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43.私の侍女は獣人
しおりを挟むあれから父とは、陽が落ちるまで話し合った。この婚約は勘違いによるものだから白紙に出来ないかと言ってみたが、父は首を縦にはふらなかった。
それどころか、彼の何が不満なんだと言われる始末・・・。
「彼はおまえが求めていた強い男に違いないだろう。約束を守れなかった事はすまないと思っているが、悪い条件ではないはずだぞ」
父の勘違いによる婚約だが、白紙に戻すのは難しいみたいだから、父としてはディミドラが納得すればいいと思っているようだ。
「いい条件とも思えません・・・。彼が私と勝負をしてくれるなら前向きに考えてもとは思いますが、彼はそれを拒んでいるので」
「彼が勝負を受け入れ、彼が勝ちさえすれば文句は言わないのだな。ならば彼をごまかして、勝負させてしまえばいい」
父はディミドラと同じ事を考えたようだ。
「私も似たような事を考えて、髪の色や目の色をかえる魔導具を用意してますが・・・でも、どう勝負をするように話を持っていったら良いかと悩んでます」
いきなり勝負といっても、変装するのだから、相手にしてくれるのかも怪しい。
さすがに喋ればバレるだろうから、無口か話せないという設定でいけばいいだろうが、やはり協力者が必要になる。
「ならば、戦いの場はこっちの訓練場として、模擬戦を提案してみるか」
父は場所を提供するというが、模擬は模擬で真剣ではない。
「模擬であれば、彼は本気では戦わないでしょう・・・」
「おまえが応援すれば本気に・・・いや、おまえが戦うのだったな」
父は言いかけて、戦う相手が娘であると思い出したようだ。
「勝負して勝った方と、皇太子祝いのパーティーに参加するというのはどうだ?」
「そうですね・・・。彼を煽るためには・・・もっと別の要素が必要かと・・・彼を本気にさせる。怒らせるくらいの事をしなければ無理ではないでしょうか」
彼を怒らせるためには何かいい案がないかと思考するが、これだというものが出てこない。
「怒らせるか・・・レナード殿が嫌いな相手なら本気をだすか?」
「そもそも彼がどういう人が嫌いかなんて、付き合いは浅いですからよく知りません」
ディミドラはますます困ってしまう。
父と良い案が出ずに悩んでいると、夕食の準備ができたことをララが知らせに来た。
「お嬢様、何やら難しいお顔をされていますが、どうされたんですか?」
ララも獣人なので、良い案がないかと、先程の事を話してみる。
「なるほど・・・獣人は番を傷つけられたり、狙うものを嫌います。お嬢様を傷つけるのは出来ないので、お嬢様を取り合う存在と認識させ、敵意をむけられればよいのではないでしょうか。つまり・・・ライバルのような存在ですね」
さすがララだ。獣人の対策は獣人に限る。
「いい案ね。それで私の設定は・・・ライバル的存在ね」
「さらに、お嬢様が好意を抱いている相手とでも言っておけば良いのではないでしょうか。そうすれば彼は勝手に敵対心を燃やすと思います」
さすがララ・・・二度言おう。やはり獣人だろうか、彼と関わりもしないのによく理解している。
「では、適当にレナード殿を訓練所まで案内させて、娘が仲がよい相手が戦いたいと言っているとでもいえば話にのる可能性が高いのだな」
父は作戦を理解したようで、自分がすべき行動の立ち位置を確認した。
「はい。お父様は、重要な役割を担っていますから頼みますね。私は話すと気づかれる可能性が高いので、無口だということにしておきます。なので、うなずくだけで返事をするので、後はうまく話を進めてください」
これで、彼を迎え撃つ作戦が整うのだった。
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