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67.彼女の匂い
しおりを挟む彼への気持ちに気付きながら、狡い私は彼を受け入れる理由を探した。そんな狡い私の事を、彼はただ素直でないだけだと言ってどこまでも甘やかす。
彼になら甘えてもいいのだろうか・・・。彼を私の拠り所にしてもよいのだろうか・・・。ただただ甘やかされ、愛を捧がれていいのだろうかと・・・。
彼の口付けに身を任せながら、彼の愛を感じる。彼の愛に応えるように、ディミドラは逞しい首に手を回して擦り寄り、自分から唇を押し付けた。
「んッ」
ディミドラの行動に、彼は枷が外れたように荒々しい口付けに切り替えてきて口内を蹂躙してくる。互いの視線が溶け合うように絡まって、頭が熱に浮かされてしまった。
「デラッ」
彼に名を呼ばれ、自分も彼の名を呼びたくなった。
「・・・レナード」
羞恥で小さくではあるが名をつぶやく。
「ッ」
小さい声だが彼はしっかり聞き取ったようで、ディミドラが名を口にしただけで、破顔し喜んでいるのがわかった。そんな彼をみてディミドラも笑みを返す。
「今日はもう帰ろう・・・帰ってじっくり」
彼が帰ろうと言って、さらに続けようとした言葉は、会場から聞こえていた音楽の乱れと、ざわつきによりかき消され、最後まではわからなかった。
何かあったようで、今までの彼の表情が険しいものに変わっていた。彼は何かに気がついているようだ。
「何があったんでしょう・・・会場に戻りますか?」
「ああ、甘い血の匂いがしている。惹かれるようなな・・・」
彼の表情は険しいものではあるが、彼が言った惹かれるという言葉にディミドラは不安になった。
「この匂いはリンジェーラ嬢のようだ」
「えッ?ならリンジーは怪我を?早く見つけないと、リンジーが危険かもしれないわ」
リンジェーラの匂いは獣人を惹きつけるため、彼女の身が心配になった。彼女がまたあのような思いをしたらと思うと、いてもたってもいられず、彼に下ろすように言った。
「彼女の所に行く気か?・・・本当は待っていて欲しいが、待つわけがないか。・・・行きたいなら、俺が連れて行くからむやみに先走るな。匂いで場所ならわかる」
彼はディミドラが大人しく待つことはないと、ディミドラがしたいことをちゃんと理解してくれていた。
彼にエスコートされて会場に戻ると、獣人であろう人達が何人もバルコニーに向かっていた。
彼らの向かう先にリンジェーラがいるのは確実だろう。
会場にいる獣人達の様子に、人族は何が起きているのか理解ができず奇怪な目で彼らの行動を遠巻きに眺めていた。
「これから先は俺が確認してくる。ここからなら見えるだろうから、これ以上は近づかないでくれ」
ディミドラはリンジェーラが心配だったが、彼にまかせることにする。
彼が向かうとすぐに、遠目から獣人達が膝をつき出したのがわかった。彼が何かしたわけではなさそうで、彼とは違う者の圧を感じた。
しばらくして、リンジェーラが副長に抱えられて現れる。副長に身体を預け、顔を伏せていたけれど、耳が赤いのが見えた。きっと番だと言えて、うまくいったのだと思い彼女の事は彼に任せることにし、ディミドラはレナードの仕事ぶりを眺めて待つ事にした。
彼は団長らしく指示を出していて、いつも強引か甘い雰囲気の彼しか見てこなかったので、いつの間にか見入ってしまった。団長として仕事をしている彼は、昔ディミドラがかっこいいと思った堂々と威厳がある姿だったから・・・。
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