上 下
42 / 72

41.遠乗り

しおりを挟む


 婚約式が無事に終わり、キール様から連れて行きたいところがあるからと、遠乗りのお誘いがあった。


 キール様は馬に跨がられ、手を差し伸べてくる。手を引いて引き上げられ、横抱きで座らされた。
 キール様の力は強くて、軽々と引き上げられる。馬に乗ったことはないため、この乗り方にはさすがに驚いて、声がでてしまった。


 馬に乗ってはじめての感想は、思ったより高くて怖いと感じた。見るのとでは違い馬は大きく、がっしりしていて驚いた。
 キール様の愛馬は黒い毛並みでとても艶があり、凛々しく大人しいようだった。シルフィが怖くないようにじっとしてくれているようだった。

 
 この場でもお姉様達は、先にシルフィを抱えて乗せた方が怖がらせなかったのではないか、絶対に怪我をさせないように注意するようにキール様に言っていた。


「きちんと無事に送り届け下さいね。婚約したからと手荒にされては困りますからね」
 リズリーお姉様は女性の扱い方については厳しい。


「もちろん、承知しています。遅くならないうちに、かならず送り届けます」


「怪我にも気をてけてくださいね。馬から落とすなんて事もないようにお願いしますわ」


「はい。決して離しませんので」
 キール様は姉の小言にちゃんと対応してくれる。

「それから」


「お姉様!もう十分です。キール様は私を大事に扱ってくれますから、そんなに心配されないでください。キール様は信頼できる方なんですから、お任せして大丈夫です」

「でも・・・一応言っておかないと・・・」
 姉はしゅんとしてしまった。


「姉上達は、シルフィが大切で仕方ないようだ。心配するのもわかるから、私を庇ってくれて嬉しいが大丈夫だ。ありがとう」
 キール様はシルフィの姉を気遣い言ってくれる。


「キール様は優しんですから・・・」
 姉の事を気遣い、シルフィの気遣いにも嬉しいと言ってくるキール様の優しさに胸がときめいた。

「・・・そんなとこも、好き」
 シルフィは誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。


「では、遅くならないうちに行きます」
 キール様は、シルフィに捕まるように言い、出発した。




 丘の辺りにくると、少しペースをおとされる。
「耐えられそうか?そこまで遠くは無いのでゆっくり行こう」

「はい。大丈夫そうです。クッションまで準備して貰ってますからキール様に捕まってれば安心です」
 今日は軽装で来ていたため

「それはよかった。シェリーが気を遣ってくれたんだ。自分が乗った時は痛かったそうだからな・・・殿下に連れまわされたらしい」
 あの殿下なら、女性に配慮する発想が足りないのも納得する。


「それと・・・先程の返事だが・・・」

「返事?」
 シルフィは、何か質問をしただろうかと、首をかしげキール様を見上げた。

「・・・俺も、好きだ」
 キール様がシルフィの耳元で囁いた。


「きっ、聞こえて・・・」
 先程シルフィが小さく呟いたのを、キールの耳はひろっていたようだ。

「もちろんだ・・・」
 キール様は馬の歩みを止め、俯いたシルフィの顔をあげさせて口付けて来た。

「んッ」
 キール様からのいきなりの行為に戸惑いながらも、婚約者になったのだから、拒む理由もなく受け入れる。

 口付けを受けながら、キール様への好きな気持ちが高まるのを感じた。馬上だという事も忘れて長らく口付けを交わすのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

処理中です...