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6.双子の会話

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 シルフィと初めて2人で過ごし、キールはとても有意義な時間を味わった。屋敷へ戻り、今日は休みだと言っていた弟、シエルの部屋へ向かう。

「シエル、帰った。入るぞ」
 ノックをし、返事をまたずに部屋に入る。

「・・・おい」
 キールが部屋に入ると、シエルはベッドに腰掛けて本を読んでいる。しかし、そのベッドには同じ騎士団に所属するミルドレッドが寝ていた。

「静かにしてよ・・・ミルが起きちゃうでしょ?」
 シエルは、ミルドレッドの髪を撫でなでる。

「また、泣かせたのか・・・。いいかげんにしないと嫌われるぞ、わざと嫉妬ばかりさせて、毎回彼女がつっかかってくるのを楽しむな」

「煩いな・・・。これが僕が彼女の愛情を確かめられる唯一の方法なんだから仕方ないでしょ。素直にならないミルも悪いんだよ。そっちこそ、彼女とやっと話ができるようになったんじゃないの?報告にでもきたわけ?」

「お前は歪んでるな・・・まずは、ミルドレッドを帰してから話をする」

「はあ・・・1番の邪魔物が兄だなんて、僕はなんて可哀想なんだろう・・・・・・ミル、ミル、起きて?寝顔見られちゃうよ。ミルが構ってくれないと、別の令嬢と出かけちゃうよ?」
 シエルはミルドレッドを揺さぶり起こす。最後の言葉にミルドレッドは目を開いて勢いよく起きた。

 「それはだめーーッ」

「なら、僕にミルの時間頂戴。久々に庭でお茶でもしよう」
 シエルはミルドレッドの手を引く。

「おいッ」
 キールは、シエルに一瞬で忘れられて、声をかける。

「あっ、忘れてた」
 シエルは本当にキールの存在を忘れてたようだ。ミルドレッドの事になるとシエルは視野が急に狭くなる。

「えっ、キール?」
 キールのつっこみで、存在を認識したミルドレッドが、シエルの背から顔をのぞかせた。

「いいかげんに、ミルドレッドも伯爵令嬢として、きちんとしろ。いくら幼馴染だとしても、男の部屋で寝るな」

「・・・はい」

「ちょっと、勝手にミルを怒らないでよね。眠らせたのは魔法でだから、寝ちゃうのは仕方ないんだから、ミルを怒っていいのは僕だけだよ」
 シエルはミルドレッドを庇って自分の主張をしたようだが、聞き捨てならないことが聞こえた。

「シエル・・・、そんな魔法の使い方は間違ってるだろ、後遺症はないが、無闇に使うな」

「はいはい、これもセラピーの一つだよ。別にいかがわしい事するつもりで眠らせたわけじゃないんだから」
 
 キールはシエルの発言に頭を悩ませる。 

「キールは早く僕に構ってもらいたくて仕方ないんだね。ミルとの時間もまだ、取りたいけど、今回は我慢してあげる。ミルも我慢ね・・・」
 ミルドレッドはキールをジト目で見てきて、次は絶対ねと、シエルと約束をして、部屋を出て行った。


「じゃーどーぞ。お待たせ兄さん」 
 シエルはキールの話を聞くため、ソファに腰掛ける。

「今日聞いたんだが、シエルはシルフィ嬢と面識があったんだな・・・」

「ん?そうだっけ?」
 シエルは首を傾げている。

「図書館で、本をとってもらったと言っていたぞ」

「んーミントグリーンの髪の子?なんか認識阻害の魔法の気配がする・・・」
 シエルはやはり、ミルドレッド以外は興味もないようだ。

「ああ」

「本取ってあげただけだしな・・・それが何?もしかして何か疑ってたりする感じ?」

「いや、今の感じで理解した・・・、もしかして意図的に関わりをもったのかと思っただけだ」
 シエルが面白がって、関わった事を内緒にしていたのかと勘繰ってしまう。

「えー、兄弟で信用ないな。確かに彼女、美少女だったけど、僕にはミルがいるから眼中にないよ」

「言い方・・・ムカつく。お前の眼中になくて結構だ。今後もミルドレッドだけ構ってろ、そして愛想でも尽かされろ・・・」

「ちょっとッ、怖い事言わないでよ。何?今日は初めて彼女と2人で過ごせたのに機嫌悪いわけ?」

「お前のせいだろ・・・彼女との時間は充実していたさ。やっと少し前に進めた気がする。彼女の周りは姉達の防御が素晴らしいからな。まずは姉達を納得させないと、近づけさせても貰えなかった。彼女との時間に何度求婚したくなったか・・・だが、これも姉達に与えられた試練だ・・・。なかなかに我慢が辛いが・・・」

「僕だって我慢してるよ。我慢はお互い様だよ・・・、でも絶対に諦めたりはしないけどね」

「それは、当然だ。俺たちは諦めがわるい」
 双子で、見た目の差はあるが、やはり考えはとても似ている兄弟なのであった。
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