獣人の番!?勝手に結んだ婚約なんて破棄してやる!〜騎士団長の求愛と番の攻防〜【完結】

ドール

文字の大きさ
上 下
43 / 75

42.父の勘違い

しおりを挟む


 リンジェーラに時間稼ぎはまかせて、翌日には一人で辺境伯領に戻ることにしたのだが、やはり一人ではと護衛をつけられた。

 好意はありがたく受け取り、早朝には出発し、昼前には到着できた。


 そして、帰って早々に父の書斎に乗り込んだ。

「お父様!お話があります」


「帰ったのか・・・。随分早いではないか」
 父はいつもどおりに書斎で執務をしており、ディミドラに視線はむけることもせず、仕事の手を動かし続ける。
 

「予定を早め、ある事を確かめに帰ってきました」
 そんな父に少し苛立ちながら、父の気を引くために話しだす。


「なんだ?」
 父は仕方なくといった風に、手をとめ視線を向けてきた。


「お父様は、私との約束を破られましたか?私が既に彼と婚約していると聞きました」
 父は手がとまり、明らかに目が泳ぎ動揺している。


「・・・ああ、言っていなかったか?」
 父は、しらばくれるようで視線を手元の書類に戻した。


「婚約したなど、まったく聞いておりません。・・・それに婚約を交わしたのは、あの日でしょ。彼が屋敷に来て婚約を申し込んで来たとおっしゃっていたではないですか。まさか私の了承もなく、私との約束も違えたと言うのですか・・・」


 父は、肩を震わせながら、ディミドラを見てきた。


「・・・仕方がないではないかッ、レナード殿はおまえを番だと言うし既に契りを交わしたと言われたら・・・。それこそ同意のもとだと思うじゃないかッ。レナード殿なら、おまえに勝てそうだと思い姿絵を送り、見合いの場を設けてもいたから・・・とんとん拍子に話が着いたのだと思い・・・それで・・・おまえの、気が変わらぬうちにだな・・・」
 父はいつもと違い歯切れが悪い。

 自分が勘違いし、婚約を結んでしまったことを気づいていたのにその事実を伝えもしなかったのだから、後ろめたいのだとわかる。

 父には約束をしていたというのに・・・。

 そんなにディミドラが、納得する強者であろう婚約相手ができて嬉しかったということだろうか・・・。



「つまり、お父様は勘違いして婚約を了承し、その日のうちに婚約までかわしてしまった・・・と、言うことですね」
 ディミドラは事実だけを述べる。



 だが、いくらやっと現れた好条件の人でも、婚約するのはディミドラだ。ならばきちんと本人に了承をとるなり、間違いならば真実を本人に伝えるなりするべきだと、父に対し怒りがわく。


「・・・ああ、だが、彼はおまえよりも強いし、番ならば大事にされるから幸せではないか」
 父は相手が大事にしてくれたら幸せと捉えるのか・・・。


「彼からの一方通行な思いだけで、私が本当に幸せになると思っているんですか?番なだけで愛してもらえる、ただ幸運な女だなんて私はごめんです。私は番だからではなく、私だから好きになってくれる人がよかったです。お父様は私が貰い手がなくなる前にと思われたんでしょうけどね」


「そんなことは言っておらん。・・・だが、おまえは彼が好きだったろう。幼い頃に彼と結婚したいと言ったではないか。だから今回は相違の上の流れなんだと・・・だな」
 父は私が8歳の時の言葉を勘違いして、今も彼をすいていると思っていたというのか・・・。だが、あの日のディミドラの態度に間違いだと気づいたのだろう。



「彼を好きだった事はありません。初めて彼を見た時に、彼みたいな強い人と結婚したいなと言った覚えはありますが・・・彼と結婚したいなどとは、言ってません」

 父は記憶違いで婚約をしたのだと、はっきりとわかった。

 だからといって勘違いで交わした婚約はお断りしたいので、これからの事をどうしようかと父と話しあうのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...