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5.初めての2人の時間

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 待ちに待った、キール様が訪ねてこられた。リズリーお姉様がお出迎えして挨拶し、少し話される。きっと今後は妹が相手をして、姉達の求婚者である彼を見極めるという話でもしているのだと思う。
 
 リズリーお姉様と話をされていたキール様が笑みを浮かべてお礼を言っているのが聞こえた。

 キール様の笑みがお姉様に向けられていて、胸が苦しくなった。あんな笑みを姉に向けるのだから、やはり自分には可能性がないのだと、既に気分が沈んでしまう。


「シルフィール嬢、これからお相手をよろしいだろうか」

 シルフィは、キールが既に近くに来ていた事に驚いてしまい、声が上ずる。
「ハッ、はい。よろしくお願い致します。よければシルフィと呼んで下さい」

「ありがとう、そうさせてもらおう・・・シルフィ嬢」
 キール様が自分の名前を口にされる。それだけで、とても嬉しくて、むず痒い。

「今日は、フィーが初めてお相手させて貰うから、庭に席を用意したわ。お茶を用意しているから、ゆっくりしていらしてね。約束は忘れないように気をつけて楽しまれるといいですわ」
 リズリーお姉様は、キール様に一礼して、私の頭を撫でて行った。

 キール様を庭に案内する為、歩き出そうとするとキール様が話しかけてこられた。
「フィーとは・・・あなたの愛称か?」

「あっ、はい。小さい頃から姉達にはそう呼ばれています。姉達以外はそう呼びませんが・・・」
 シルフィはキール様がもしかしたら、呼んでくれるかと期待してしまった。

「そうか、可愛らしいなと思ってな・・・。婚約者に認められたら、呼ばせてくれ」

「・・・はい」
 姉の婚約者になったらか・・・、義理の兄になるキール様には呼ばれたくはないと思ってしまい、返事が小さくなる。

「・・・すまない。嫌ならいいんだ。姉妹だけの特別な呼び名なら無理には呼ばない、呼んだら姉君達に叱られそうだ」

「・・・いえ、そういうわけではありません」

「では、庭までエスコートしても宜しいだろうか?シルフィ嬢・・・」
 キール様は優しい笑みで腕を差し出してくる。

 シルフィは望んでいた、初エスコートに少し戸惑いながらも、キール様の腕に手を添えた。騎士なだけあって、布越しでも筋肉があるのがわかる。そんな事を考えてしまい少し恥ずかしくなった。

「今日はこの前と違った雰囲気のドレスだな。とても可憐で似合っている」

「ありがとうございます。お姉様が選んで買って下さった中でもお気に入りなんです」
 シルフィはキール様は、この前姉が注意した、容姿をほめるという事をきちんと、実践しているなと思った。注意されたから、言われているだけで、ただのお世話にしか聞こえなかった。

「姉上はあなたが似合うものをよくご存知のようだな・・・うちの弟も妹に似合う物をよくプレゼントしているよ。そのセンスは自分にはないから羨ましい・・・。妹は迷惑そうにしているけどね。シルフィ嬢のように喜んでもらえるのならよかったんだがな」

「弟さんとは、治癒師のシエル様の事ですね。この前お会いしました」

「・・・・・・どこで?」
 キール様は少し眉をひそめられた。

「?・・・王立図書館です。治癒魔法の本を持っていましたね。届かなかった本をとって頂きました」
 シエル様はキール様とは雰囲気も違うし、顔も髪も違った。

「そうか・・・シエルからは聞いてなかったな」

「話すほどの事ではなかったのだと思いますが・・・。キール様とシエル様は双子ですが、見た目は似てはいないんですね。シェリー様と似ていたので、去られてからキール様の弟様だと気付きました」
 
「そうか・・・。シルフィ嬢は、その・・・シエルのような男の方が好きだろうか?あいつはよくモテる」

「確かに、よく令嬢達に囲まれていますね・・・。私は賑やかな方は苦手ですね。あっ、別にシエルが煩いとかではなくてッ、えっとッ」

「いや、あいつは煩い・・・、間違ってはいない」


「ですからッそうではなくてッ」
 言いたいかったことが、シエル様の悪口みたいになり、キール様の印象を悪くするかもと、シルフィは焦ってしまう。

「ふっ、大丈夫だ。わかっている。ついな・・・焦る様が可愛らしくて、すまない」 

「えっ、揶揄ったんですか・・・?キール様でも揶揄ったりされるんですね」

「あー、以外だったか・・・不快にさせたならすまない」

「いえ、大丈夫です。あっ、着きましたね。キール様あちらのテーブルへどうぞ。私がお茶を入れますね」
 シルフィは、その後も姉が呼びに来るまでの間、キールといろいろな話しをする事ができ初めての2人の時間を満喫したのだった。
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