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43.甘い香り
しおりを挟むキール様と手を繋がされて、シルフィは香りを頼りに先導する。
少し森に入った所で、小さめの花畑を見つけた。
「ありました!キール様、ちいさいけど綺麗な花畑!」
シルフィは初めて自分でみつけた花畑に、キールの手を離して近づき花を眺めようとしゃがんだ。
「だめだッ」
キール様は急に離してしまったからか、慌てたように近づいてくる。離れてしまったシルフィの手を掴んで引き寄せられる時、花の方から何かが吹きかけられた。
「吸うなッ」
キール様が叫んで、シルフィの口元を覆ったが、手を引かれて驚いた時に息を大きく吸い込んでしまっていた。
シルフィはいきなり、痺れが全身を巡り、ゾクリとした。キール様に引き寄せられ、花畑から距離をおいたかと思うと、いきなり剣を抜いて花畑の方に向かって雷電魔法を放った。雷の柱が天から落ちて火がついた。
シルフィは、キール様にかかえられながら、何が起こったのか、何故自分が痺れているのかもわからず、ただ身を預けるしか出来なかった。
キール様が初めてシルフィの前で攻撃魔法を使用したため、その衝撃もあり、身体が痺れながらも震えた。
「すまない・・・驚かせた。せっかくシルフィが見つけた花畑だが・・・あれは、魔物だ」
「魔、物?」
「魔法攻撃しか効かない・・・。特性がやっかいなやつで、今痺れているのも、そのせいだ。アレは女性にしかわからない匂いで引きつけ、先程のように花粉を浴びせる。アレには女性を惑わして、苗床にする男を集めさせるやつらだ。俺がもっと早く気づくべきだった・・・。すまない」
キール様は、不甲斐ないと辛そうな表情をされる。
「だから・・・身体が今から辛くなる。馬では戻るのは難しいだろう・・・父に連絡をするがいいだろうか。見られないように配慮はするから、転移魔法で帰ろう」
つまり・・・今身体が火照るような、身体がうずく感じは、媚薬を飲んだようなものなんだなと理解した。
「キール、様に、お任せ、します」
シルフィが了承した所で、氷の青い鳥が飛んで来た。手紙が付いており、先程の雷柱はなんだと書いてあるのを見せてもらう。至急来て欲しい緊急の返事を書いた。
数分して、シリウス様が転移魔法で現れる。あたりを見渡し、雷柱で焼けた所をみている。
「何があった・・・こんな所で、高威力の魔法を放つとは・・・」
シリウス様があたりを見渡した後、振りかえり、キール様に抱かれていたシルフィを見た。
「魔物でもでて、怪我をしたか?」
「以前話だけ聞いていた、花の魔物が群生していました。規模はまだ小さかったのですが・・・シルフィが香を浴びてしまい呼びたてました」
「何ッ、アレが・・・、お前は知っていたのに防ぎきれなかったのか」
シリウス様は厳しい目で、キール様を見てくる。
「・・・はい」
「随分と気が緩んでいるな・・・そんなに緩いと大切な者は守れないぞ。そんな事では、守らないといけない者はもつべきではない」
「・・・はい」
キール様は、言い訳をするでもなく、受け入れている。
「申し訳、ありません。私が、悪い、のです。キール、様は、直ぐに、気づいて、手を引いて、くれ、ました」
シルフィは、呂律が回りにくくなってはいるが、精一杯にキールを庇う。
「辛いだろう・・・話さなくていい。キールには厳しいことをいうが事実だ。事実を指摘するのは父として、私の役目でもある。君が気にする必要はない」
シリウス様は気遣ってくれたが、キール様に対して優しい言葉はかけられなかった。シルフィは自分の所為でキール様が責められるのが悔しかった。
「キール、様。ごめんなさい。私の、所為で」
シルフィは悔しくて涙が溢れた。自分はキール様の評価を下げてしまう。自分ではやはり、キール様の隣は相応しくなかったのではないかと・・・。
「・・・父上、話は後でも宜しいでしょうか。俺の部屋まで転移をお願いしたい」
キールは涙を流すシルフィを抱えた。
「そうだな・・・。ここの後始末は魔導師団から派遣しておく。帰ったらお前が婚約者として責任もって解毒してやれ・・・」
シリウス様がキール様にそういうのが聞こえ、シルフィはキールに身体を預けるのだった。
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