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62.彼女の番

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 彼がディミドラを番だと言い、今までの事を彼女に説明すると黙りこんだ。
 話を終えるとすぐに彼女は、これ以上はお邪魔だと思うからと言い何故かいきなり帰って行ってしまった。

「すまなかったな・・・。姉にも、まだ番だと話す気はなかったんだが・・・」
 彼はディミドラに髪を弄りながら口籠る。


「いつかはわかる事ですし、貴方が決めたのなら問題はないかと。でも何故番だと言ったら急に帰ってしまったんでしょうか?」
 ディミドラは疑問を彼に問うてみる事にした。


「・・・姉には番が居たんだが・・・姉のタイプではなくてな・・・。それに番が現れたその時は、姉には婚約する予定の好きあっていた相手がいた」      

「タイプでなくとも、番同士なら惹かれ合うのでは?」


「番相手は姉に求愛をしてきたが、姉には番よりも、その時付き合っていた相手が1番だったんだ。少なからず姉にも番に惹かれるところはあったはずだが、姉が選んだのは番ではなかった」
 番を目の前に、番ではない相手を選んだ事にディミドラは驚いた。そんなこともあるのかと・・・。


「だが、相手は・・・姉の番が現れると姉を思って別れをきりだしてな・・・。彼は人族だったから、番同士その方が幸せになれると言って姉と喧嘩になってな。そのまま喧嘩別れして・・・今も拗れたままなんだ。だから姉は自分よりも俺が先に婚約する事が許せないんだ。まあ、ただの嫉妬だ。迷惑な話ではあるがな」
 彼は迷惑とは言いながらも、そんな表情ではなかった。


「番の方はどうなったんですか?」


「姉に拒否された事でショックを受けていた・・・。だが、姉が相手の子を宿したのがわかり、番の男の執着が和らいだんだ。姉は絶対に番を受け入れる事はないと言っていたから、番の男は自ら番の事をわからないようにする処置を選択した。姉が俺に言った羨ましいという言葉は、自分の番が喧嘩別れしてしまった彼だったらよかったのにと思って出た言葉なんだと思う」


「子がいらっしゃったんですね。復縁はされないんですか?」


「子がいる事は相手には知らされていない・・・。姉は意地を張って会いに行こうとはしなかったからな。自分のためと逃げた男に、子がいるから寄りを戻すなんて言われたら嫌だとな。姉は頑固だからきめた事はなかなか曲げないんだ。もう5年もたつというのにな・・・あいつは未だ独身をつらぬいているのだから、今でも思われているのは理解していそうなんだがな。きっかけがないのかもしれないな」
 ディミドラは、自分がその立場ならどうしただろうかと考えてしまった。


「必ずしも番だから、獣人同士であっても、惹かれるのではないのですね」
 

「必ずしもと言うわけではないが・・・。もちろん惹かれるものもいるし、種族でも多少依存の仕方や執着度が変わってはくるな。近しい者で言えばゾディアスは番の匂いを嗅いだ日から他者オンナは受けつけなくなったな。まぁ俺も似たようなものだがな」
 彼もディミドラ以外ではダメなようだ。


「そう思うと・・・俺の番がデラなのは幸運な事だった。もともと惹かれていたのだからな」
 彼はディミドラの手を取り口付けた。ディミドラはここで、未だに彼の膝の上にいた事に気づき、降りようとしたのだが、やはり捕まえられてしまい、抱き上げられて部屋まで運ばれるのだった。


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