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50.私のケジメ
しおりを挟む戦いが延びれば不利だと、勝負に出ることにした。
魔力操作で攻撃に重点を置き、必要な場所に身体強化を集中させた。彼はこちらを見据えて守る体制ではなく、攻撃の構えで迎えうつようだ。
彼の剣とディミドラの剣が激しく音を立ててぶつかる。彼の力はやはり強く、衝撃をうけるのにディミドラの手は身体強化していても長くはきつかった。
獣人と人族、男と女の力の差なのかもしれない。
彼は切りつけるように攻めて来たかと思うと、すぐに体制をかえてディミドラの脇をかすめる突きをしてきた。
それを見ていた団員から、身体に傷つけたらやばいんじゃないか、さすがにお嬢凹むんじゃ・・・と、身体の関係があるような誤解を与えそうな呟きが聞こえた。
案の定、目の前の彼は勘違いしたようで、目つきが鋭くなる。わざとだとわかるくらい、突きを繰り返して攻めてきた。
ディミドラは彼の素早い突きにバランスを崩し膝をつきそうになる。彼はディミドラがバランスを崩したのを狙い、キメにきた。
だが、ディミドラはバランスを崩しはしたが、まだ完璧に膝をついたわけではない・・・。彼がキメにきた反動を利用して彼自身の剣を捻るように身体で受け流し、彼の方に突き返した。
ガキンッ
ディミドラは彼の剣を弾けたと思ったが、弾かれたのは自分の剣で、ディミドラの首元には彼の剣が突きつけられるのだった。
「そこまで・・・勝負ありだ」
父が勝敗の声を上げた。
ディミドラは、負けたのだ。彼に・・・。
「剣の腕はよかった。先読みも、判断力もいいが・・・俺には及ばなかったな」
彼はディミドラに手を差し出してきた。互いの戦いを認め合ったあとの握手のようだ。
「本当に・・・貴方はお強いんですね。貴方の強さ、自分で確かめられてよかったです」
ディミドラは彼の手を握り、声を発した。最後の攻撃は結構自信があったのに、残念ながら負けてしまった。
彼は目を見開き固まっている。ディミドラは彼の反応に満足して素顔も晒した。
「ふふッ、してやったりですわ」
ディミドラは彼に笑みを向けた。彼はハッとした顔をしてディミドラに怪我の心配をしてくる。
「ッ、怪我はッ、していないかッ?」
ディミドラの身体をベタベタと触ってくる。
「ええ・・・大丈夫ですよ。そんなに触らないでください。皆んなが見ていますから」
「・・・」
彼はディミドラを見つめて、何故か酷く傷ついたような顔をした。
「なら、誰の目がない所でちゃんと確かめる」
彼はそう言うと、ディミドラを抱きあげた。
「ちょッ、怪我なんてしてませんし、自分で歩けますから」
彼はディミドラの声には耳をかさず、父の方へ近づいた。
「辺境伯・・・」
「わかっています。貴方を謀った事は申し訳ない。ただ・・・娘との約束を破り、勘違いして勝手に婚約したのは、父親である私の過ちなのです。最後の悪足掻きくらい、娘の我儘を聞いてやらなくてはなりませんでした。それに娘は頑固なので、こうまでしないと納得しなかったでしょう」
余計な事も述べてはいたが、父は彼に謀った謝罪をした。
「・・・怪我だけではなかった可能性もある。次からこういうことがないように頼む」
彼は父に背を向けて屋敷内へ、ディミドラを抱き上げたまま向かうのだった。
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