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69.彼の思惑

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 パーティーは騒動もあり、参加者達は大半が帰って行った。


 彼は、男爵夫人が連れられるのを見届け帰る、と言ったのでディミドラも側で見守ることになった。

 しかし、男爵夫人はディミドラ達の前を通る際に抵抗し、レナードに縋りよる行動にでてきた。


「私はあの女にはめられたのですッ、私が本物の彼の番です。レナード様ッどうか騙されずに、真実を見極めてください。あの女は他の獣人をも惑わせるような術をもっているのです!あの女を信じるという事は、貴方も惑わされていらっしゃいますッ、私なら貴方を正気に戻すことができます」  
 目の前の彼女はレナードに縋りつき、彼も惑わされているのだと言い放った。彼に触れているのを見て、ディミドラは不快な気持ちになった。


 彼も彼で顔をしかめている。


「俺も、惑わされていると?」
 だが彼は、しかめ面をしながらも、彼女を振り払おうとはしなかった。


「そうですッ」
 そんな彼に彼女は訴え続ける。


「・・・俺が惑わされているというのだな。ならば、俺を正気に戻してみろ。上手くいかなければ・・・お前はさらに罪が重くなるだろう。それでも構わないならやってみるといい」
 彼は挑発するように彼女に言った。彼が何を考えているかはわからないが、ディミドラは不安になる。


 リンジェーラは、血を流さないと副長を正気に戻せなかったというのに・・・彼はもう一度してみろと言うのだ。


 何か秘策があるのかと考えるが、彼の事だから、まさかディミドラにも同じ事をさせる気だろうかと疑ってしまう。


「わかりました」
 彼女はチャンスと捉えたのだろう、失敗した後のことは考えてはいないような、自信がある目をしていた。


 彼女はレナードに屈むようにお願いし、彼の首に手を回して抱きつく。ディミドラとしては、目の前でされて気分のよい行動ではない・・・彼はディミドラの婚約者なのだから。



「レナード様、レナード様は私を信じてくれますよね。私が正しいと・・・証明してください」
 彼女は彼に抱きつきながら、口角をあげてディミドラの方をみてきた。


「・・・」
 彼は男爵夫人に返事はしなかったが、未だ抱きつかれているのがたまらず声をかけた。


「・・・レナード」
 ディミドラの声は不安のためか弱々しく、小さいものだったが彼はこちらを向きディミドラを見つめてきた。


「大丈夫だ。デラ」
 ディミドラが声をかけると、彼はいつもの声色で返事をする。



「そんな・・・」
 男爵夫人は、レナードがディミドラに反応を示したため信じられないという顔をし、彼から離れて力なく座り込んだ。


「俺はゾディアスのようにはいかない・・・残念だったな」
 レナードは彼女を見下ろして冷たく言い放った。そして部下へ彼女を連れて行くようにいうのだった。

 





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