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73.私達の結晶
しおりを挟む彼の屋敷に滞在し、数週間がたった・・・。仕事から戻ったレナードは、いきなりディミドラにつめよってきて、なんで何も俺に言わないんだと言った。
ディミドラはレナードの言う意味が分からず、困惑する。彼に何を言うのかさえも、わからない。
「何故、何も言ってくれない。黙っているつもりだったのか?黙っていても、獣人には匂いでわかるんだぞ・・・。ずっとデラから言われるのを待っていたが、俺には教えたくないのか?」
彼はディミドラに何か言ってほしいようだが、本当に心当たりがなかった。
最近彼は、ディミドラに触れはするが、パタリと求められなくなっていた。ほぼ毎日求められていたのにだ・・・。彼はディミドラを大切にしてくれていたし、ディミドラも特に不満だったわけではないのだが、不安ではあった。
そして、今日のこの質問だ。
「・・・何を言ってるのかわかりません。なんでいきなり帰ってきて、そんなわけのわからない事を言うのッ」
自分は彼に無意識に何かをしてしまったのだろうか・・・。それすらよくわからないのに、責められるように言われ、何故か涙が溢れてしまった。
ディミドラは、決して涙なんて滅多に見せないのに、彼に言われた意味がわからない言葉で、ひどいことを言われたわけではないのに涙が出て、自分でも驚いてしまった。
「泣かないでくれ、泣かせたいわけじゃないんだ。ただ・・・何故何も教えてくれないのだと不安になってだな・・・」
レナードはディミドラを抱きしめてくる。
「・・・だから、本当になんの事を言っているんですかッ」
意味がわからない事を繰り返す彼に、ディミドラは段々怒りの感情も出てきてしまう。
「気づいていないのか・・・?」
「何ですか・・・」
「・・・おなかに子がいるのにだ」
彼がディミドラに告げた言葉は衝撃だった。彼はふざけているわけでもなく、真剣そのものの表情をしている。
「・・・・・・子、ですか。そういえば月のものは・・・来てませんが」
彼はディミドラが妊娠していると言う。
「本当に気づいてなかったのか」
「普通、気づきますか?遅れて、まだそんなにたってませんけど」
ディミドラにはまだ妊娠の症状は特に感じられなかったので、まったく気づかなかった。
「匂いが変化するから、獣人にはわかるんだ。俺はデラから言われるのを楽しみに我慢してたが、言ってもらえないから、気が気でなかったんだ」
「気づいてないんですから、仕方ないです」
彼に抱きしめられながら、自分が妊娠している事実を喜んだ。
ディミドラはその後、きちんと医師へ診察をしてもらい、妊娠のお墨付きをもらった。早く結婚したいという彼の要望で、すでに準備し始めていた結婚式をさらに早めて、お腹が目だたない5ヶ月くらいで式をあげた。
おなかに負担が少ない、エンパイアラインのチュールスカートのドレスで、裾からはレースが見えてエレガントな可憐さがあった。式は常にレナードがそばにいて、相変わらず甲斐甲斐しくしてくれ、彼の愛情が感じられたのだった。
そして、出産予定日を過ぎて、ディミドラは男児を出産した。
レナードに似た黒髪の上位種の獣人で、顔はディミドラに似ていている。聞いていた通り、耳と尾があり、可愛好きてディミドラは我が子を片時も離したくなかった。
ララはディミドラの子の乳母になるため準備していたが、ディミドラの懐妊を聞いたのが遅かったため、今回は乳母になるのを諦め侍女として領地から付いてきた。
ララの彼も、ララと同じく職場をこの屋敷の護衛として雇ってもらい2人も夫婦になったようだった。
レナードが我が子にやきもちを妬くため、必ず貴方に似ていて愛おしいの、と上手く言いくるめたり、出迎えを必ず我が子としてパパが帰ってきましたよ、と言って父親を意識付けた。
子だけではなくレナードもちゃんと甘やかす事で、束縛を回避している幸せな毎日をおくるのだった。
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