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57.彼の屋敷
しおりを挟む支度が整い軽く食事をしてから、王都に向かって出発した。荷物は最低限で良いと言われ、ディミドラは彼の愛馬に乗せられた。
陽が沈む前には彼の屋敷に到着し、屋敷の者たちから歓迎をうけた。彼の屋敷の者達は獣人が半数をしめていると教えられ、ディミドラの世話をする者を紹介された。
「俺がいない間は、この者達に世話を任せるから、なんでも言うといい。明日は仕事だから、その間に用意しているドレスの試着をしておいてくれ」
どうやら彼は、パーティー用にディミドラのドレスを誂えていたようだ。
その日の夕食や湯浴み、ほぼ全て彼に尽くされた。ディミドラに紹介された侍女がするかと思ったが、彼がいる時は指示がない以外は、手を出さないよう言われているようだった。
最初は戸惑ったが、これが獣人の番に対するものなら仕方ないと観念し受け入れた。尽くされながらもボディタッチはあるが、それ以上は何もしてこなかった。
番でなくとも、伴侶として認めた者には尽すのが当たり前のようで、屋敷の者にもまだ番と伝えていないが怪しまれる事もなかった。
もちろん夜は彼の寝室で一緒だったのだが、求められることはなく、ただ抱きしめらるだけで済んだ。退化も戻り、ディミドラがそばにいるだけで満たされるんだとか・・・。
毎日のように求められるかと構えていたのだが、そうでないと知り安心して寝れた。
「早めには帰る。頼むから屋敷外には出ないでくれ・・・」
彼は仕事に行くまえに、見送りに出たディミドラに屋敷からは出ないように言った。
「はい。屋敷外には出ないとお約束しますから、早くいってらっしゃい」
「・・・・・・」
彼はディミドラが返事をしたのに何も言わずにじっと見てくる。以前脱走したことがあるから、疑っているのかもしれない。
「今回はちゃんと約束しましたから、破りませんよ?」
疑り深い彼に、今回は破らないと言う。前回は別に約束をしたわけではなく、彼が一方的に言っただけだから約束したとは言えない。
ディミドラは了承したわけではなかったからだ。前回は約束を破ったうちには入らないとディミドラは思っていたが、彼を早く仕事に行かせるため、約束すると言ったのだった。
「いや・・・そうではなくてだな・・・」
だが彼は、まだ納得しないのか、何かいいたげだった。
「なんですか?」
何やら照れ臭そうにしているように見える。
「見送られると・・・だな。もう俺の妻のようで・・・嬉しくてな。もう一度いってらっしゃいと言ってもらえるか?ついでに口付けも」
彼はどうやら、ディミドラが言った言葉に歓喜していたようだ。さらに上回る要求まで言ってきた。
「人目があるので遠慮します。早く行って下さい」
ディミドラがあしらう様に言えば、彼はいきなり周りにいる者達に後ろを向く様に指示してしまい、ドヤ顔をした。
「これなら問題ないだろう?誰も見ていない」
指示をしたため誰もこちらを見ていないが、ディミドラが行動しなければ、彼らはずっとこのままだろう。本当に彼の行動には呆れてしまう。
「今回だけですから・・・強要したら脱走します」
ディミドラは呆れつつも、少し屈んだ彼に応えて口付け、彼の希望の言葉を告げた。
だが、彼が1度の口付けで満足する訳もなく、数回繰り返されたのち、我慢が出来なくなったディミドラに怒られて、彼はやっと出掛けていくのだった。
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