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40.彼の婚約者

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 彼の話は適当に流しながら、エスコートされて目的の場所に着いた。どうやら、目的の場所は宝石店のようで、個室に案内されソファに座らされる。


 今までも女性と来ているのだろうなと思いながら、目の前に運ばれてくる宝石を眺めた。


「本日はお越しくださりありがとうございます。こちらがご注文された、天然のブラックダイヤモンドを使用した装飾品にございます」
 店員がディミドラの目の前に並べたのはブラックダイヤモンドのネックレスにイヤリング、髪飾りなどだった。


 どれも彼の髪の色を思わせる。きっと彼はこれをディミドラに身につけてほしくて、作らせたのだろう事がわかる。

「俺の色のアクセサリーだ。君の髪色にも、似合うと思ってな。さすがに黒のドレスは無理だから、アクセサリーだけなんだが・・・。ドレスは俺の瞳の色の物でデザインしてもらうから、今度一緒に決めよう」
 ディミドラは用意されているアクセサリーを見て、何故これを自分が身につけなければいけないのだろうと思った。


 彼の色を纏うのは、婚約者だけだ。まだ彼は条件を満たしてもいないし、自分は何も了承などしていないのにと・・・。
 確かに目の前にある装飾品の数々は、とても綺麗でいつも見る色鮮やかなものではないため、ディミドラとしても惹かれるものはある。


 だか、それを彼が用意したというのなら、これを受け取れば自分が承諾したみたいなので嫌だった。


「このように用意されましても、受け取る事はできません」


「何故だ。デザインが気にいらなかったか?これはもう君のものだから付けて鏡を見てみたらどうだ?似合うと思うぞ」


「気に入らないとか、似合う似合わないとかではありません。私には受け取る理由がありませんし、頂きたいと思いません」
 店員の表情が曇ってしまった。気に入らないと思われてしまったようだ。


「ならば・・・どんなものが好きだ?この店に気に入る物はないか?気にいるものがあれば、それも贈ろう」
 彼はまだわからないのか、ディミドラの様子を探るようにしてくる。


「だから・・・貴方の色のものは受け取れないと言っているのです。はっきり言わないとわかりませんか」
 

「そんなにか・・・そんなに俺の色は嫌いなのか?」
 本当に理解していないのか、彼はまた変なことを聞いてきた。


「別に、貴方の色が嫌いとかいうわけではありません。自分の色を身に纏わせていいのは婚約者だけです。私は貴方と婚約した仲ではありませんから、貴方の色の物を贈られても身に付けるわけにはいきません」
 ここまではっきり言えばさすがにわかるだろうと思ったのだが、何故か彼は困惑したような顔をしていた。


「何を言っているんだ?婚約者だから別に問題はないだろう・・・」
 彼は何を勘違いしているのか、婚約者などと言ってきた。


「貴方こそ何を言っているんですか・・・私と貴方は婚約などしていません。また勝手な事を言わないで下さい」
 彼の勘違い発言は本当に困るとため息がでる。


「そんなはずはない。既に婚約はしているから、君が俺の婚約者で間違いはない。辺境伯は知っている」
 彼は真っ直ぐにこちらを見て言った。


「・・・そんなの聞いてないわ」
 どういうことだろうか、彼が言っている意味がわからない。


「初めて会った日に、辺境伯に婚約の了承を貰って、契約は既に交わしている」
 彼は父が既に了承したと言った。契約まで交わしたと・・・。当の本人が知らない婚約など意味がわからない。私自身は了承などしていないのにだ。


 父に対しても、目の前の彼に対しても、怒りが込み上げてくる。

 勝手に婚約なんてして、私自身がそれを知らなくて・・・。父には裏切られた気持ちだ。一度辺境へ帰り父にことのあらましを聞かなくてはと思った。


 だが、今この苛立ちを彼にさとられると、帰るのも面倒な事になると思い一呼吸おき、平然を装った。この場の装飾類に関しては彼に預かってもらう事にして、今日は早めに別れる事になった。

 もともと、この後も仕事がある彼は、何も言う事はなく屋敷の近くまで送ってから帰って行った。
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