上 下
55 / 75

54.彼の獣耳

しおりを挟む


 ディミドラに無理やり迫らなかったために退化した彼を、眺めながらディミドラはため息をついた。

「なら、発散したら・・・この耳は元に戻ってしまいますか?」


「・・・そうだな。戻るだろうな」


「・・・」
 ディミドラはしばし考える。発散しなければ元には戻らない。でもお互いに触れ合うなら、発散する行為の流れにはなってしまうだろう。
 
 だが、やはり触りたいと・・・。


「この状態が長く続けば、後でつらい状況になるのは君だがな・・・」
 彼は不吉な事をいう。


「・・・それは、どういう意味ですか?」


「そのままの意味だ・・・。退化が長いと、理性が薄れる。番への執着が増し優しくなどしてやれなくなるぞ」
 そういえば、ララもそのような事を言っていたなと思い出す。


「聞く耳を持たなくなると言う事ですね・・・」
 それは確かにディミドラが受ける被害が目に見えていた。


「わかりました。どうせ元に戻さなくてはならないなら、しっかり堪能させてもらいます」
 ただの獣になられるよりはマシかと考え、ディミドラは彼を見た。


 ディミドラは抱え上げられ、バスタブからでてバスローブを着させられると、髪を軽く乾かされた後、ベッドに運ばれた。


 彼はディミドラに尽す気満々なようで、既に甲斐甲斐しい。

 
 ベッドの背もたれに彼は身体を預け、ディミドラを上に抱えて跨がせるように座らせた。そして、彼は獣耳をディミドラの前にさしだすように頭を下げてきた。

「触ってもらっていいぞ」


 獣耳は柔らかくて、毛はふわふわだが弾力があった。ディミドラは感触に見た目にやられ、表情がにやけてしまった。


「ふわふわですね。気持ちいい・・・」
 ディミドラは遠慮なく彼の獣耳を堪能した。


 その間彼は動かず、身体が度々ぴくついていたのだが、ずっと耐えていた。
「そんなに好きか?」


「はいッ。私、動物と触れ合う事がことがなかったので、こんな風に触るのが初めてで。癒されますね」


「こっちは違う感情だがな・・・。そんなに好きなら早く俺の子を産んで愛でるといい、子は成長するまで耳と尾があるからな」
 彼には勝負をして負けたので、婚約は前向きに見当はしようと思っていた。
 だが、彼がいつまでも番の枠でしかディミドラを見ないならば、ディミドラにとっては幸せな結婚とはいかないかもしれない。


「獣人の子は更に可愛らしいでしょうね・・・」
 彼と結婚すれば、番だから子は成しやすいだろうし、獣人の確率はかなり高いはずだ。


「デラと俺の子だ。可愛いだろうな・・・」
 彼は、もう先の未来を考えているようだ。


「早く俺達の子を愛でるために、今から子づくりしようか」
 彼は顔をあげ、ディミドラのバスローブに手をかけながら、耳もとで囁くのだった。




 

 
    
















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら竜王様の番になりました

nao
恋愛
私は転生者です。現在5才。あの日父様に連れられて、王宮をおとずれた私は、竜王様の【番】に認定されました。

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

【完結】彼女はまだ本当のことを知らない

七夜かなた
恋愛
騎士団の受付係として働くタニヤは実家を助けるため、女性用のエロい下着のモニターのバイトをしていた。 しかしそれを、女性関係が派手だと噂の狼獣人の隊長ランスロット=テスターに知られてしまった。 「今度俺にそれを着ているところを見せてよ」 彼はタニヤにそう言って、街外れの建物に連れて行った。

呪われた悪女は獣の執愛に囚われる

藤川巴/智江千佳子
恋愛
獣人嫌いとして知られるフローレンス公爵家の令嬢であり、稀代の悪女と呼ばれるソフィアには秘密があった。それは、獣の類の生き物に触れてはならないという悍ましき呪いを体に宿していることだ。呪いを克服しようと試行錯誤を繰り返す日々の中、ソフィアは唯一の友人を救うため、ついに獣に手で触れてしまう。彼女は呪いの発現に苦しみ死を覚悟するが——。 「貴女の身体はまた俺を求めるようになる。貴女はもう、人間のものでは満足できない身体に作り替えられた。この俺によって」 悪女ソフィアに手を差し伸べたのは、因縁の獣人である、獣軍司令官のルイス・ブラッドだった。冷たい言葉を吐きながらも彼の手つきはぎこちなく優しい。 「フィア。貴女の拒絶は戯れにしか見えない」 「——このまま俺と逃げるか?」 「もう二度と離さない」 ※ムーンライトノベルズさんにも掲載しております。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば
恋愛
ビリビリッ! 「む……、胸がぁぁぁッ!!」 「陛下、声がでかいです!」 ◆ フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?! 勢い強めの3万字ラブコメです。 全18話、5/5の昼には完結します。 他のサイトでも公開しています。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

処理中です...