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42.父の勘違い
しおりを挟むリンジェーラに時間稼ぎはまかせて、翌日には一人で辺境伯領に戻ることにしたのだが、やはり一人ではと護衛をつけられた。
好意はありがたく受け取り、早朝には出発し、昼前には到着できた。
そして、帰って早々に父の書斎に乗り込んだ。
「お父様!お話があります」
「帰ったのか・・・。随分早いではないか」
父はいつもどおりに書斎で執務をしており、ディミドラに視線はむけることもせず、仕事の手を動かし続ける。
「予定を早め、ある事を確かめに帰ってきました」
そんな父に少し苛立ちながら、父の気を引くために話しだす。
「なんだ?」
父は仕方なくといった風に、手をとめ視線を向けてきた。
「お父様は、私との約束を破られましたか?私が既に彼と婚約していると聞きました」
父は手がとまり、明らかに目が泳ぎ動揺している。
「・・・ああ、言っていなかったか?」
父は、しらばくれるようで視線を手元の書類に戻した。
「婚約したなど、まったく聞いておりません。・・・それに婚約を交わしたのは、あの日でしょ。彼が屋敷に来て婚約を申し込んで来たとおっしゃっていたではないですか。まさか私の了承もなく、私との約束も違えたと言うのですか・・・」
父は、肩を震わせながら、ディミドラを見てきた。
「・・・仕方がないではないかッ、レナード殿はおまえを番だと言うし既に契りを交わしたと言われたら・・・。それこそ同意のもとだと思うじゃないかッ。レナード殿なら、おまえに勝てそうだと思い姿絵を送り、見合いの場を設けてもいたから・・・とんとん拍子に話が着いたのだと思い・・・それで・・・おまえの、気が変わらぬうちにだな・・・」
父はいつもと違い歯切れが悪い。
自分が勘違いし、婚約を結んでしまったことを気づいていたのにその事実を伝えもしなかったのだから、後ろめたいのだとわかる。
父には約束をしていたというのに・・・。
そんなにディミドラが、納得する強者であろう婚約相手ができて嬉しかったということだろうか・・・。
「つまり、お父様は勘違いして婚約を了承し、その日のうちに婚約までかわしてしまった・・・と、言うことですね」
ディミドラは事実だけを述べる。
だが、いくらやっと現れた好条件の人でも、婚約するのはディミドラだ。ならばきちんと本人に了承をとるなり、間違いならば真実を本人に伝えるなりするべきだと、父に対し怒りがわく。
「・・・ああ、だが、彼はおまえよりも強いし、番ならば大事にされるから幸せではないか」
父は相手が大事にしてくれたら幸せと捉えるのか・・・。
「彼からの一方通行な思いだけで、私が本当に幸せになると思っているんですか?番なだけで愛してもらえる、ただ幸運な女だなんて私はごめんです。私は番だからではなく、私だから好きになってくれる人がよかったです。お父様は私が貰い手がなくなる前にと思われたんでしょうけどね」
「そんなことは言っておらん。・・・だが、おまえは彼が好きだったろう。幼い頃に彼と結婚したいと言ったではないか。だから今回は相違の上の流れなんだと・・・だな」
父は私が8歳の時の言葉を勘違いして、今も彼をすいていると思っていたというのか・・・。だが、あの日のディミドラの態度に間違いだと気づいたのだろう。
「彼を好きだった事はありません。初めて彼を見た時に、彼みたいな強い人と結婚したいなと言った覚えはありますが・・・彼と結婚したいなどとは、言ってません」
父は記憶違いで婚約をしたのだと、はっきりとわかった。
だからといって勘違いで交わした婚約はお断りしたいので、これからの事をどうしようかと父と話しあうのだった。
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