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17.彼の思い違い
しおりを挟む彼から難なく逃げたディミドラだったが、彼は匂いで嗅ぎつけてすぐに追いかけてきた。ディミドラは匂いを誤魔化すために料理街を通ったりして時間をかせぎ、今日の目的であった魔道具の店に到着する。
魔道具はあまり使った事はなかったが、髪色を変えたり、瞳の色を変えたりできるものがあるらしかったので、今日はそれを探しに来たのだ。
姿をかえて、彼を騙して戦いを挑もうとディミドラは考えているのだ・・・。もちろん匂いでバレてしまうので、リンジェーラに誤魔化せる香りを頼もうと思っている。
どうしても、彼の高い鼻をへし折ってやりたかったのだ。自分が守られるだけの女ではないことをしめしたかった。そして、自分が彼の脅威になりえるとも・・・思わせたかった。
実際自分の力がどれほど通じるかは、絶対の自信はないが、簡単に負けるとは思っていない。
無事に魔道具を購入し終えて、店から出ると、いきなり手を取られる。
もちろん手を掴んできたのは、彼だった。
「随分と逃げるのが上手いな・・・だが最後は絶対に俺が見つけ出す」
目的を果たしたので、そろそろ逃げ回るのは終いにする。
「獣人の方は嗅覚が優れているから、探し人は簡単に見つけられますものね。羨ましいですわ」
匂いがあるからわかっただけだろうと言ってやりたい・・・。
「番の匂いは、特に魅力的で惹きつけられるからな。必ずみつけてやれるぞ。迷子になっても、みつけてやるからな、安心しろ」
自信満々に彼は此方をみてくる。
何に安心したらいいのかはわからないし、迷子になんてなるわけがないのに・・・。この男は、ディミドラの事を子どもと思っているのだろうか。子供扱いされるほど、そんなに歳は離れては見えないのに。
「迷子になんてなりませんから問題ありません。大して歳だって違わないのに、子供扱いしないでください」
ディミドラは掴まれた手を払い除けた。今度は普通に手が離れる。
「人族で言うと俺は成人くらいだが、歳はすでに80超えているぞ。獣人は寿命が長い。特に上位種の獣人はさらに長くて150は超えるだろう。だから俺が君を子供扱いしてもおかしくはない」
そういい、今後は完璧に子供扱いだと分かるように頭を撫でてきた。
「貴方が何歳だろうと・・・私はもう子どもという年齢ではないので、扱いをきちんとしてください。撫でるのは禁止です」
関わりがなかったからか、獣人が長命というのをすっかり失念していた事が恥ずかしくなり、頭を撫でていた彼の手を払いおとした。
「現に8年前だったか、君の子ども時代を見ているのもあって、ついな。君は危なっかしい所がある」
ディミドラは、彼が覚えていたのかと少し驚いた。
「そんな子どもの私を襲った、気狂いな獣人はどこの誰でしたかしらね」
子供扱いする癖に、女として抱けるのかと思い、嫌味をかえしてやる。
「絵姿をみた時にはまだ幼いと思ったが、抱きたいとは思っていたぞ。俺が釣書を見て思うのは抱けるかどうかではなく、抱きたいかどうかだ。釣書はよく届くが1番の好みだった」
「私の釣書・・・?」
自分の釣書なんてあったのかと思った。それに彼はディミドラを好みだと、抱きたいと思っていたと言った。
「君の父親から送られて来たぞ、知らなかったのか?」
父が釣書なんて作って、送っていたのは知らなかった。大方父の事だから、この討伐に彼が来たのも手回しをしていたに違いないと考える。
「それに討伐後は、もともと君と見合いの予定だったじゃないか。見合いを了承しているという事は、受け入れる気があるということだろう」
爆弾発言だ・・・。そんなのは父からは一言も聞いていない。ディミドラが求婚者を、ことごとく叩きのめして追い返すから、父が勝てる相手に釣書を送ったということだろう。
「すみませんが、私は聞いてません」
彼は見合いをディミドラが承諾しているから、受け入れていると思い、番でもあって、勢いのままディミドラを抱いたということなのだろう。
だが自分は知らされていないし、何も承諾はしていない。彼にしたら逃げるディミドラがおかしくみえただろう。もしくは結婚前に抱いたので、怒っているくらいにしか思っていないのかもしれない。
彼はディミドラの発言で表情を曇らせるのだった。
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