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29.注目の的
しおりを挟むシルフィはきちんと認識阻害の指輪を外して会場に戻った。
会場へ戻ると、皇太子殿下とシェリー様が注目を浴びている様だった。恐らく今まで、皇太子殿下がした事がない密着する様なエスコートをしているからだろう・・・。
いかにも所有権を主張するように、くっつき過ぎだ・・・。シルフィ達の前から去っていった時と同様に、まだ腰に手を回して引き寄せている。
シェリー様の顔は引き攣っている様に見えた。何気に殿下の手を抓っている。
「まったく、あいつは・・・これでは噂になるじゃないか。ここに父上達がいないからと・・・」
キール様は呆れ顔だ。
「なりますね・・・これは、疎い私でも察する事ができますわ」
2人の距離感を見て、シルフィは先程のことを思い出してしまいそうになるのだった。
だが、まだ自分の方の問題は片付いていない。2人の元に、シルフィの幼馴染カイルが足早に近づいて来た。
「随分探したぞ・・・なんだ、また一緒にいるのか・・・、相手はまさかその公爵令息だというんじゃないだろうな」
カイルはシルフィを睨みつけてきたため、身体が強張る。その視線を遮るようにキール様はシルフィより前に出てくれた。
「幼馴染でも、女性にそのような視線を向けるなんて、紳士としてどうかと思うが・・・。それに今日のパートナーは私だ、彼女との会話は許可していないし、まともな挨拶すらしていない君は、紳士以前に貴族としての礼儀作法もしらないとみえる。醜態を晒す前に隣国で帰って学び直した方がいい」
キール様は、随分と厳しめにカイルに指摘し、威圧するように睨みつけている。
背が高い彼は普段からシルフィに対しては物腰柔らかくにしてくれるため、そんなイメージではなかったが、今の様子からはカイルに対しての威圧しか感じない。
「お言葉ではありますが、これは私と彼女の問題です。まだ彼女とはまともに話もできていないので、その時間がほしい」
カイルはまだ話をというが、シルフィからしたら、とんでもない話だ。また侮辱され、蔑んだい言い方で丸め込もうとしているのだろうと分かる。
シルフィはキールの横に立ちカイルを見据えた。
「私には話し合う気はありません。話しなら以前致しましたが、話し合いにもならなかった・・・。話し合いとはお互いに公平な立場で、お互いの話を聞き尊重できるのが前提です。あなたは、それができなかった。私を自分より・・・姉達より劣る存在だと意識付け、下に見た。いつも自分の意見ばかりで人の話は聞こうとしない。そんな人との話し合いは時間の無駄です。貴方には私の意見を尊重することもしてくれないのですから・・・私に貴方は必要ない」
シルフィはカイルに言い切る。
カイルはまだ、シルフィを睨みつけていた。
「話しも出来ないなんておかしいだろ・・・。昔みたいに・・・お前は俺についてくればいいんだよ。黙って、俺の妻になってれば・・・」
「・・・妻?」
シルフィはカイルが何を言っているのか、困惑した。
「なぜ、私が貴方の妻にならなくてはいけないのですか・・・」
「は?昔から言ってただろう・・・お前を貰ってやれるのは俺くらいだって」
「だからと言って、私にも選ぶ権利はあります・・・。貴方に好きだなんて言われた事だってありません。私は自分を愛してくれる人に嫁ぎたい。それが無理なら私は優しい頼りになれる人を選びます」
シルフィはちらりとキールに視線を向けた。
「そうだな、シルフィ嬢を傷つけるだけの存在は、相応しくない。彼女は、愛されるべき人だ」
カイルはシルフィの言葉から、今まで自分の思いは、微塵も伝わってもいなかったことがわかって、落胆して膝をついた。
シルフィ達は、殿下達とは違う意味で、注目を集めてしまったため、夜会を退場する事にした。
馬車でシェリー様を待っていたが、殿下がなかなか離さないようだったので、キール様が迎えに行くはめになるのだった。
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