラにとっては、ただのいじめっ子タイプの獣人だ。確か名前は、ジェイクだ。


「聞いてんのか?臭い匂いの元凶がいるだけで迷惑だっつってんだ。気分が悪くなるから、消臭剤でも作って振りかけとけ」
 そして、口が悪い・・・。騎士団としてのイメージが台無しだ。


「なら、近づいてこないで下さい。薬師ですからハーブが香るのは当たり前です。貴方の大好きな匂いのする、女性のお尻でもおいかけてたらどうですか・・・毎回話しかけてこないで下さい」
 リンジェーラはもともと、売られた喧嘩は買うタチなので、毎回ちゃんと返事をしてあげる。
 無視をすれば良いのはわかっているのだが、性格的に無理だった。


「匂いさえ最悪じゃなけりゃ、見た目は悪くないから相手してやるのにな」
 彼はそう言い、リンジェーラのお尻を撫でた。彼はいつもマーキングの様に、リンジェーラのお尻を撫でるのだ。
 彼の行動はほぼ毎回同じため、リンジェーラは仕返しとして、柑橘のスプレーを彼の手に吹きかけてやった。


「げッ、何吹きかけやがったッ、くっさ。なんてことしやがる!なんでそんなもんもってんだッ」
 彼は盛大に飛びのいて、手の匂いに悶え、鼻を摘んだ。


「痴漢撃退用のスプレーです。貴方の言うように・・・母に似まして見目が良いので、護身用に持ち歩いてるんです。本当は顔にかけて鼻を潰す用なのですが、まだ仕事があるでしょうから、温情で悪い事をした手にお仕置きしました」
 これでも、優しいお仕置きに感謝してほしいくらいだ。

 あの事件から、5年以上がたって、マシにはなっているが、リンジェーラは獣人感を出されると、逃げたくてたまらなかった。


「ジェイク。五月蝿いぞ・・・何を騒いでいる」
 彼が未だ文句を言っていると、彼の背後から低い声で諌める様に注意がされた。
 
 
「副長ッ」

 長い灰色の髪を緩く一つにまとめ、サイドに分かれた前髪から除くトパーズの鋭い眼光が、不機嫌そうに細められている。

 現れたのは、彼の上官である、この国の騎士団副長ゾディアス様だった。かれは白狼獣人の一族だが、白狼の上位種で灰狼の獣人だった。
 目の前の彼とは比べ物にならない身体付きで、いかにも強そうなのがわかる。だが、彼が強いだけではないことを、リンジェーラは知っていた。


「またサボっているのか・・・いいかげん、この女の尻を追いかけるのはやめろ」
 口は悪いが、リンジェーラを庇ってくれているように感じる。


「誰がこんな悪臭の原因なんかッ、追いかけてません」
 彼は副長につっかかる。

 しかし、睨みつけられて、力の差が分かりきっているため逆らわずに、リンジェーラに視線を向けて、舌打ちだけして去っていくのだった。



 
 


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